2018年6月14日 第24号

ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市にあるロバート新見日系ホーム内の健康ウェルネス・ラウンジで、5月から6月にかけて『料理療法』に関するワークショップと実施が行われている。(メディアスポンサー:バンクーバー新報)

日系シニアズ・ヘルスケア&住宅協会主催で、講師はブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)に客員研究員として在籍中の明神千穂(みょうじん ちほ)博士。料理実施の様子を見学し、明神先生に話を聞いた。

 

『料理療法ワークショップ』に家族や友人・ヘルパーさんとペアで参加したシニアのみなさん

 

自信を呼びさます料理作り

 5月17日、ロバート新見日系ホーム内の健康ウェルネス・ラウンジ。お昼前に集まってきたのは、8人の高齢者だった。その多くが認知機能が低下した人で、車椅子やウォーカーを使用し、家族やボランティア、ヘルパーさんらが同伴した。

 この日の課題は、みんなでカレーライスを作ること。明神先生の誘導で、野菜に手をのばす。包丁を持って危なくないの?という不安をよそに、にんじんを同じ幅で切っていく。さきほどまで黙っていたTさん(85)が「じゃがいもはすぐ柔らかくなるからあとでいいわよ」と車椅子から乗り出し、立って鍋の中の材料を炒め始めた。「みんなでやると楽しいわね」とご飯をお皿に盛り始めたIさん(92)。

 会場内に活気があふれ、カレーの匂いが漂い始めたころには、みんなの緊張感もほぐれていた。「みんなで作って一緒に食べると、本当においしいわ」という言葉とともによみがえった笑顔。長年、家族のために食事を作ってきた高齢者にとって、料理は生活の張り合いにもつながり、自信を呼びさますという。

 

明神千穂博士に聞く

料理療法が始まった経緯を教えてください。

 特別養護老人ホーム・セントポーリア愛の郷の管理栄養士の前田佐江子さんが施設内で2002年から『料理活動』として実践していたものを、京都教育大学教授の湯川先生が2003年より研究として実践され、翌年『料理療法』という言葉を提唱されました。

この研究に興味を持たれたきっかけは?

 湯川夏子先生とは奈良女子大学大学院で所属していた研究室が同じで、先輩・後輩という間柄でした。

 大学院生時代に日本調理科学学会の年次大会に参加し、すでに他大学で教鞭をとられていた湯川先生が料理療法の研究発表をされたときに、初めて料理療法について知りました。

 もともと小学校の頃から料理をすることが、とても好きで管理栄養士を目指しましたので、大好きな料理で認知症の予防とケアができるということに感銘を受け、さらに認知症高齢者の方や、そのご家族のお役に立ちたいという思いから、研究者として一緒に協力させてほしいと湯川先生に依頼したのが始まりでした。

日系シニアズにかかわるようになったきっかけは?

 2017年4月に京都市で開催されたアルツハイマー病協会国際会議での、日系シニアズ・ヘルスケア&住宅協会の理事を務められている船橋敬子さんとの出会いが一番のきっかけです。バンクーバーに来てから、船橋さんに日系シニアズの取り組みをいろいろ教えていただき、さらにイキイキ・プログラムにボランティアとして参加しながら、バンクーバーの日系シニアの方々の暮らしや食に関する問題点などを見聞きしてきました。

日本のシニアとカナダで生活するシニアとで、違いはありますか?

 イキイキ・プログラムでは、英語を中心に話される方と、日本語を中心に話される方の2グループに分けてプログラムを行っています。日本語グループの方々は日本的な丁寧なケアを好まれ、英語グループの方々は、必要なところだけ手助けを求められる傾向があると感じました。

 よって料理療法の支援の方法も少し変えなければならないかと思いましたが、さほど大きな違いはないと思います。

実施に関して大変なこと、気をつけていることなどはありますか?

 日本で認知症の程度が高い方と実践した際、途中、やることがなく間が空くと不安になられ離席されるなどはありましたが、適切な支援をすれば皆さん落ち着いて料理を続けてくださいます。

 特に気をつけていることは、参加者の方の意志を尊重することです。料理は家庭ごとに切り方、作り方や味付けが違ったりします。正しい料理を作ることが目的ではなく、その人らしい料理を作り上げることが目的なので、レシピ通りに作る必要はありません。

 私たち支援者側は、人生の大先輩である高齢者の方々にお料理を教えていただくという立場でいることが、とても大事だと思っています。

カレーライスを選んだ理由は?

 カレーは誰もが一度は作ったことがあり、食べたことがあるメニューで、日本の国民食といわれるくらい非常に馴染みのあるものとなっています。さらに特徴のあるスパイシーな香りは、作っている間から食欲がわき、食べるのが楽しみになる料理でもあります。料理療法実施にあたり、カレーライスは参加者や支援者にとっても安心なメニューになります。

 次に予定している餃子は“野菜を切る”“具をこねる”“包む”“焼く”と調理操作が多く、皆で一緒に楽しめます。さらに焼く音や香りが五感を刺激することから、料理療法に適したメニューといえます。

 そのほかにちらし寿司や巻き寿司は、日本ではお祝いのときに作ったり、各家庭でのせる具材や切り方に違いがあったりと、これらのことを料理活動中に聞き出し回想して、昔のことを思い出しながら楽しい気持ちで参加してもらえるメニューとなります。

料理療法実施を通して、参加者にどのような変化を感じましたか?

 料理活動を始めると皆さん集中して包丁を握られ、野菜を切り始めます。また一度野菜を切り始めたら、身体が覚えているのでしょう。次々とすばらしい手つきで料理を進められます。

 特に、料理をすると皆さん口数が多くなり笑顔が見られ、普段座られている方が料理中は立ち上がられることもあります。さらに試食中は「みんなと作ると楽しいね」「みんなと食べると本当においしいわ」と、普段小食の方がカレーやちらし寿司を2回、3回とお替わりされることも多々見られました。料理療法は食欲を増進させ、高齢者の低栄養の予防にもなると感じられました。

UBCでは客員教授としてどんな研究をなさっていますか?

 Faculty of Land and Food Systems のLand, Food and Community I (LFS250)の授業を使って、日本のお弁当を使ったワークショップを導入し、日本の食文化やお弁当の作り方などを学ぶことによる、大学生の食生活の意識や行動の変化を調査しています。

 大学生たちは授業中に日本のお弁当文化を学習し、一緒にお弁当を作った上で授業計画を立てました。そしてバンクーバー市内の小学校や中学校を訪問し、児童や生徒たちへ日本のお弁当文化や背景、バランスなどを伝え、一緒に調理実習をすることによる大学生への学習効果の評価を行っています。

今後の予定を教えてください。

 料理の実施は6月21日に餃子、28日に巻き寿司を予定していますので、興味のある方は見学にいらしてください。

 また湯川夏子先生と共同研究者の管理栄養士である前田佐江子さんが7月中旬にバンクーバーに来られ、バンクーバーの高齢者施設を訪問調査するとともに、隣組、ロバート新見日系ホームなどを視察訪問し、両施設で実施されているシニアプログム内の料理活動にも参加する予定です。

 その他は私自身の予定として、バンクーバーで管理栄養士として活躍されている方々にお会いしてインタビューを行い、カナダで活躍する管理栄養士を日本へ紹介したいと思っています。そして、この素晴らしい季節のバンクーバーを思う存分堪能するつもりです。

 

明神千穂(みょうじん・ちほ)博士:近畿大学農学部食品栄養学科講師。研究分野は栄養教育、調理科学。2006年より高齢者の料理活動に関する支援的研究に従事。
共著「やる気と自信を呼びさます 認知症ケアと予防に役立つ料理療法」(クリエイツかもがわ)

 

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

包丁を持たせて危なくないの?という不安をよそに、率先して野菜を切ったり炒めたり

 

カレーの匂いが漂うころには緊張感もほぐれ、昼食会が待ち遠しくなる

 

明神千穂博士

 

「やる気と自信を呼びさます 認知症ケアと予防に役立つ料理療法」湯川夏子、前田佐江子、明神千穂(出版社:株式会社クリエイツかもがわ)

 

 

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