2017年1月1日 第1号

 2015年、ミスワールドのカナダ代表に選ばれながら、普段の人権活動のために大会開催国の中国から入国を阻止された、アナスタシア・リンさん。ミスワールドは、外見の美しさだけではなく知性なども考査基準とする、女性の尊厳や地位向上を目指すイベントで、リンさんは人権活動の実績が評価され、カナダ代表に選ばれた。

 2016年、大会をアメリカ・ワシントンで開催したミスワールド(本部イギリス)は、2016年も彼女に出場資格を与えた。中国企業のスポンサーを受けているミスワールドは、本部を通さないリンさんへの取材を阻止していると伝えられていたが、AP通信社はワシントン郊外のナショナル・ハーバーのホテルで、彼女にインタビューする機会を得た。

 彼女は、中国政府が行っている臓器収穫(弾圧している法輪功の受刑者や死刑囚から臓器を摘出、営利目的の臓器移植に利用するというもの)の実態を世界中に知ってもらいたいという主張について率直に話したものの、大会参加について何らかの制限を受けているのかという質問に対しては、中国の経済的影響力は非常に大きく、誰も声を上げることができなくなっていると言葉を濁した。

 13歳の時に母親とカナダに移民したリンさんは、これまでも中国の人権問題について公の場で糾弾(きゅうだん)してきたため、同政府からマークされるようになっていた。彼女によれば、中国政府が「中国のオウム真理教」と名づけ(中華人民共和国駐日本国大使館ウェブサイトによる)弾圧してきた法輪功の、何万人という学習者が「臓器収穫」のために殺害されてきたという。

 このことを取り上げた映画「The Bleeding Edge」に、リンさんは法輪功の受刑者役で出演している。

 2015年のミスワールドへの出場妨害の件で世界の注目を集めたリンさんは、アメリカ議会公聴会に招かれスピーチしたり、イギリスやヨーロッパの議会でも証言を行ったりしてきた。

 リンさんは、自分の信念や考えを表明しただけで投獄された、良心を持つ囚人が臓器収穫のために殺されていることを、多くの人が知るべきだと取材に話している。

 これに対しアメリカの中国大使館は、これはカルト教団による根も葉もない作り話であり、法輪功は学習者を洗脳し、自傷行為や自殺に追い込んでいると説明している。

 中国政府は1999年、約7000万人の学習者を擁し社会的安定を脅かしたとして法輪功を「邪教」と断定、弾圧してきた。また臓器移植目的で長らく続けられてきた、死刑が執行された囚人の体からの「臓器収穫」については、2015年の時点でほぼ取りやめられ、任意の臓器提供に切り替わっていると主張している。しかし、国際的な医療専門家や人権団体はその信憑性を疑っている。

 中国を含む、世界中の何十億という人が見守る大会でスピーチができるのは、上位10人のみ。リンさんは最後の最後まで望みを捨てないと語っていたが、大会での上位入選は果たせなかった。

 

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