ケベック州モントリオールに住むアントワーヌ・デュポン君(15歳)は、筋ジストロフィーを患っており、2〜3年前から車椅子の生活を送っている。それでも飛行機好きのアントワーヌ君は、父親のステファンさんとドローンを操縦するのが大好きだ。

 そんな彼に、そろそろ新しい車椅子が必要だという話が持ち上がった時、友人のハル・ニューマンさんは、航空関係の会社のいくつかにパイロットシートの余りはないかという電子メールを送った。本人は半分冗談のつもりだったので何も期待していなかったが、これが『アントワーヌのコックピット』プロジェクトの発端となった。

 電子メールを送って間もなく、ニューマンさんに「君が、例の車椅子プロジェクトに関わっている人物か」という電話が何本もかかってきた。最終的にエアカナダ、ベル・ヘリコプター、そしてシエラ・ホテル・エアロノーティクスが協力し、アントワーヌ君に新しい車いすを製作するプロジェクトを立ち上げることになった。さらにケベック州バゴビルのカナダ空軍もプロジェクトに参加するという、前代未聞のプロジェクトに発展、ついに本物のパイロットシートを装備した電動車いすが完成した。

 この展開を目の当たりにしたニューマンさん、人の思いやりというものを再認識させられたと取材に語っている。

 多くの人に囲まれ、おまけに取材陣のフラッシュを浴びたアントワーヌ君、最初はこの車いすに乗るのをためらっていた。そこで、この日のために、日本からの長距離フライトを終えたその足で駆けつけたエアカナダのパイロット、フレデリク・ベランガーさんが5点式シートベルトの締め方をデモンストレーションしてみせた。20年以上パイロットシートに座っているベランガーさんだが、この日ほど感動したことはなかったと話している。

 また車いすのデザインを担当したエアベース・サービス社の副社長クラウデ・フォウリナーさんも、開発に何カ月もかけたこの車いすがアントワーヌ君に手渡される瞬間に立ち会うことができて感動したと語っている。

 パイロットシートの座面は、長時間同じ姿勢で操縦を続けるパイロットのために、柔らかくかつ通気性のある羊毛が今でも使われている。最近アントワーヌ君は1日の終わりに背中の痛みを訴えることが多かった。父親は新しい車いすがプレゼントされたことに感動すると同時に、これでアントワーヌ君が快適に過ごせるようになることを喜んでいた。

 さらに、今までは車いすを押すため背後からしかアントワーヌ君に声をかけられなかったが、これからは並んで歩けると、うれしそうに付け加えていた。

 

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