2019年7月18日 第29号
ニューファンドランド・ラブラドール州の州都セント・ジョンズにあるレストランが、食事代を払えないホームレスのために毎日1時間、食事代を無料にしている。
このレストランは、同市チャーチル・スクエアにある、伝統的な中東料理を提供するビッグ・バイト・ピタ。その窓には「毎日午後3時から午後4時の間、ホームレスのために食事代無料」と書かれた白黒の張り紙が、目立たないように貼られている。張り紙が出されたのは、3カ月前のこと。
ここを頻繁に利用するピーター・ボランドさん(27歳)は、州の里親システムの中で育てられてきた。今でも無料の食事のため、いくつかの慈善団体を利用する彼だが、このレストランの雰囲気は他とは違っており、今では見られなくなった真のコミュニティーだと、取材に語っている。
また、今では同レストランのマネージャーを務めているアラー・ナットウフさんも、かつての経験から極貧生活でひもじい思いをすることがどういうことかを知っており、この無料サービスで人助けをしたいと願っている。彼は3年前、難民としてシリアからセント・ジョンズに渡ってきた。一時期は子供たちのパンを買うお金にすら困窮したナットウフさん。「子供のパンのためにお金が必要だなんて、誰にでも言えるものじゃない」と語る。
ビッグ・バイト・ピタのポリシーは、たとえ食事代が払えない人にでも、食事を提供するというもの。しかしナットウフさんが経験したように、メニューをオーダーしておいて払えないと言うのは、きまり悪いもの。そのハードルを下げるため、前述の白黒の張り紙が出されるようになった。
レストランの共同オーナーの1人エマド・エラワードさんによると、この取り組みを始めるきっかけになったのは、1人の来客だったという。
その人物はカウンターにいたエラワードさんに、持ち合わせの3ドルで何か食べられるかと聞いてきた。エラワードさんはこの客に対し、そのお金は取っておいて、とにかく自分の食べたいものを注文するよう勧め、彼が満腹になるのを見届けた。
エラワードさんは約10年前、エジプトから移民してきた。以降、生活のためにいくつかの仕事を転々としてきたが、今のレストランを経営しているのが一番幸せを感じると、取材に語っている。無料サービスを利用する人の数は日によって様々だが、エラワードさんは小さい取り組みではあるが、誰かを助けていると実感できて幸せだと付け加えている。
さらにビッグ・バイト・ピタのこの取り組みを知った一般客が、今度はそれを支援するために寄付をするようになってきたという。ナットウフさんは、他人への思いやりは我々の文化の一部で、自分たちも家族やコミュニティから、そうやって育てられてきたと取材に語っている。