2017年6月1日 第22号

 キンダー・モーガン社が手掛けるアルバータ州からブリティッシュ・コロンビア州までのトランスマウンテン・パイプライン拡張工事計画が先行き不透明な状況になりつつある。

 5月30日、BC州では5月9日に実施された州議会議員選挙最終結果を受け、新民主党(NDP)とグリーン党が主要政策で協力する合意文書に署名。これで議会での議席数が両党合わせて44議席と過半数となり、43議席の自由党を上回るためNDP・グリーン党政権が実現する可能性が濃厚となった。両党の主要政策のひとつが、トランスマウンテン・パイプライン拡張工事計画の停止。

 同社は偶然にも同日にトロント株式市場に17ドルでIPO(新規株式公開)した。株式は当初予想された20ドルを大きく下回り、一時は15・75ドルまで落ち込んだ。BC州選挙結果による政治動向が影響したとみられている。

 同計画は、アルバータ州エドモントン近郊からBC州バーナビー市までオイルサンドを運ぶ既存パイプラインを拡張する工事で、完成すれば輸送量は、1日当たり89万バレル、現在の約3倍となる。国内で計画されているオイルサンド輸送パイプライン大型事業の一つ。総事業費は74億米ドル。バーナビー市まで運ばれたオイルサンドはタンカーでアジア市場へと輸出される。タンカー数は現在の7倍になると試算されている。

 すでにジャスティン・トルドー連邦自由党政権は計画を承認。続いてBC州クリスティ・クラーク州首相も承認し、今年9月には工事が着工されることが決定している。

 しかし、この計画は当初から反対する声が強く、州選挙では争点のひとつだった。すでに承認した自由党と、反対する野党NDP、グリーン党。反対派は、環境保護団体や関係する地域の先住民族と周辺地域住民、さらに、バンクーバー市グレゴール・ロバートソン市長やバーナビー市デレク・コリガン市長も反対を強く主張している。

 グリーン党アンドリュー・ウィーバー党首は、この日の記者会見で、天然資源産業のような20世紀の産物で経済を盛り立てることを理由に、存在するか分からない海外市場のためにパイプラインを建設するのは納得がいかない、他の方法で経済発展すべきだし、アルバータ州もそろそろ考え直した方がいいと語った。

 アルバータ州NDPレイチェル・ノッテリー州首相は同日、連邦政府が承認した国家プロジェクトを州政府が中止にはできないと記者団に語り、カナダ全体、アルバータ州の経済のため、さらにはBC州経済のためにも計画は実行されるべきと主張した。

 ジャスティン・トルドー首相は訪問先のイタリアで記者の質問に答え、「自由党政権の決定は、事実と証拠に基づくものであって、カナダ国民全体の利益を考慮したもの。BC州だけでなく、どの州でも事実と証拠は変更されない」と計画を見直す予定がないことを示唆した。

 この日の国会では、この件について野党からの追及があった。5月27日に新党首に選ばれたばかりの保守党アンドリュー・シェア党首は、BC州選挙結果が国益に悪影響を与える時に自由党政権は推進力が足りないと批判。BC州への説得を強めるべきと語った。

 

 

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