2017年3月9日 第10号

 2014年10月末、ノースウェスト準州イエローナイフ近郊で行方不明になり、1年後に白骨死体で発見された熊本県宇土市出身の医師、吉窪昌美さん(当時45歳)。

 警察は最初大掛かりな捜索活動を開始したが、その後吉窪さんが日本を出国する前に自殺をほのめかしていたとの情報が伝わった。また本人はイエローナイフ郊外の森へ、足跡を残さないようにして消息を絶った形跡が見られ、開始から1週間後に警察は本人は死亡したとものと判断、捜索は打ち切られた。

 しかし、警察のこの発表が納得のいくものではなかったため、地元有志が独自に吉窪さんの行方を追っていた。吉窪さんが最後に防犯カメラに映ったのは、2014年10月22日の午前9時15分ごろ。宿泊していたホテルから、ピンク色のコートを着てバックパックを背負い、ショルダーバックを肩からさげている映像だった。その後ホテルから離れるように高速4号線沿いを歩いているのが目撃されたのが最後だった。

 2015年8月に、森を歩いていたハイカーが偶然見つけた人骨が、DNA鑑定の結果吉窪さんのものであることが確認され、一応この件の幕は下りたように見えた。

 しかし、トロントを拠点に活動する映画監督ジェフ・モリソンさんは、明らかにされてこなかった情報を拾い集め、実際には何が起こったのかを伝えるドキュメンタリーを作ろうと決心した。

 外部の人間が現地に赴き、地元の人に事件のことをいろいろインタビューして回るのは、最初は緊張したとモリソンさん。しかし多くの人に会ううちに、イエローナイフの人々が吉窪さんのことをとても気にかけていたことを目の当たりにした。

 さらに、モリソンさんは日本へも出向き、吉窪さんの家族や以前の患者にもインタビューしている。そこで出会った全ての人が、吉窪さんに対して好意的な印象を持っており、また患者のことを深く考える勤勉な医師だったと表現していた。

 モリソンさんはドキュメンタリー製作にあたり、その人物にこれほど感情移入したことはなかったと取材に話している。製作を手伝ったパートナーは、モリソンさんがこの作品で吉窪さんを守ろうとしているのがわかると、彼に伝えたという。

 モリソンさんは現在、日本にいる吉窪さんの家族のためにドキュメンタリーの日本語化に取り組んでいる。

 このドキュメンタリーは、カナダ公共放送(CBC)で2日、全国放送された。またオンライン上でも見ることができる(『CBC』、『Missing』、『Tourlist』で検索)

 

 

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