2019年5月30日 第22号

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州上訴裁判所は25日、トランスマウンテン・パイプライン拡張計画についてのBC州政府の訴えを全会一致で退けた。

 BC州政府は、アルバータ州からBC州バーナビー市まで敷かれているトランスマウンテン・パイプラインの拡張工事計画について、2016年に連邦政府が計画を承認した後、環境問題や海洋汚染を理由に、BC州内に敷かれるパイプラインについてはBC州政府が承認権を有すると訴えていた。これに対し裁判所は、同工事計画は連邦政府の管轄であり、BC州政府に工事を停止する権限がないとの見解を全会一致で決定した。

 トランスマウンテン・パイプライン拡張工事計画は、2016年秋にジャスティン・トルドー自由党政権が承認。アルバータ州エドモントン近郊からBC州バーナビー市までの現存する約1150キロメートルのパイプラインに並列して建設する拡張計画で、完成すればカナダのオイルサンドを現在の3倍となる1日あたり89万バレルまで輸送できることになる。オイルサンド輸出拡大を狙う連邦自由党政権とアルバータ州政府は同拡張工事を推進。しかし環境問題を理由にBC州政府、関係する先住民族、環境活動家、バンクーバー市、バーナビー市が反対し、真っ向から対立している。

 昨年8月BC州最高裁判所が、連邦政府の承認は環境問題への調査不足と先住民族の人々への説明不足だと、工事の差し止めを言い渡した。これにより、連邦政府は改めてカナダエネルギー委員会に環境対策への調査を指示し、今年3月、同委員会は環境対策での不備を認めながらもカナダ経済への貢献が大きいとして改めて承認した。

 連邦政府は今年6月18日に工事計画を承認するかどうかを再判断する。その連邦政府の判断基準に、今回の裁判所の判決は好材料となるとされている。

 しかしBC州政府は、連邦最高裁判所に上訴することを表明している。BC州デイビッド・イービー司法長官は「この問題はカナダの最高裁判所で明確にされるべき案件」と記者会見で語った。BC州ジョン・ホーガン州首相は、「BC州政府に(この問題の)決定権があると確信している」と自信を見せ、BC州上訴裁判所はBC州の主張に同意しなかったが、上訴が妥当と考えていると語り、「判断は司法長官に任せる」と述べた。

 同パイプライン拡張工事については、独占的にアメリカ市場へと輸出されているオイルサンドを海外、特にアジアへと市場拡大を狙う連邦政府とアルバータ州政府が強く推進している。しかしオイルサンドはアルバータ州で主に産出されるため、アジアへの輸出には太平洋岸のBC州政府の協力が欠かせない。

 アルバータ州政府ジェイソン・ケニー州首相は今回の判決について「アルバータ州だけではなく、BC州を含むカナダ全体にとっていい判決」と歓迎した。

 BC州では2017年選挙で州政府が自由党からNDPに交代。NDP政権はグリーン党の協力関係で成り立っているため、環境への影響が大きいオイルサンドの輸送、輸出について、政権交代直後から反対の立場を取っている。

 今後も、BC州からの強い反対は続くとみられている。

 

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