2月23日、バーナビー市の日系センターで「花粉症〜東洋医学から見ると〜」をテーマとした講座が開かれた。今回の参加者は10名ほどとこじんまりしていたので、先生の話を間近に聞くことができ、参加者も積極的に質問をするなど和気あいあいとした雰囲気となった。前半は花粉症について西洋医学と東洋医学的見地から見た概要と対策の講義がおこなわれ、後半は参加者と杉原先生が意見や質問を交わしあいながら、実際にツボ押しなどの実習をする時間が取られた。

西洋医学的に見る花粉症

花粉症の原因物質は日本では杉とヒノキが一番多いが北米ではシラカバにアレルギー反応を起こす人が多いという。アレルゲンとなる花粉が体に入るとIgEという抗体が作られる。それが肥満細胞(マストセル)に付着する。抗原抗体反応が起きると、この肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンという物質が放出されると発症ということになる。くしゃみ、鼻づまり、鼻水、目のかゆみが花粉症の4大症状といわれている。水のような鼻水が止まらない、くしゃみを連発する、鼻がつまって苦しい、そして眼球を取り出して洗いたいくらい目がかゆい、というのが典型的な花粉症症状としてよく耳にするものだ。
両親ともに花粉症を持っているとその子供の陽性率は57・4%、両親のどちらかが花粉症の場合でも44・7%と遺伝的な要素は認められるが、それだけではなく環境因子も関わってきているとされる。また、アトピー性皮膚炎や喘息を患っている人も花粉症になりやすいという傾向がある。花粉症の治療には抗アレルギー薬(抗ヒスタミン剤など)を投与するのが一般的だ。薬には眠気が強くなるなどの副作用がある第一世代と、効果が高く眠くなりにくい第二世代があり最近は第二世代の薬が主流のようだ。ドラッグストアで扱っている各種市販薬を服用する他、医師に処方される点鼻薬や目薬を使用している人も多い。
花粉症の予防としては、外出時にはマスクやゴーグルをつけて花粉を取り込まないようにするのが理想だが、マスク姿に抵抗がない日本ならともかく、カナダでそれを実践するのは勇気のいること。出来そうなことといえば、花粉のつきにくい服装(つるつるした布地のもの)を着る、帰宅したら玄関で服についた花粉をよく払うことくらいだろうか。

東洋医学的に見る花粉症

天地間に存在する六種類の発病因子である風、寒、暑、湿、燥、火(熱)を合わせて六気と呼ぶ。本来は気候の変化を示すもので人体に無害だが適応能力を超えると発病因子となる。春の花粉症はその六気のうち風と熱が結びついたものが病因(病邪)となり、花粉症に見られる鼻閉や目のかゆみなどの症状を引き起こすとされる。
花粉症の東洋医学的な治療としては、鍼治療と漢方薬が挙げられる。鍼治療は上星(じょうせい・おでこの少し上の辺り)、印堂(いんどう・眉毛の間)、迎香(げいこう・小鼻の横の溝)、合谷(ごうこく・親指と人差し指の間)、風池(ふうち・後頭部の髪の生え際)といったツボに治療を加えることが多いという。また、漢方薬は症状と個人の状態(病勢)にあわせて処方されるので種類も多い。そんな中でも桂枝湯(けいしとう)を基本とした処方内容が多く、更に清熱剤を加えたり、病勢にあわせるように工夫されることも多いとのことだ。杉原先生によると、漢方薬での治療を考えているなら、チャイナタウンやリッチモンド、ダウンタウンなどで中国系の薬局を訪ねてみるのも良いのではということだ。あるいは、中国医学の医師の受診が勧められるという。東洋医学では、舌の先端は肺と心臓、横のほうは肝臓と胆のう、真ん中は消化器官、舌の奥の方(舌根)は腎臓の状態を反映しているという。舌が赤っぽいと熱を持っていて、白っぽければ冷えている。あとは脈を診て体の状態や病勢を知ることによって総合的に診察、診断がなされ、その人に適した漢方薬を調合してくれる。

ツボ押しを習慣化してみよう

講義の後は、実際にツボ押しを試す実習がおこなわれた。鍼治療を受けたくても治療院を見つけられるかどうか不安を感じることもあるだろう。かといって自分で鍼をさすわけにもいかないが、先に挙げた花粉症に効くツボを自分で押すことでも、花粉症の症状が緩和されることが期待できるという。ただ、ツボというのは言葉で書かれている説明を読んでも見つけにくいもの。今回は、参加者が先生に教わりながら自分自身のツボを探してみる実習があったので、的確にツボの場所を知ることができた人が多かったようだ。ちょっとした空き時間などにツボを押すことを心がけていると良いかもしれない。
東洋医学では問診・触診の他、脈や舌を診ることがよくおこなわれる。ということで、先生にならって他の人の脈を測るのを試してみる人の姿も見られた。素人からするとただトクトクと脈打っているのを感じることが出来るだけなのだが、経験豊富な先生には脈からその人の体質が分かってしまうようだ。花粉症でも症状の出方は人によって様々なので、杉原先生がそれぞれの症状に合うようなアドバイスをしている様子が印象的だった。また、花粉症に悩む人同士で意見交換も活発におこなわれていて有意義な講座になったようだ。

 

講座終了後、日加ヘルスケア協会が集計したアンケートの回答には「ツボを教えていただいたので、これから実践して少しでも薬に頼らないで済むようにしていきたいです」「症状がどのようなプロセスで起きるのかを分かりやすく説明してくださいました。鍼のポイントもとても分かりやすく役に立ちました」といったコメントが寄せられていた。

 

取材 大島多紀子

 

杉原義信医師 プロフィール

1948年生まれ。名古屋市立大学卒業後、慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。日加ヘルスケア協会理事。

 

日加ヘルスケア協会

日本語を話す、または日本の文化的背景を大切にする人々の心身を、より健康にすることを目指して設立された非営利団体。活動の一部として2005年度より講演会を開催し、西洋医学、東洋医学をはじめとして様々な視点から健康に関する情報を提供し、幅広い知識や健康になるための実践的な方法を共有することで健康の維持増進に貢献していくのが目的。http://nikkahealth.org

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