2019年8月1日 第31号
ニューファンドランド・ラブラドール州のニューファンドランド島東部、コンセプション湾に浮かぶベル島は、19世紀終わり頃から始まった鉄鋼石の採掘で有名な島だ。第二次大戦中には、ノバスコシア州シドニー市にあった軍需工場へ向けて、この島から鉄鋼石を満載した運搬船が出港していった。
しかしそれは同時に、敵であるナチス・ドイツ海軍の潜水艦Uボートの攻撃目標にもなった。実際、ベル島沖の海底には、1942年に攻撃を受けて沈没した運搬船4隻(カナダのロード・ストラスコナ号とローズ・キャッスル号、フランスのPLM27号、そしてイギリスのサガナガ号)が横たわっている。さらにそのうちの3隻は、攻撃で命を落とした乗組員の墓標ともなっている。
現在では格好のダイビングスポットとなっている沈没船だが、当時は攻撃に備えて大砲を装備していた。そのため、沈没時に積み込まれていた実弾もそのままになっており、ダイバーが誤って触れるなどして暴発する危険性が以前から指摘されていた。
ニューファンドランド・ラブラドール州フラットロック在住のダイバーで、同州の沈没船保存協会会長でもあるニール・バージスさんによると、未回収の砲弾は合計200発以上になるという。このスポットに50回以上潜っているバージスさんは、後部甲板に設置された大砲のそばに横たわっている砲弾を見つけている。
その危険性を取り除くため先月中旬、海軍のダイバーによる回収作業が開始された。バージスさんも運搬船の当時の船内図などを提供し、回収作業を支援した。回収された砲弾は、現地から45分ほど離れたセントジョンズ近郊の軍射撃場へ搬送、ここで爆破作業が行われた。作業が完了すれば、このダイビングスポットがより安全に楽しめると、バージスさんは語っている。
また20年以上、このダイビングスポットへのツアーを行ってきた会社オーシャン・クエスト・アドベンチャーのリック・スタンリーさんは、このスポットを『海底博物館』と表現する。カナダ、フランス、イギリス、そしてドイツの関係者のみならず、現地で遭難者の看護に当たったベル島の住人も含め、多様な人間関係を築き上げられてきたと、スタンリーさん。
彼はかつて、沈められたサガナガ号の機関長の娘と、それを沈めたUボートの船長の娘を現地に案内するツアーを行ったことがあるという。父親は敵味方に分かれていたが、その子供たちはお互いに敬意を払っていたと、スタンリーさん。またこの時、Uボートの船長の遺品がその娘によってベル島博物館に寄贈されている。