2019年7月4日 第27号
ベビー用品のおしりふきやウェットティッシュなど、そのままトイレに流しても大丈夫とうたっている商品は、本当に流しても詰まりなどを引き起こさないのだろうか。オンタリオ州ロンドン市役所の下水道検査官であるとともに、同州トロント市のライアソン大学の博士課程に在籍しているバリー・オールさんが行った研究によると、満足な結果を出した商品はひとつとしてなかったという。
同大学の都市水道研究室は汚水処理業界の国際基準に照らした厳格な商品テストのために、標準的な都市部の家庭のトイレの下水モデルを構築し、101の商品をテストした。そのうちの23商品には、『トイレに流せる(flushable)』との表示がなされていた。使い捨てワイプ商品の『トイレに流せる』度合いを、こうした基準でテストするのは、恐らく世界で初めてだろうと、オールさんは取材に説明している。
しかし結果として、その基準を満たすような商品は全くなかったと、オールさん。そもそも商品に『トイレに流せる』という表示を掲げることに対する規則や基準は、どこにもないという。その上でオールさんは、トイレに流しても大丈夫なのは、排泄物とトイレットペーパーだけで、トイレはゴミ箱代わりにはなり得ないと断言している。
メーカーは独自の『トイレに流せる』基準に照らし合わせて、『トイレに流せる』商品を作っているものの、その基準は現実の公共下水道の環境とは一致していない上に、メーカーはその基準を改めようとはしないと、オールさんは指摘する。そんな中、今回の研究報告が、テストに合格しない商品には『トイレに流せない』という表示を義務付ける方向にカナダや他の国々の政府を動かすきっかけになればと、取材に話している。
こうした使い捨てパーソナルケア商品による下水道の詰まりの問題は、世界中の自治体で顕著になってきている。一般家庭内で問題が起きれば、その修理費用などで市民も問題意識を持ち始めるが、それが公共下水システムでの問題となると、関心は一気に薄れてしまう。
プラスチックや合成繊維を含んだ商品は、水中では分解されない。逆に下水の中に漂う廃棄オイルや毛髪、デンタルフロスなどと絡み合い、ロープ状の塊に成長して下水管や処理場のポンプなどを詰まらせる。ある調査によると、こうした塊による被害はカナダ全体で年間2億5千万ドルに上るという。
こうした問題に対処するため、日本ではトイレに流したあと、何秒かで水に溶けてしまうような使い捨てワイプやペットの糞用袋が開発されていると、オールさん。
オールさんの研究を資金面で支えてきたカナダ汚水処理協会会長のウィリアム・フェルナンデスさんも、こうした『トイレに流してはいけない』商品による下水システムのトラブルは、カナダ全体で年々増えていると取材に答えている。昨年からは使い捨て商品メーカーが、表示に関する自発的な規則を設定し始めたものの、しっかりした基準の義務化が必要だとフェルナンデスさん。
「消費者は、商品に書かれていることが正しいと信じる。しかしトイレは3つのP(pee, poop, paper)に対応するようにしか作られていない」と語っている。