2018年6月14日 第24号
認知症の薬、逆流性食道炎の薬、眩暈を抑える薬、吐気・むかつきを抑える薬(実は酔い止め)、便秘薬、整腸剤、骨粗しょう症の薬…。思い出せるだけでも7種類。
母が飲んでいた認知症の薬、アリセプトには、よくある副作用として、食欲不振、吐気、嘔吐、下痢などの消化器症状があります。母の場合もこれらの症状が出たため、それを抑えるための薬を服用していことから、全体の種類が増えました。しかし、この中の一体どれだけが、本当に必要な薬だったのでしょう。
厚生労働省は、今年の2月、高齢者が複数の薬を服用すること(「多剤服用」)によって起きる副作用の解消を目指し、医療従事者向けの初の指針案を提示しました。患者が服用しているすべての薬を把握し、薬の影響が疑われる症状があれば、他の薬への切り替え、もしくは、薬の服用量の減量、使用中止を検討するよう求めるものです。しかし、薬の変更や中止により、高齢者の心身の健康状態に与える影響は少なくないことから、判断は慎重に行うべきとの見解も合わせて指針案に盛り込まれました。ただし、中には薬を欲しがる患者もいるため、薬の服用についての正しい理解を深めるための啓発活動の必要性も浮き彫りになりました。
指針案をまとめるにあたり、全国の保険薬局で調査が行われました。この調査によると、75歳以上の患者の4人に1人が同じ薬局で7種類以上の薬を処方されていること、さらにそのうちの4割が、5種類以上の薬を処方されていることがわかりました。調査は、薬局に来ている人のみを対象に行われたため、すべての75歳以上の人が、これほどたくさんの種類の薬を服用しているということではありません。しかし、この数は、ひとつの薬局で処方されている薬の数で、複数の薬局で薬の処方を受けている人は、さらに多くの種類の薬を服用していることになります。高齢者の多くが複数の持病を抱え、病気ごとに異なる医療機関から、何種類もの薬を処方されている人も少なくないのが現状です。
さて、薬を飲むと、その薬は肝臓などで代謝され、腎臓から排出されます。高齢者の場合、代謝機能が低下しているため、薬の成分を体から排出する機能も低下します。代謝に時間がかかるため、薬が効きすぎてしまうこともあり、特に肝臓や腎臓の持病がある場合は、副作用の危険性がさらに高くなります。薬を6種類以上服用している高齢者は、特に副作用のリスクが増えるという報告もあります。また、複数の薬の飲み合わせによる相互作用で、副作用が悪化することがあります。これは、「処方カスケード」と呼ばれ、薬の副作用で出た症状に対して別の薬を使い、その別の薬の副作用も重なり、悪循環の連鎖が起きることを意味します。しかし、必要とみなされて処方されている薬です。多いことが一概に悪いとも言えません。ですから、医師との相談なく、自己判断で薬を止めたり、量を変えたりするべきではありません。
「多剤服用」による副作用や「処方カスケード」を防ぐには、かかりつけの医師や薬剤師が、患者が受診しているすべての医療機関や薬の種類を把握する必要があります。また、 処方薬だけでなく、薬局で買える市販薬や漢方薬、健康食品やサプリメントも把握するべきとしています。その上で、効果の重複する薬はないか、薬の減量、中止、変更ができないか、非薬物療法や生活習慣の改善で対処できないかを見極める必要があります。また、患者側も、サプリメントの副作用や、薬との飲み合わせで悪影響が出ることもあることを踏まえた上で、医師や薬剤師に服用しているすべての物を伝えることが大切です。処方された薬をただ言われたままに飲む受け身の服用ではなく、自分が飲んでいる薬の目的や効果、服用量を正しく把握しておくことが重要です。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定