2020年2月13日 第7号
赤ちゃんが生まれると、肋骨の下あたりまで大きかった子宮が急激に小さくなって臍の辺りまでになります。更に一週間ほど経つと臍と恥骨の中間ほどにまで小さくなって更に一週間ほど経つと腹壁からは触れにくくなってきます。妊娠初期から徐々に大きくなって赤ちゃんを育ててきた子宮も赤ちゃんが生まれた後は“お役目ごめん!”とばかりに急激に主役の座から退いて今まで脇役で出番を待っていた乳房にその座を明け渡します。子宮がどんどんとその大きさを縮めるのとは反対に乳房はどんどんとその大きさを増してきます。妊娠中はにじむ程度にしか見られなかった乳汁は次第にその量を増やしてゆきます。乳汁の色は産後数日程は黄色調を呈します。ご存知の初乳です。初乳にはラクトアルブミンやラクトグロブリンと呼ばれる蛋白質が成熟乳と比べて約2~3 倍の量で含まれており赤ちゃんにとっては免疫蛋白質として素敵な贈り物になります。日にちが経って行くと、次第にオッパイの量が増えて、赤ちゃんの食欲に対応して行きます。色もだんだんと白っぽく少し水っぽく感じるように変化してきます。赤ちゃんは大体3時間おきにお腹が空いてオッパイを欲しがって可愛い声を上げて知らせてきます。3時間おきに授乳?!ママの寝る時間がない!と思いますよねっ。でもオッパイが張ってくるとママも痛くて目が覚めることが多いようです。何度か多くのママに聞いてみた事がありますが、オナカを空かせた赤ちゃんが一生懸命にオッパイを吸っているあどけない表情を見ているだけでもこの上なく幸せを感じ、生きている充実感を味わうと言われます。女性が妻から母に(ママに)華麗に変身した瞬間なのかも知れませんね。でも、赤ちゃんがオッパイを飲んでいる時に、ママはおなかの痛みを感じる事が有ります。乳頭の吸引刺激が下垂体に伝わると、子宮を収縮するホルモンと乳汁を分泌させるホルモンの両方が分泌されます。赤ちゃんは自分の生命の誕生に命がけで臨んでくれたママに感謝して、可愛らしい笑顔やあどけない仕草で語りかけてくれるばかりでなく、ホルモンの分泌のお手伝いもしてくれているのですね!おなかの痛みは“ママの子宮が早く元の大きさに戻って!”と言う赤ちゃんからの“無言の感謝状”“無言の御礼”なのかも知れませんね!授乳の後にまたオッパイが張ってくるのも、オナカが少し痛むのも赤ちゃんからのプレゼントと思えばいつでも、どこに居ても、いつも赤ちゃんと一緒と思えて、絆は固く結ばれてますます可愛さが、愛おしさが増幅されて行きますネ。きっと、きっとママのママもそう思ったに違いありません。かけがいのない生命を育み、慈しみ、深い愛情で包み、大きく育てと祈りながら子供の成長に心を配って時には喜び、時には不安を、時には嬉しさを…繰り返し繰り返し時代を越えて行われてきた生命の営みでもあるのです。ママのママに感謝!ですね…ここで、ママにお願いがあります。決してダイエットはしないで下さい。水分の補給は充分行って下さい。眠たい時は眠って下さい。…授乳中は乳汁を作る事自体でも相当なエネルギーが必要ですし、授乳以外にも育児や家事でエネルギーが消費されますから充分バランスの良い食事を取りたいですね! 乳汁は殆どが水分ですから、水分の補給は言うまでもありません。多忙なママは睡眠時間が少なくなりがちです。新生児期の赤ちゃんは授乳以外の時は殆ど眠っていますから、ママも一緒に眠って、赤ちゃんに添い寝を“してもらう”つもりで育児をなさることをお勧めしたいですね!“寝る子は育つ”とはよく言われますが、“寝るママも育つ!”でしょうか!?
杉原 義信(すぎはら よしのぶ)
1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。