「選挙の概要:民主党大敗の要因と首相のリーダーシップの役割」
ベン・ナイブレイド助教
2012年12月の選挙では自民党が地滑り的な大勝となったが、一つの党が大勝するという現象は、2005年、2009年に続き今回で3回目。2005年以前ではこうした偏った大勝は日本の政治では珍しかった。
そこで今後日本政治において、こうした現象が「新しい常識」となるのか、こういうことが起き続けるのかとの疑問が起こる。
2012年の選挙と前2回の選挙を比較すると類似点と相違点が見えてくる。類似点は反現政権感情、脆弱な党内統一、首相交代劇と支持率変動。一方相違点は、有権者の期待感、第3極勢力の台頭、安倍党首(当時)の戦略である。
第1に、現政権への不満は、結果的に野党への期待として反動し、次期選挙での野党の地滑り的大勝という現象を引き起こしたが、2012年選挙では現政権(この時は民主党)への不満が必ずしも自民党への期待感とはなっていなかった。
第2に、脆弱な党内統一という結果はどうして起きたのか。民主党は2009年の政権交代時には308議席あったが、2012年選挙時には230議席しかなかった。要因は、なぜ政治家が党に所属しているのかを考えると見えてくる。党とは政治家としての大望を実現する場であると議員は考えている。しかし、現在のように党体制が急速に変化する状況では、党の人気急落も速く、そのため党を離れた方が自身に有利と判断することが要因の一つと考えられる。選挙での勝利が大きいほど党内統一は難しくなる傾向にある。それが次期選挙での大敗の要因となる。
第3に、首相の支持率の急降下。日本はおそらく世界で最も首相が交代している国。首相就任時には高い支持率を得るもすぐに20〜30パーセント低下する状況が続いている。
今回の安倍政権は、とりあえず次期参議院選挙で2007年に自身が首相時のような敗北をしないことに集中しているのではないだろうか。
「日本の政治的立場と党内団結:立候補者への選挙前調査結果と政策的立場の分析」
久米郁男教授
解散総選挙前に実施された立候補者1222人に対する25の質問事項の結果をもとに選挙後の政党の動きを分析した。
調査結果は3つのグループに焦点を当てた。一つは自民党・公明党の勝者グループ、二つ目は民主党・日本未来の党(当時)の敗者グループ、三つ目は日本維新の会・みんなの党の第三極勢力。
調査結果から政治的立場を分布図にして分析してみると2つの特徴が表れる。一つは、タカ派対ハト派の構造、もう一つは公共事業賛成派対環太平洋経済連携協定(TPP)賛成派。選挙前は現役議員の中でハト派が多く、選挙後はタカ派が増加した。これは前者が民主党、後者が自民党の数を反映している。
こうした分析をもとに、調査結果からは今後の日本政界のシナリオが予測できる。
一つ目はタカ派自民党とハト派公明党の同盟関係が続くということ。ハト派民主党との大連立の可能性もある。二つ目はタカ派自民党とタカ派維新・みんなの同盟関係。ただ、こうしたシナリオも今夏の参院選次第。現在参院では自民・公明は過半数を持っていない。
では参院選はどうなるかと言うと、今回の調査結果にそのヒントがある。「選挙の争点は?」との問いに、ほとんどが経済と答え、外交と答えたのはわずかだった。「自分の意見と党の方針が違う場合は?」との質問には、自民党と民主党は、党に反対するが党の方針に従うを大きく上回った。これは自民党と民主党の結束力の弱さの表れと取れる。
以上のことから、党の政策変更によっては抜本的な党再編の動きがみられるかもしれないと推測できる。
「世論が明かす偏った選挙結果の裏側と第3極勢力」
村上剛氏
なぜ自民党は2012年選挙で大勝、民主党は大敗したのか、有権者は本当に自由党政権に回帰したのか、第3極勢力はさらに勢いを増す傾向にあるのか。
今回の選挙を有権者側から分析するとこの3つの疑問が浮上する。2005年小泉自民党圧勝、2009年民主党大勝、2012年自民党完勝と議席数は上下するが、この間の獲得議席率と獲得票率を比較すると違った側面が見える。自民党の獲得票率は3選挙でそれほど変わっていないにもかかわらず、議席率が大きく変化している。これは有権者が支持政党を大きく変えたというよりは選挙制度自体の影響があると考えられる。
次に2009年の政権交代以降の支持率を見ると、有権者の動向が分かる。無党派層は常に約50パーセントを占めているが、政権交代時の2009年9月には民主党の支持率が50パーセント近くまで上昇し、無党派層は30パーセントまで減少した。しかし、その後すぐに支持率が低下。代わって無党派層が増加する。菅、野田、安倍政権発足時も、同様の傾向にある。つまり、無党派層の動きが支持率変動とつながっている。
その理由の一つは政権への「失望」にある。2012年の有権者の81パーセントが民主党に失望したので自民党に投票したと回答している。自民党支持率はわずかに7パーセント。安倍政権への期待も51パーセントにとどまっている。
では第3極勢力、特に維新の動きがどうかかわってくるかというと、それほど大きな役割は果たしていない。結党時の低い支持率に比べれば、選挙時には16パーセントまで上がったが、橋下維新への国会に対する影響期待度は結党前も後もほとんど変わっていない。
結論として、民主党の大敗と自民党の大勝は民主党への有権者の失望による結果であること、有権者は第三極勢力にあまり大きな期待を寄せていないことが分かった。
「アベノミクスと日本経済の新機軸」
イブ・ティベルギアン准教授
「アベノミクスとは何なのか」を選挙結果とアベノミクスを連動させて説明する。
論点の一つ目は経済が票に及ぼす影響。民主党の公約違反と崩壊、選挙制度の影響があったとしても、今回の選挙では経済が投票に大きく作用したといえる。それは経済的懸念が原子力や国家安全への不安よりも勝ったこと、経済不況への対策として有権者は新政策を望んだこと、そこで「アベノミクス」が注目を浴びたことなどから分かる。
二つ目は「アベノミクス」の内容。インフラ整備、公共事業、環境技術など10兆円規模の経済刺激策、日本銀行への強硬な姿勢と量的緩和策、国内経済活性化重視などがある。
自民党が大勝した要因には少なからずアベノミクスの力が働いたとみられる。有権者も議員も政治の最優先課題には経済をあげている。アベノミクス公表後3カ月で、対米ドルで10パーセント、対ユーロで14パーセントも円安に動いている。経済財政諮問会議も復活させ、構造改革などの政策を打ち出した。しかし一方でエコノミストの中には、革新、起業家精神、システムのインセンティブがさらに必要であり、これらが示されていないためアベノミクスへの効果を疑問視する声もある。
その他には、TPPについては、アベノミクスにとってアメリカに対するリトマス試験紙的な意味合いがあり、84パーセントの議員が反対しているという現実もある。中国との関係修復も日本経済立て直しへの日本政府の喫緊の課題。2011年は輸出の25パーセントが中国となり、アメリカの15パーセントを大きく上回っている。
「アベノミクスは」は今夏の参院選前に一定の効果が必要で、2013年は経済ナショナリズム的傾向となる可能性もある。もしアベノミクスが世界的な経済政策と相容れない場合は、同盟国や周辺国との緊張が増す可能性もあり、本当に成果を上げるのかが注目される。
「安倍政権の外交政策」
川崎剛准教授
2013年8月までは現実的な外交政策が予想される。カギとなるのは、国際政治における勢力均衡と大局的政策。注目されるのは2点。一つは政策基盤の強化。これは、国内的には集団的自衛権などの法整備が挙げられ、対外的にはアメリカとの関係強化となる。二つ目の注目点は、竹島問題のような感情的、象徴的な課題は避ける。
安倍外交が現実的な政策を取ると予測する根拠は5つ。1、2013年夏に参院選を控えていること、2、経済回復が最優先課題であること、3、これまでの安倍氏の政策、小泉政権時代、前回の首相時代を見ても、現実的な政策を展開していること、4、谷内正太郎氏をアドバイザーとして迎えていること、5、日本メディアなどの意見。これらを総括すると安倍政権の現実主義が見えてくる。
首相に就任してからの主な政策的動きは、自身のアジア各国訪問、ミャンマー、韓国、ロシアへの主要閣僚・人物の派遣、岸田外相のアジア各国訪問、防衛計画大綱での2013年度防衛費の増額、3つの諮問機関の設置、普天間基地問題の再確認、憲法第96条改正への取り組みなどとなっている。
ただ、安倍政権の外交政策実現を妨げる不確定要素もある。まずはTPP参加について党内が分かれていること、外交政策実現の可能性が経済政策の成功を土台にしていること、公明党からの制約、伝統主義者の動きなどがある。
今後、海上保安庁の強化や海上自衛隊による尖閣諸島警備、もしくは中国との戦略的互恵関係の再確認を行うかもしれない。それでも特に不思議ではない。
ただ、少なくとも今夏の参院選までは、現実的で国際政治の勢力均衡を図る外交政策を取るだろうと予測される。
(取材 三島直美)