2018年7月19日 第29号
ヌナブト準州ハドソン湾西岸の、人口2600人あまりの町アルビアト沖10キロほどにある島で3日、ホッキョクグマに襲われそうになった子供を守ろうとした父親が、クマに殺された。
アーロン・ギブソンさん(31歳)は同日午後、小学生の娘たちといたところをホッキョクグマに襲われた。ギブソンさんは娘たちにボートに向かって走るよう指示するとともに、自分は娘たちとクマの間にわって入り、子供を守ろうとした。
娘たちは無事ボートに飛び乗るとともに、無線で助けを求めた。実際にこの無線を聞いていたギブソンさんの叔父ゴーディ・キドラピクさんは、それは身の毛もよだつようなものだったと取材に語っている。
ギブソンさんは現場で死亡が確認された。また彼を襲ったホッキョクグマはその後、他の住民によって射殺された。キドラピクさんによると、ギブソンさんたちがいた島はホッキョクグマがいる島で、ギブソンさんはライフルを所持していたはずだった。しかし連邦警察(RCMP)によると、ギブソンさんらが襲われた際にライフルは即座に発砲できるような状態にはなっていなかったという。
同夜、白夜のもとギブソンさんの遺体がアルビアトの村に運び込まれた時には、多くの住民らが海岸で出迎えた。キドラピクさんは、ホッキョクグマによる襲撃は今まで見たことがないと取材に話している。ヌナブト準州環境省によると、ホッキョクグマが人を殺した事件は、2000年にランキン・インレット(アルビアトの約200キロ北)で起こっている。また今回の事件発生時にホッキョクグマがどのような状態だったかなどに関しては、自然保護官がホッキョクグマの状況を調査するまで詳しいことは分からないとしている。
アルビアトが含まれるハドソン湾西部のホッキョクグマ生息域では、2016年には約840頭が生息していると見積もられている。生息数自身は増減せず安定しているものの、大きさは縮小、健康状態も悪化傾向にあると専門家は指摘している。猟として射殺された頭数は2016年の28頭から、今年は38頭と増加している。
またホッキョクグマが人間を襲う件数も増加している。ヌナブト準州と世界野生動物基金(WWF)は共同で、こうした事故を防ぐために犬小屋のまわりに電気柵を巡らせたり、金属製の食料保存箱の導入などを進めているほか、ハンターの安全のため発煙筒やクマよけ爆竹、クマスプレーなどの配布を行っている。
ハドソン湾西岸では、湖面が氷で覆われる日数が10年で5日ずつ短くなっていると推定されている。湖面上の氷はホッキョクグマにとって、猟の場となる重要なもの。2017年に米国魚類野生動物局がまとめたクマの襲撃に関する報告書によると、1870年から2014年の間に73件の食料を狙った襲撃と、20件の人を襲う事件が記録されている。それらのうち約3分の2が、飢餓状態に陥りかけた若いクマによるもので、約90パーセントの襲撃が氷のもっとも少なくなる7月から12月の間に起こっていた。