2019年9月19日 第38号

最近、皆さんが、苛々したり、怒ったのはいつでしょうか? ちょっと思い出してみてください。その時、どのような反応をしましたか?

 「怒り」は日常で誰しもが感じるごく普通の感情で、「怒り」の状態というのは、脳内のノルアドレナリンにより興奮状態になるため、まず心拍数や血圧が上がります。そして同時に、「扁桃体」という不安や恐れを感じる部分も反応しています。このように「怒り」を感じた時の私たちは、興奮と不安、そして恐れが同時に起こっている状態だといわれていて、エスカレートしてしまうと、止めることが難しくなり、関係性においてはトラブルを起こすキッカケにもなります。しかしそれとは逆に「怒り」は自分自身をより深く知るキッカケにもなる、大切な感情でもあります。「怒り」から自分の真のニーズを知り、建設的な話し合いへとポジティブな方向へ変化させることも可能なのです。

 「怒り」をポジティブに生かすには、まず「怒り」について知ること。冒頭でお話した脳の反応もその一つ。脳の反応を知れば、まず「怒り」の状態で人と話をしても、建設的な話し合いにならないのは一目瞭然です。話の前に気持ちを落ち着かせることが必要で、これは子供も大人も同じ。その場合、前回のコラムでもご紹介した感情調整(セルフ・レギュレーション)すなわち、気持ちを収めることが先決となります。自分の怒りを感じたら、その場から離れ、落ち着けるスペースをもうけ、脳の闘争や恐れの反応、それに伴う身体状態にまずは働きかけましょう。

 これは怒りをコントロールすることとは少し違います。コントロールは、怒りの強い衝動を抑えるというアプローチ。それに対して調整の場合、ストレスによる負担を調節、また回復しながら、強く激しい衝動やその頻度を減らしてゆくもの。怒りの衝動を「抑える」か「受け入れ、ケアする」かの違いです。近年、カナダの教育現場や子育て講座などで、この調整力を学ぶことは奨励されています。

 その調整する方法、どのようなものがあるのでしょうか。まずその場から離れて一人のスペース、それも気持ちが落ち着き、安心できる場所にリトリート。そしてシンプルなアプローチとしては、そこで呼吸を整えることができます。また粘土やストレスボールのように弾力のあるものを手で握ったり、砂が流れ落ちる様子を見たり、砂を触ったりも効果的。またお子さんであれば抱きしめたり、背中をさすってあげたりすることも気持ちが鎮まる方法の一つです。このように、まずは脳と身体を鎮めることが大事です。

 気持ちが落ち着いてきたら、次に大事なのは自分の感情を知るということ。「前頭前皮質」に働きかける、です。ここは認知的なスキル、自分をモニターし、理論的に理解する力を司るところで、成長・発達と共に育ってゆきます。従って、お子さんの発達により、怒りをうまく調整できないのは当然で、前回のコラムでご紹介した、親が子供と一緒に調整してあげる(コ・レギュレーション)が必要なのはこの為です。気持ちが落ち着いてきたら、感じていることがどんな感情なのか? 探ってみましょう。

 あれ? 感情は「怒り」だけではないの? と思う方もいるかも知れませんが、「怒り」の下には実に様々な感情が隠されています。怒りの下にある次なる自分の感情・気持ちを知れば、自分の真のニーズにも気づくことができます。それが人との対話を進める上で、また関係修復には必要なステップとなります。次回は怒りの下にある感情と真のニーズについてお話します。

参照サイト: Self-Reg: Self-Regulation vs. Self-Control~ The reason for the profound differences lies deep inside the brain~
参考図書:「しあわせ育児の脳科学」byダニエル・J・シーゲル&ディナ・ペイジ・ブライソン

 


加藤夕貴
MA, RCC ((BC州認定臨床心理療法士)、認定表現アーツセラピスト  想像して創造する遊びの中で、気づきと心の成長を促す、表現アーツセラピーを中心に、バンクーバーと日本で心理カウンセリングやワークショップを行なっている。

HP:http://www.youkikato.com/japanese.html

 

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