2019年12月5日 第49号
11月7日、在バンクーバー日本国総領事館で、日加ヘルスケア協会との共催によるセミナー「おとなの予防接種」が開催された。ナースプラクティショナーのスティーブン橋本さんと、日本の小児科医である田野島玲大医師を講師に迎え、大人だけでなく小児期の予防接種について説明があり、約20人の参加者が熱心に耳を傾けていた。セミナーの概要を紹介する。(メディアスポンサー:バンクーバー新報)
左から、児玉隆司領事、日加ヘルスケア協会の渡瀬容子さん、スティーブン橋本さん、田野島玲大医師、古久保ますみさん、田中朝絵医師
セミナー開始前に児玉隆司在バンクーバー日本国領事があいさつをし、日本語で医療関連の情報を発信している日加ヘルスケア協会に感謝の意を述べた。そして、今後も定期的にこうしたセミナーを開催してほしいと述べ、総領事館としても可能な限りサポートをしていきたいと語った。
*「BC州におけるおとなのための予防接種」
講師 スティーブン橋本さん
予防接種とワクチン
予防接種のワクチンには生ワクチン(例:MMRー麻疹、おたふくかぜ、風疹)、不活性化ワクチン(例:インフルエンザ、肺炎球菌)、トキソイド(例:破傷風菌)、リコンビナントワクチン(例:HPV、帯状疱疹)といった種類がある。ワクチンの中には、水銀や抗生剤が含まれているものもあるが、心配する必要はないほど微量なものだ。カナダで認可されるワクチンは最大で国内3万人の被験者を使い、10年かけて安全性の確認をするため、安全性は極めて高いと考えられる。ワクチンを接種することで起き得る副作用は、注射部位の痛み、腫れ、発熱、だるさ、筋肉痛などだが、通常はどれも1〜2日で収まる。アナフィラキシーショックが起こるのは百万人に1人といわれており、予防接種を過剰に恐れる心配はないといえる。しかしインターネットやSNSでさまざまな情報が氾濫する昨今、ワクチンを接種するのを控える傾向があり、予防接種を受けないことで健康被害が拡大することも危惧される。不確かな情報に振り回されず、信頼できる機関 (左ページ欄外参照)に相談することが大事だ。
大人になっても 受けたほうがいい予防接種
*破傷風菌ワクチン(Td)ー破傷風菌とジフテリア混合。10年に一度無料で受けられる。10年内に複数回受けても良い。特に深い傷を負った場合で、ワクチン接種から5年以上経っていた場合は接種を奨励。妊婦には百日せきも入ったTdapが推奨される。
*A型肝炎ワクチンーA型肝炎に感染している人が素手で扱った食品を摂ることで感染することがある。食品を扱う人や、衛生状態があまり良くない地域に旅行する人などは受けておいた方が良い。
*肺炎球菌ワクチンー予防する肺炎球菌のタイプが23種類と13種類のものがある。前者は65歳以上の人や糖尿病、腎臓病、喘息などの慢性病を持っている人は無料。人によっては5年後に再接種の必要がある。後者は効果が持続するので再接種の必要がないが、ほとんどの場合有料。
*帯状疱疹ワクチンー生ワクチンであるZostavaxとリコンビナントワクチン(病原体のDNAとタンパク質を取り出したもの)であるShingrixがある。後者の方が防止率は高く70歳以上の人への効果も高い。NACI(National Advisory Centre on Immunization)では50歳以上の人にはSingrixを推奨している。両ワクチンとも有料。
*MMRワクチンー特に心配なのは麻疹(はしか)。1970年1月1日以降に生まれた人は麻疹の入ったMMRを2回接種することが推奨される。それ以前に生まれた人は自然に抗体があるのでブースターの接種は必要ない。基本的に無料。
*HPV9ワクチンー子宮頸がん、直腸がん、男性器がん、口腔・咽頭がん、肛門性器疣贅(こうもんせいきゆうぜいー肛門周辺にイボができる病気)の予防に有効とされる。男女ともケースバイケースで26歳までは無料の場合もあるが、それ以降は有料。
特に記載がない限り予防接種は有料だが無料になる場合もある。料金や詳細はヘルスユニットや予防接種をしているドラッグストアなどに問い合わせてほしい。
*「邦人の小児期予防接種と追加接種について」
講師 田野島玲大医師
日本とカナダの予防接種
小児期の予防接種に関しては、日本では2019年4月現在、インフルエンザ菌b型、小児肺炎球菌、B型肝炎、四種混合(ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオ)、BCG、MR(麻疹、風疹)水ぼうそう、HPV(女子のみ)、日本脳炎が定期接種となっている。ロタウイルス、おたふくかぜ、A型肝炎、髄膜炎菌、インフルエンザは任意接種となっている。一方、カナダ(BC州)では上記のうち日本脳炎は定期接種ではないが、MMR、髄膜炎菌、ロタウイルスは定期接種スケジュールに入っている(BCGはハイリスクの人、A型肝炎ワクチンは先住民のみ)。
日本で育った人がカナダで再接種が必要なワクチンは?
日本では長く三種混合(ジフテリア、百日せき、破傷風)が接種されていたが、2012年11月より四種混合となった。BC州では、成人でも破傷風とジフテリアの混合ワクチンが10年ごとに無料で受けられる。百日せきの接種歴がない、または履歴不明な成人はワクチン接種が無料となっている。ポリオに関しては、1975〜1977年に生まれ、日本で予防接種を受けた人は、ポリオワクチンの免疫保有率が低いため、ポリオウイルスが常在する国(アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリアなど)に渡航する際には再接種を考慮したほうが良い。
麻疹と風疹に関しては、単独ワクチンからMMRワクチンへの変更、MMRワクチン接種の中止、MR(麻疹、風疹)ワクチンへの移行などの歴史的経緯があり複雑である。おたふくかぜのワクチンは現在でも任意接種となっている。また日本では、肺炎球菌、B型肝炎、HPVは2013から2016年にかけて、小児への定期接種が開始されているので、それ以前に生まれた人は自分の罹患リスクなどをもとに、ワクチン接種を考慮すると良い。
年齢、育った地域、滞在地域によって接種したワクチンは異なるので、まずは自分がどの予防接種を受けているかを把握する必要がある。その際には母子手帳を参照することも有用だ。また、一度かかると一生かからない(終生免疫)の病気についても、自身の罹患歴を把握しておくことも重要である。
カナダで育った人が日本で住む場合は?
日本で定期接種するワクチンのうち、カナダで定期接種がないものはBCGと日本脳炎。BCGは乳幼児期の結核性髄膜炎や粟状結核などの重症結核を予防することが目的なので、成人期に接種することの意義はないとされている。また日本脳炎は日本国内でも本州以南、特に西日本に感染例が多い。BC州の情報サイトでは、東アジア、東南アジア、西太平洋地方に1カ月以上滞在する人は接種をする必要があるかもしれないとされている。
第2部の質疑応答の際には、講師の2人のほか家庭医の田中朝絵医師と日本で産婦人科医、内科医であった古久保ますみさんも加わって、参加者からの質問に答えた。日本とカナダの小児へのワクチン接種に対するスタンスの違い、811にかけて電話相談をする際の留意点、大人になってからどのワクチンをどのタイミングで接種を考慮するか、などアドバイスも多く聞かれた。
母子手帳の話がセミナー内でも出たが、在バンクーバー日本国総領事館では、海外に在住する邦人向けの母子健康手帳を無料で配布している。これには妊娠、出産、乳児期、幼児期、小学生以降と、子どもが20歳になるまでのさまざまな注意事項やアドバイスなどが記されている。総領事館待合室の棚に置かれているので自由に持ち帰れるが、もし見当たらなかった場合、窓口で尋ねてほしいとのことだ。
*予防接種に関する情報収集・問い合わせ先*
・BCCDC(BC Centre for Disease Control) www.bccde.ca
・Immunize BC https://immunizebc.ca
・自分の住む地域のヘルスユニット (Fraser Health やCoastal Health)
・811に電話して相談することも可能(日本語通訳も有り)
・KNOW・VPD!(日本のワクチン情報サイト) www.know-vpd.jp
*講師のプロフィール*
スティーブン橋本さん
ファミリー・ナース・プラクティショナーとして、バーナビー病院成人メンタルヘルス外来にてプライマリーケアを担当。また同病院OAT(Opioid Agonist Therapy)クリニックで麻薬系薬物の依存症患者の治療もおこなう。
田野島玲大(たのしま れお)医師
医師、医学博士、横浜市立大学小児科客員講師。小児科、小児がん、臨床薬理を専門とし、これまで横浜市内の病院や大学病院に勤務。2017年3月よりバンクーバーで小児の薬物治療の研究に従事している。
(取材 大島多紀子)
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