2019年11月14日 第46号
10月25日、隣組で開催のシニアライフセミナーは在バンクーバー総領事館から児玉隆司領事と高階勝彦さんを迎えて開かれ、約40人が参加。セミナーは総領事館からの重要事項の伝達の後、年金、国籍、証明書に関する質疑応答で構成された。(メディアスポンサー:バンクーバー新報)
多くの参加者を迎えた隣組シニアライフセミナー
会の冒頭で児玉隆司領事は、在バンクーバー総領事館管轄のBC州・ユーコン準州の在留邦人は現在3万5千人で、そのうち2千人以上が70歳以上のシニアであることから、総領事館にとって邦人シニアに向けた取り組みの重要度が増していると語り、三つの事項を伝達した。
1 災害への備えを
「災害が多いため市民も行政も危機意識が高く、防災の備えがある日本に比べ、カナダでは備えのある人が少ないですが、バンクーバー島沖では比較的大きな地震が発生しており、当地でも地震に対する十分な備えが必要です」(児玉領事)。そのため参加者に配布されたのが、在バンクーバー総領事館のウェブサイトに掲載の防災の手引きである。そこには「大災害が発生した場合は、市→郡→州→連邦と出動要請が行き、必要な救援活動が開始されるまでに、少なくとも72時間(3日間)必要とされています。それまでの間は、各自で対処しなくてはならない場合もあり得ます」とあり、日頃の備えとして右記のようなアドバイスが紹介されている。
2 在留届と旅券に緊急連絡先の記入を
万が一、在留邦人が事件・事故に巻き込まれた場合、基本的に総領事館がその人を特定するために手がかりにできるのは在留届と旅券(パスポート)の情報に限られる。その際、日本国内の緊急連絡先が書いてあるかないかが極めて重要となる。しかし実際には、緊急連絡先の欄に「不在」と書く、あるいは空欄にしている人も見受けられる。この欄に記入する情報はあくまで非常時の連絡先。遠縁であってもかまわないので、ぜひ記入を。「過去には交通事故死した人物の親戚を探す際に、昔の在留届等に書かれていた緊急連絡先を通じて、最終的にその方の孫を見つけることができた事例があります」(児玉領事)。
3 国籍について
日本の国籍を持った方が本人の意思により他の国籍を取ると、日本の国籍を喪失する(未成年であっても15歳以上は意思能力があると見なされる)。しかし日本の国籍喪失届を提出していないと日本の戸籍上では事実上日本の国籍が残り続ける。
これによる問題が起こっている。一つの事例を挙げよう。日本の親戚とつながりが途絶えていた、カナダ国籍の元日本人Aさんは日本側に国籍喪失届を出さず、日本国籍を保持したままで戸籍に残り続けていた。そして、Aさんが亡くなった後、日本の親戚の間で相続の問題が発生したため、Aさんの戸籍を整理する必要が生じたが、そもそも日本語も分からないAさんの子どもたちにとって戸籍の整理は大変骨が折れる手続きだった。「戸籍の整理は残された親族の大きな負担となる可能性が極めて高いので、日本国籍を最後まで持ち続けたいお気持ちはわかりますが、カナダ国籍を取得された場合には必ず国籍喪失の手続きをお願いします」(児玉領事)。
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以上の説明後に行われた質疑応答の内容の一部を紹介しよう。
【質疑応答】 ▼死亡届の時刻記入
要望:カナダでの死亡届は死亡日だけの記入でいいですが、日本に出す死亡届は日付だけでなく、時刻まで記入するようになっています。ですが、はっきりした死亡時刻がわからず日本の死亡届に記入できなくて困りました。ぜひ日本政府に働きかけて、それぞれの国に合った情報で対応してほしいです。
領事館・高階勝彦さん:日本では親族の出生や死亡した時間によって親族間での相続順位が変わることがあります。1分の違いも関わるのです。そのために出生届と死亡届に時刻記入の規定があります。
では不明な時刻をどう書くかですが、まずカナダでは、たとえファミリードクターが死亡に立ち会っていなくても、ファミリードクターが死亡診断書を書くことができます。実際、朝に見たら、息を引き取っていたなど、ドクターも検死官も時刻を特定できない死もあります。そうした場合、同居人等関係者からの申し述べ書による推定時刻で対処することも可能です。
▼日本の国民年金
質問:カナダ在住の日本人で日本から国民年金を受け取っていた人が亡くなり、その人のカナダ人の親戚が領事館に死亡届までは出せたのですが、年金を止める方法がわからず困っていました。どうしたらよいでしょうか。
領事館・高階さん:日本年金機構のウェブサイトには英語の案内もあります。文書なら英語でも対応してもらえる可能性がありますので、日本年金機構に文書で問い合わせすることをお勧めします。その際には本人確認のための氏名の他に生年月日と年金番号の情報を添えることが必要と思われます。
質問:もしカナダで日本の年金をもらっている人が死亡した場合は、日本の死亡届よりも日本の年金を先に止めることが大事なのですか?
領事館・高階さん:死亡届は死亡後3カ月以内に提出すれば良いのですが、年金は、もし死亡後に口座に振り込まれてしまっていると、返金をしなくてはならなくなります。したがって、まずは年金を止める手続きをお願いします。
そうした手続きの際に、本籍地の情報が必要になる場合がありますが、本籍地は案外覚えていないものです。また本籍地というのは、通常の住所の番地表記と多少違っている場合があります。それは本籍地は戸籍を引き出すときのインデックス(見出し)の役割だからです。
ちなみに過去に戸籍謄本(あるいは抄本)を領事館に提出したことがあれば、そのコピーが領事館に存在している可能性があります。また今後のことを考えて、これから領事館に来ていただいて「在留届に戸籍謄本のコピーを添付しておいてほしい」と依頼してくださっても結構です。
▼戸籍謄本の取り寄せ
質問:各種手続きの際に戸籍謄本が必要になりますが、日本に取り寄せの代行を頼める人がいない場合、どうしたらよいでしょうか。 領事館・高階さん:日本の弁護士、司法書士、行政書士等は職務上、戸籍文書を取り寄せる権限を有していますので、こうした人たちに依頼すると、親族でなくとも戸籍を取り寄せることが可能です。各種手続きの際に印紙を必要とするために、カナダから手続きできないこともあろうかと思います。その点は関係する市区町村に掛け合って、事情を説明して相談すると担当者によっては柔軟に対応してくれる可能性があります。
ーこのトピックの中で、「戸籍謄本、抄本は発行後6カ月有効であるので、帰国時に毎回取得しておく方法もあります」など隣組の有馬正子さんから自身の経験をもとにした情報も紹介された。
▼在外選挙人登録
質問:在外選挙人登録をしていたはずなのに、登録がなくなっていたのですが。
領事館・児玉領事:こちらで在外選挙人登録をしても、日本で住民登録してしまうと、その後、在外選挙人登録は消えてしまいますので、改めて登録手続きをお願いします。
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以上のような質疑応答が進められたセミナーに、参加者から「さまざまなケースに対応してこられただけあって、領事館の回答は明確で良かった。これからも定期的にこのようなオープンハウスのような機会を設けてほしい」と感想が聞かれた。隣組では今後も実生活に役立つセミナーを計画している。
(1) 決めておくこと
▶家から安全に退避する方法・道筋
▶家族同士の集合場所
▶近所や遠くの連絡先
(2) 知っておくこと
▶消火器、水およびガスの元栓、ブレーカーボックス、排水口などの位置
▶家族全員の緊急時の連絡先、電話番号
▶家族全員の健康状態のインフォメーション
▶居住場所および職場、それら周辺の危険な場所および安全な場所。浸水の危険がある場所や発火しやすい場所なども調べておく。
(3) やっておくこと
▶いざ、というときのため、水、ガス、電気を消す習慣を、子どもを含む家族全員で徹底しておく。
▶ガスの元栓を閉めるレンチを、元栓のそばのパイプなどにテープで貼り付けておく。
▶ウォーター・ヒーター、給湯器など揺れ動いてガスや水のパイプを壊してしまいそうなものは、動かないものにくくりつけておく。
▶本棚や家具等は、容易に倒れないよう固定しておく。また、特に重いものは安定しているか確認し、棚などの場合重いものを極力下に置く。
▶ベッドや椅子は、窓側や、照明器具および重いものがかかっているそばに置かない。
▶小型家電の下には滑り止めを取り付け、食器棚には割れ物が滑り出ないよう戸が閉まるラッチやチャイルドプルーフの留め具をつける。
▶発火しやすいものや家庭用ケミカルは火元から遠ざけ、倒れてもこぼれないように保存。また、山間部に家がある場合、山火事に備え、周囲半径10〜20mの間で枯れ葉など引火性物質の除去、壁やガラスを耐火性のものに変えることなども検討する。
▶集合住宅に住んでいる人は、マネージャーやボードの人たちと安全対策を協議しておく。また、建築家や危機管理の専門家からアドバイスを受けておく。
▶住宅保険、火災保険、傷害保険など、加入している保険のカバー範囲をチェックしておく。
▶応急手当、人命救助等について、赤十字等が実施する講習に参加し、救急方法などを習得しておく。
(取材 平野香利)