2018年11月22日 第47号
私は国宝姫路城がある姫路市で育った。学生の頃は放課後や週末に、友達とふらり姫路城周辺を散歩することが多かった。お城の隣には好古園という日本庭園があり、そこに数寄屋造りの茶室があった。ここに行くと、着物姿の女性が目の前でお抹茶を点ててくれ、季節感あふれる和菓子と共に、和の空間を楽しむことができた。高校生の頃は古典や歴史の授業で、千利休や姫路城なんかが登場したものなら、カラオケに行くよりもこの茶室に足を運びたくなったものだった。「昔の人は、こうやってお茶を飲んでいたのか〜」なんて、制服姿で勝手なイメージを膨らましながら、当時にタイムトリップしていた。
カナダに来てからもふとした瞬間に、あの日本独特の茶室が恋しくなる。「日本でお茶を習っておけばよかった。和菓子も作れたらな〜」なんてよく思う。そんなスキルがあれば、今度は一人で茶室を再現できる。いっそのこと日本に戻って習いに行こうかな、なんて考えていたところ、友達から「和菓子作りの教室があるから、来ない?」というタイムリーなお誘いを頂いた。オタワみたいな小さな町でこんな機会に恵まれるなんて、なんてラッキーなんだろう。
和菓子教室は、私の想像を遥かに超えるすばらしい場所となった。お茶の先生でもあるという和菓子の先生は、着物姿で、和菓子の作り方を指導してくれる。先生のその落ち着いた話ぶりに、教室はあの好古園の茶室のような和の空間に変わる。お料理教室だというのに、ここにいるだけで、癒される。
先生は、自分のことを「わたくし」と呼ぶ。別に珍しいことでもないのだけど、先生が言うと誰よりもかっこよく聞こえるので、いつか私も自分のことを「わたくし」と呼べる日が来るのだろうかと思ったりもする。品というものは、昨日今日で、培えるものではない。せっかく日本人として生まれてきたのだから、女子力よりも日本人力をアップして、いつか先生のような品格のある女性になりたいなと、久々に憧れの人ができてしまった。
■小倉マコ プロフィール
カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で原作も担当。
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