2016年11月3日 第45号
受精した卵が子宮内膜の存在する場所以外の部位に着床した場合を子宮外妊娠と呼びます。このように文字に書きますと“当たり前”のように聞こえてきますが、実は一見して、子宮の中の妊娠のように見えても(子宮内妊娠)、子宮外妊娠の場合があります。例えば、子宮の中でも子宮の出口付近を子宮頚部と呼びますがこの部位には子宮内膜が存在しませんので、この場所に着床してしまうと頚管妊娠と呼ばれ、あたかも子宮の中のように見えますが、子宮外妊娠です。また、子宮腔から卵管に移行する部位で、なお子宮体部に位置する場所(子宮卵管角・間質部)も同様に(ちょっと分かりにくいと思いますが、我慢して読んでみて下さい)、子宮外妊娠です。
卵管や卵巣、その他子宮以外の場所に着床する妊娠は子宮外妊娠といっても文字の示すように理解し易いと思います。子宮内膜は単純に月経血と関連しているばかりでなく、妊娠の極めて早い段階に、とても重要な役割を果たしているのです。
それでは、子宮内膜の無い所に着床してしまうとどうなってしまうのでしょう。子宮内膜の存在しない場所に着床してしまうと、木の根が地中に毛根を伸ばすように絨毛と呼ばれる微細な組織が生育して子宮の筋肉や血管をも貫き成長します。絨毛は発育して胎盤となって赤ちゃんの成長・発育に重要な役割を果たすべき臓器ですが、子宮内膜は絨毛の発育を子宮内膜の層で留め、それ以上の発育を阻止して、筋肉や血管への侵入を防ぎます。子宮内膜は妊娠が成立しなければ、月経血として排出されますが妊娠の成立によって重要な役割を担っているのです。それでは、子宮外の着床部位として最も頻度が高い卵管妊娠について見てみましょう。子宮外妊娠全体の頻度は全妊娠の約1%(0.5%の報告も有り)と言われ、比較的頻度の高い疾患と言わざるを得ません。
その中で、卵管に着床する卵管妊娠は子宮外妊娠の99%といわれています。子宮外妊娠の殆どが卵管妊娠と言うことも出来ますが、頚管妊娠や間質部妊娠(子宮卵管角)、あるいは、腹腔内妊娠(腹膜や腸、大網などに着床)等も考慮する必要がある事は言うまでもありません。
ここで、妊娠の成立までを振り返ってみたいと思います。排卵や月経周期には個人差が大きく、数字で示す事は難しいのですが、一応、生理の周期は28日型とし、精子については異常を認めないとします。そうしますと、一般的に、月経開始から2週間程で排卵が行われます。排卵した卵は卵管の中で精子と巡り会って受精し、卵は受精卵となって分割を繰り返し、やがてほぼ2週間後には子宮内に着床し妊娠が成立します。しかし、何らかの機転によって、卵管の中で分割を繰り返しながら其のまま卵管の中で着床する結果、子宮外妊娠に到ってしまうと考えられています。あるいは、受精卵が遊走して卵管から卵巣(卵巣妊娠)や腹腔内へ移動、着床の結果生じると考えられています。
その詳細については不明の事が多いのですが、細菌、微生物、等による卵管炎や、子宮内膜症による影響などが考えられています。これらの機転で子宮外妊娠が発生しても、妊娠初期では通常の子宮内妊娠と明らかな違いが見られませんが、卵管の破裂を来たす時は、急激な腹痛を訴えたり、腹腔内出血(おなかの中での出血)が多量になれば貧血の症状や腹部の膨満・膨隆を来たし、生命の危険が有ります。
当然、緊急手術や輸血が行なわれます。子宮外妊娠の症状は破裂前には乏しく、一旦破裂が生じた時には緊急処置を要する危険度の高い異常妊娠です。妊娠する可能性の有る場合には、正常妊娠ばかりではないので、出来るだけ早く医療機関を受診なさる事をお勧めする理由の1つです。
杉原 義信(すぎはら よしのぶ)
1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。