2017年8月24日 第34号
人類初の南極点到達を果たしたほか、カナダ北部の北西航路の通過に初めて成功したノルウェーの探検家、ロアール・アムンセン。
その彼が2度目の北極探検で使用した船が、沈没から90年をへて本国ノルウェーに搬送されることとなった。
この船モード号は、アムンセンの船による北極点到達に使用できるよう、強度を増して1917年に製造された。しかし計画は成功せず、同船は1925年にハドソン・ベイ・カンパニーに売却された。その3年後、現在のヌナブト準州北部のビクトリア島ケンブリッジ湾沖に停泊中に沈没した。
現場は浅瀬であったため、その後何十年かは、船体の一部が海面に姿を出していた。
この船を引き上げ、母国に曳航しようというプロジェクトが始まったのは、およそ6年前。2015年には引き上げることに成功、その後搬送用のバルジに載せられた。当時から携わっているヤーン・ワンガードさんによると、プロジェクトには様々な困難があったという。地元ケンブリッジ湾の住人は、この船は今ある場所にとどまるべきだと反対。また、法的にノルウェーの所有物であるにもかかわらず、カナダ政府は輸出許可を出し渋った。結局、カナダ側が引き上げに携わらない条件付きで、許可が下りた。
しかし、モード号を製造したドックの近くの都市アスカー市の市長が今年の6月、ケンブリッジ湾のコミュニティを表敬訪問してからは、風向きが変わった。自然環境に近いことを好むノルウェー人の気質と、イヌイットの自然とともに生きる文化が通じ合い、両者の間にある種の絆が生まれたと、ワンガードさんは話している。
計画が順調に進めば、モード号は今年の夏、グリーンランドまで曳航される。そして来年の夏には、モード号のためにアスカー市に建てられる博物館に収納される予定だ。
やがてカナダを去ってしまうモード号だが、この船のDNAはカナダにも引き継がれている。モード号は、カナダで最も有名な北極海用の船、RCMPのスクーナー(2本マスト帆船、セント・ロッホ号のモデル)となっている。セント・ロッホ号は、北米大陸のまわりを、完全に1周した最初の船舶として知られている。