2018年5月17日 第20号

4月25日、バンクーバー市にある法律事務所Lindsay Kenney LLPのオフィスにて、日本・カナダ商工会議所が主催する、委任状、遺言、事前指示書などについてのセミナーが開かれた。参加者は約10人ということで、質疑応答や意見交換などが活発に行われ有意義な会となった。

自ら意思決定を行えなくなった場合や死後に備えて、医療ケアや遺産相続などに対する希望をあらかじめ文書化しておくことは大切だ。「心の安心のための保険」とでもいうようなアドバンスプランニングについて、弁護士のゲイリー・マトソン氏と悠治・マトソン氏が説明した。

 

興味深い話がざっくばらんに語られるのも少人数のセミナーの醍醐味

 

1.委任状(Power of Attorney)

 財産管理や法的な手続きを自分の代わりに執行してもらうための委任状。権限を与える側をドナーといい、与えられる側をアトーニーという。旅行などで長期不在になる場合、留守の間の財政的なこと(不動産に関わることや銀行口座の管理など)を委託するために、期間を決めた委任状を作成するケースも多い。ただし、通常の委任状の場合、高齢、病気やけがなどによって判断能力が低下し、意思決定が困難となってしまった時には無効となる。そのため、永続的委任状(Enduring Power of Attorney)を作成することを勧める。夫が大病にかかり、財政的な決定を下すことができなくなった時にこの委任状がなかったため、妻は裁判所に医師からの診断書を提出して、夫の代わりに財政管理を行う権限を得る手続きをしなくてはならなかったという例もある。なお、どちらのタイプの委任状でも、ドナーが亡くなった後は無効となる。アトーニーは弁護士である必要はなく、配偶者や子供に委任するのが一般的だ。そして、財産や不動産の管理を任せるので、アトーニーには信頼のおける人を選ぶことが大切だ。また、アトーニーに複数人を指定することは可能だが、意思決定が必要な際に意見が割れてまとまらないといったトラブルもあり得ることも考慮して決めたほうが良い。

 

2.遺言書(Will)

 自分の死後、遺産の分配の方法や遺言執行者をあらかじめ指定しておくための書類。遺産を誰にどれだけ遺すか、家族、友人、チャリティなど遺産を遺す人や団体の指定、不動産の管理を誰に任せるか、葬式をどのように執り行うかなど、多岐にわたった内容を盛り込むことができる。遺産を残す相手は海外に住む人であっても構わない。不動産の相続の際、日本のような相続税はないが、BC州では検認費(Probate Fee)というものがある。2万5千ドル〜5万ドルまでの相続には千ドルごとに6ドル、5万ドル以上では千ドルごとに14ドルが課される。不動産を共同名義(Joint Tenancy/Ownership)にしておくと、片方が亡くなった場合、自動的にもう一方の人に名義が移るので、検認費が課されない。生前は夫と妻の共同名義にしておき、夫の死後に子供を加えるということもできる。

 不動産をカナダと日本どちらにも持っている場合、遺言書はBC州で作っておくのと同時に、日本にある資産に関しては日本でも遺言書を作っておいた方が賢明だ。また、未成年の子供の後見人となる人をあらかじめ決めておくという目的で、若い夫婦の場合でも遺言を作ることをお勧めしたい。

 

3.生前贈与(Deed of Gifts)

 不動産などを生前に誰かに贈与すること。先に述べた検認費を軽減するための方法の一つとして行う人もいる。または自分の死後、家族間などで争いが発生するのを防ぐために、生前に資産を分配して贈与しておくというケースもある。なお、カナダでは贈与税はないが、キャピタルゲイン(保有する資産価値が上昇することによって生じる収益)として課税される。

 

4.事前医療計画書(Advance Directive)

 これは、リビングウィル(自分で意思決定などができなくなったときにどのような措置を希望するかをあらかじめ明記しておく)ともいうようなもの。不治の疾患であったり、死期が迫っている時などの際、必要以上に延命措置を取ることを希望しないことを、家族や医療従事者にあらかじめ知らせる目的で作ることが一般的。延命措置などについて自分の希望を伝えておきたいと望む場合や、自分の代わりに意思決定してくれる家族がいないといった場合に用意しておくと安心な書類だ。いわば、自分の希望通りに人生の最期を迎えるための保険のようなもの。内容は具体的かつ詳細にしておくことで、延命措置を施すかどうかなどの決定を迫られた時に、より自分の希望に沿った形で対処してもらえるといえる。

 

5.代理人同意書(Representation Agreement)

 医療に関することを決定してくれる代理人を指定する。先に挙げた事前医療計画書と共に用意しておくと安心だ。代理人には、自分の希望通りに実行してくれる信頼できる人を指定すること。医療関連にとどまらず、パーソナルケアについて決定してもらうよう指示することもできる。例えば、ケアホームに入居する必要があるかどうか、投薬や治療方針の決定を代わりにしてもらうというようなこともできる。

 代理人契約には、セクション7とセクション9という2つの種類がある。セクション7では代理人は、延命措置をするかしないかという決定はできないが、日常の金銭管理に関わる決定には携われる。また、病気やけが、高齢などの理由によって意思決定ができなくなった場合でも署名することができる。セクション9は、日常の金銭管理や法務についての決定はできないが、延命措置をするかどうかを決めたり、未成年の子供の一時的な世話などをする権限も与えられる。ただ、セクション9の作成の際には、判断能力があり、意思決定ができる状態であることが条件となる。また、この代理人同意書に事前医療計画書を含むことも可能だ。

 この同意書を作らずに延命措置が必要となった場合、配偶者、子供、両親、きょうだいという順番で決定権が与えられる。こうしてほしいという希望があるならば同意書を作っておくことをお勧めする。また、代理人同意書と事前医療計画書は、弁護士かノータリーパブリック(Notary Public、公証人)が証人となれば1人でよいが、それ以外の人の場合は2人の証人が必要となる。

 

ゲイリー・マトソン氏 プロフィール/1986年よりBC州弁護士として、日本人顧客を含む企業の商業取引や不動産取引、遺産相続を中心に業務を行う。日本語が堪能で、2年間の広島大学在学中は現代日本文学の研究を行う。またバンクーバー日系、及び他のコミュニティーグループにおいて長きにわたり、会長、顧問、理事等の要職を務める。1982年ブリティッシュ・コロンビア大学文学部現代日本文学科修士課程修了、1985年同大学法学課程修了。2017年在外公館長表彰受章。Lindsay Kenney LLP に所属。

悠治・マトソン氏 プロフィール/2011年にビクトリア大学法科大学院で法学を学び、2012年、弁護士の資格の取得前に、さらに九州大学で国際経済とビジネス関係の法律を学び修士の学位を取得。そして、BC州における弁護士の資格を2014年に取得。日本で英語を指導した経験もある。ビクトリア大学で現代日本文学と映画を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学でアジア研究を専攻しており日本文化に詳しい。2017年、グレーターバンクーバー日系市民協会、日本カナダ商工会議所の理事会メンバーに加わった。今後の日系コミュニティーでの活躍が期待されている。Lindsay Kenney LLP に所属。

(取材 大島多紀子)

 

ゲイリー・マトソン氏(右)と悠治・マトソン氏

 

 

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