来賓として出席した在バンクーバー日本国総領事館総領事代理篠田欣二氏のあいさつの後、山本大臣による講演と質疑応答が行われた。今回は講演内容を要約して紹介する。
山本議員は2009年のBC州議会議員選挙で自由党ノースバンクーバー・ロンズデール選挙区から立候補し初当選。同議会初の日系女性議員となる。同年政府間関係担当大臣に就任。天皇皇后両陛下カナダご訪問時にはキャンベル州首相(当時)と共に案内役を務めた。高等教育大臣などを経て、今年9月の内閣改造でスモールビジネス担当大臣に就任する。
政界入り前は21年間ノースバンクーバーで「Tora Design Group」のオーナー社長として会社を経営。BC州商工会議所会長などの要職を歴任した。

女性起業家としての経験

20年以上スモールビジネスのオーナーとして苦労してきた経験が今の自分を作っていると思っている。自分で事業を展開するのは難しく不安がつきまとうが、その分満足感も大きいと感じた。
ここには、女性であること、日本人であること、英語が母国語でないことで、ビジネス経営に障害となることがあった人も多くいると思うが、それらを乗り越え、成功している女性起業家たちに私は敬意を表したい。彼女たちは、これから起業を考えている女性へのロールモデル、手本になる人たちでもあると思う。
女性が実業界で活躍し始めたのはごく最近で、それまで女性は差別と自分に対する疑念に悩まされてきたという歴史がある。しかし現在はカナダではビジネスの5件のうち4件は女性起業家によるものであり、女性の役割はますます重要になっている。
女性起業家の方がビジネスで成功する確率が男性よりもほんのわずかだが高いという統計もある。それはおそらく細部まで注意を払い、事業拡大にも慎重な姿勢で臨むからだろうと思う。
私自身の経験を言えば、これまでのキャリヤで最も大切なことは、すべて実際に仕事で学んだと思っている。事務的な手続き、夜中まで続く一人での残業、日曜出勤、従業員優先の給与体制など大変なことが多かったが、必死で会社をやりくりして、仕事がうまくいった時、客に喜ばれた時の満足感が今に活きていると信じている。

BC州におけるスモールビジネスの役割

今でも議会やメディアで非難されたりすると、なぜこんなことをしているのかと思う時がある。自分は政治家になりたいと思ったことは一度もなかった。ただ、自分の社会、コミュニティをもっと良くしたいと思った時にたまたま政治家という選択肢が目の前にあったという状況だった。
コミュニティとは選挙区であるノースバンクーバーだけではなく、BC州、ビジネスコミュニティも含まれている。事業主としてノースバンクーバー商工会議所やBC州商工会議所に関わるようになり中小企業こそが、活力ある社会に欠かせない要素であると気付いた。
州議会議員となって感じたことは、州政治の場に、もっとビジネスバックグラウンドがある人材、女性というマイノリティの人材があってもいいということ。そして今回スモールビジネス担当大臣になって学んだことは、中小企業こそが州経済に大きな役割を果たせるのではないかということだった。
BC州では中小企業が企業全体の98%、州のGDPの3分の1を占め、100万人以上の雇用を生み出している。BC州政府の「スモールビジネス」の定義は、従業員50人以下。しかし98パーセントのうち、ほとんどが5人以下企業ではないかと思う。そして、小さな企業だからこそ、革新に挑み、新技術とアイデアを世界にもたらすと信じている。さらに、時にはビジネスという枠を超え、コミュニティ全体を大きく包む存在だと思っている。
私が政治に転じたのは、社会の一員として、中小企業も政府の中で発言しなければならないと信じたからだと断言できる。

起業家への助言

まずは自分をコミュニティの一員として考えてほしい。権利と同時に責任を負うコミュニティメンバーであるということ。
コミュニティの一員として必要な時には協力し合い、自らの権利を政府に対しても要求してほしい。そういう意味では、JWBAも一つのコミュニティとしての役割を果たしていると思う。
ただ、権利には責任が伴うことも忘れてはいけない。常に自らの権利ばかりを主張し相手から何かを奪うだけの事業、顧客をごまかす販促、従業員への待遇を怠る経営体制、環境問題を無視する経営理念、こうした事業者としての責任を放棄した企業は、スモールビジネスというBC州で重要な役割を果たしているビジネス全体を貶めるものであることを理解して健全な事業を展開してもらいたい。
コミュニティの中においても、積極的に責任を持ってもらいたい。中小企業の役割は、利益追求だけではないと思う。社会の模範となること、従業員を育てること、環境問題へ取り組むこと、地元商工会への参加、慈善団体への積極的なかかわり、これらも中小企業が貢献できるコミュニティへの責任だと思っている。
コミュニティへの責任を果たすことは、経営にも好影響を与えることになる。今、顧客は自分たちの価値観を反映したビジネスを求めている。それは誠実という価値観。責任と自覚を持ったコミュニティの一員であることが最善の事業投資ではないだろうか。私はそう思う。

講演の後半には、今年5月自身が州議会に動議を提出したBC州政府による戦中戦後の日系人排斥措置に対する公式謝罪について触れた。山本議員の父親も収容所生活を経験しているという。きっかけはある日系人からの問いかけだった。それに対し「自分の立場で何ができるか」を熟慮した結果の行動だったと振り返った。当時の連邦政府による措置とは言え、BC州政府にもその一端を担った責任があると与野党問わず議会で承認を得たと語った。
講演の中では政治家という立場からBC州政府の政策をアピールする場面もあった。BC州は個人、法人の両方で、所得税の国内最低税率を実現したと語った。さらに、スモールビジネス税を2.5パーセントに引き下げ、中小企業に対しての課税最低額を20万ドルから50万ドルに引き上げ、スモールビジネスベンチャー資本税額控除を300万ドルに引き上げ、実習教育税額控除制度を3年間延長したと、説明した。政府はビジネスが発展し成長するためにはどういう環境が必要かを常に考えて対策していると語ったが、一方で中小企業にとっては多くの場合、経営していくだけで大変だという状況もあると現状への理解も語った。
「よく政府は中小企業をどうやって支援していくのかと聞かれるが、私は同じことを聞きたい。みなさんはBC州政府がどんな形で中小企業を支援できると考えているかと」と語り、「もし税負担が重すぎる、規制が厳しすぎると感じた時には、訴えてほしい」と、自分たちの声を政府まで届けてほしいと参加者に語りかけた。

 

(取材 三島直美)

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