2017年6月15日 第24号

 気が付けばカレンダーはもう6月。最近、遅ればせながら我が家の小さな畑に野菜の種をまきました。真夏のように日差しの強い日が続いたかと思いきや、上着の必要なくらい涼しい日に逆戻りしたりと、今年の天気は気まぐれなところがありますから、はたして収穫はどうなることやら。野菜といえば、近年、肉を食べないベジタリアン(Vegetarian, Vegan)の数が非常に増えています。『The American Journal for Clinical Nutrition』の記事によれば、適切に栄養バランスのとれたベジタリアン食では、充分な鉄分の補給が可能で、しかも血圧や悪玉のLDLコレステロール、BMI(Body Mass Index)を下げたりと、様々な利点が取り上げられています。しかし、ベジタリアンの「適切な栄養バランス」を常に維持するのは現実的には難しく、鉄分の不足による鉄欠乏性貧血のために、鉄剤を求めて薬局へ来る人がたくさんいます。

   鉄欠乏性貧血とは、文字どおり血液中の鉄分が不足して起こる貧血です。血液の成分の一つである赤血球を構成するヘモグロビンは、酸素を体の隅々まで運ぶ働きをしています。ヘモグロビンの合成に必要な鉄分が不足し、赤血球中のヘモグロビンが減ると、体内の酸素供給量が減ることで、だるい、疲れやすいといった症状が起こるようになります。また、階段を上ったり、駆け足をしたりすると、酸素を補うために心拍数が増加し、動悸や息切れなどの症状も起こりやすくなります。

 私達が普段食事で摂取する鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。レバーをはじめとする肉類や魚介類などに多く含まれているのがヘム鉄で、緑黄色野菜に多く含まれているのが非ヘム鉄です。一般的に体内への吸収が良いのはヘム鉄です。ほうれん草は鉄分が豊富ですが、非ヘム鉄なので、鉄吸収を助けるためにビタミンCを一緒に摂取するとより効果的です。

 食事による鉄分補給が不十分な場合、鉄剤を服用することになります。最もよく用いられるのは、Ferrous gluconate(グルコン酸第一鉄)、Ferrous sulfate(硫酸鉄)、Ferrous fumarate(フマル酸第一鉄)の3つです。これらの鉄剤の違いは、1錠中に含まれる鉄の量です。ラベルに表示された含有量を見ると、いずれも鉄塩として300mgと表示してありますが、実際の鉄量としてはFerrous gluconate が36mg、Ferrous sulfateが60mg、Ferrous fumarateが99mgとなります。いずれもジェネリック薬としてかなり手頃な値段(100錠ボトルが$7〜$20)で販売されています。いずれも非ヘム鉄であるため、ビタミンCと共に服用することで吸収率が増加します。

 内服の鉄剤で最も起こりやすい副作用は、吐き気・便秘・下痢・嘔吐・胸焼けなどの消化器症状の副作用です。鉄量が増えるにつれて、消化器症状の出る確率も上がりますから、初めは少ない量から服用することをお薦めします。その他の副作用として、便が黒くなることもあります。

 Feramax(Iron Polysaccharide Complex、鉄多糖類複合体)は150mgの鉄分を含み、消化器系の副作用を軽減するようにデザインされています。副作用が少ないのは魅力ですが、他の鉄剤に比べて何倍も値段が高くなっています。(30カプセルで$30〜)

 もう一つの値段が高めの鉄剤がProferrinという商品で、ウシ由来のヘム鉄ポリペプチドを11mg含みます。含有量は低く見えますが、ヘム鉄であるため吸収が良いのが特徴です。

 このように、一言で鉄と言っても色々な種類があります。また体内に十分な鉄分を蓄積するには3カ月から6カ月の時間がかかりますので、継続した服用が非常に大きな鍵となります。鉄剤は通常薬局のカウンターの後ろ側に保管されていますので、購入する際には是非薬剤師にご相談ください。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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