2018年4月26日 第17号

マニトバ州ウィニペグから単独人力でウィニペグ湖、グレートスレーブ湖、グレートベア湖を全踏破、さらに北極海を歩いて、極地冒険家の聖地レゾリュートへ。オリジナリティーに溢れる‘美しい’ラインを描きつつ厳冬期のカナダを舞台に壮大な冒険にチャレンジしている日本人がいる。本紙にも何度か登場した山形出身の関口裕樹さんだ。

厳冬期だけのウィンターロード/アイスロード、もしくは前人未踏の何もない凍った湖の上を、基本的に太陽と時間(南中時刻)、風などを頼りに方向を定め、氷の状態も経験と勘で見極め歩く。そんな困難な冒険の活動期間は厳冬期のカナダ。全行程は4年〜5年を想定しており、今回の第2次遠征は、第1次遠征終了地点のノルウエーハウスよりスタートし、目的地である先住民のデリネの街へ。

前回のノルウエーハウスで知り合ったカナダ人が小学校の先生で、「ここからスタートするならぜひ学校で子供たちに冒険の話をしてくれ」と言われ、学校での講演をしてから今回のスタートとなった。講演は大成功、子供たちは興味津々で質問攻め、「貴重な経験をシェアしてくれた」と学校の先生はフェイスブックに投稿している。

また、冒険途中のフリンフロンという町や、イエローナイフで地元紙のインタビューにも応えながらの冒険となった。

今回、第2次遠征を終え、日本に帰国途中でバンクーバー国際空港に立ち寄った関口さんがインタビューに応じてくれた。

 

バンクーバー国際空港でインタビューに応えてくれた関口裕樹さん

 

ー今回は何日間何キロの冒険になりましたか?

結果的に69日間で3800㎞を徒歩と自転車というスタイルで行いました。

ー現地新聞に載ったことは?

 うれしいですね。厳冬期カナダの人力移動、それぞれいろいろなパートで、どういう感じになるのかなっていうのがあったんですけれど、今回が人と触れ合うことが一番できるルートかなと思っていて、その中でこうやって取り上げてもらって興味を持ってもらったっていうのは単純にうれしいなって思います。

ー今回の難所、グレートスレーブ湖は?

 もともと北上していけば、俺がカナダ3大湖としているうちのグレートスレーブ湖に突き当たって、そのまま自転車で行こうとしていました。もちろん乗れるとは思っていなかったので、自転車にソリをくくりつけて、ひたすら押していこうと思っていました。

 自転車での湖の氷上は未知数だったのですけれど、雪が想像以上に深く、無理じゃないけどアイスロードなど厳冬の間に終わらせないといけないので、いたずらに時間を消費するのはまずいなあと思って一回そこは飛ばして後から行ったという感じですね。

ー方向を見つけるにはどのような方法を使っていますか?

 自転車のときは基本的に道路の上を走っているので、厳冬期のウィンターロード/アイスロードといっても道なので特にナビゲーション能力は必要ないですが、グレートスレーブ湖の場合は、360度何もない真っ白な氷原だったので、基本的には太陽と時間で、それが極地でのナビゲーションの基本です。

 もちろんコンパスも使えます。北磁極の偏差もネットで調べられるし。

 そういうので自分の進みたい方角を決めるんです。ただ何にもないので、本当に小さな木とか、氷とかそういった目的物を決めてそこに向かって歩く。見えるといっても結構時間がかかるので、そこに着いたら、そこでまたナビゲーションしてというのの繰り返しですね。

ー目印を決めて移動というのはなんか先住民がやっていたようなやり方ですね。

 そうですね。GPSとかそういうものは歩いているときは使わないですね。

 太陽があれば大丈夫でしたけど、ただ俺がやっている時にサマータイムに切り替わったので、それでサマータイムでやってみたらけっこうずれていたんです。サマータイムを活用しない方がまだあっていたんです。(注:かつてのサマータイムは4月から)

 また補助の補助としては風向きとかも。ああいう雪原は風紋ができるんです。それって一日二日でできるものじゃないので、大体そこの風向きさえ押さえておけば、実際風が吹いていなくても風紋さえ見れば、ぴったりにはできないけど、東西南北ぐらいはわかる。

ーあと無補給期間の食料は?

 基本的には現地のスーパーで買えるものがメインで、普通のインスタントラーメンなど大量に買って、ラーメンにミニッツライス、バター、ジャーキーとかサラミを入れるというのが朝晩の定番メニューでしたね。で、昼は極地冒険の定番食、自分でつくった油チョコや普通に売っているクッキーなど、それにテルモスに紅茶など入れて。

 今回は最大でグレートスレーブ湖で用意した16日分、自転車のときでも10日分ぐらいですね。

ー次回以降は?

 そうですね。最大で長くなるのはレゾリュートの最後の区間で直線距離は700㎞ぐらいなんですけど、氷の状態によっては迂回して1000㎞とか歩かなければいけなくなると思います。ああいう氷上で月500㎞として最大2カ月分になるかなと思っています。多分ソリは最大で120㎏ぐらいですかね?

ーリードというのか、海の上の氷が割れているということも出て来ると思うんですけど。今回、湖で氷がシャーベット状でズブズブ沈みそうになっていますが、一番の困難というのはそういったことですか?

 そうですね。結局ただの氷なので、ある程度予測できるところはあるのですが完全には予測しきれなくて、その予想できないというのが極地冒険の困難であり面白いところでもある。

ー落ちたら死んじゃいますか?

 まあ落ちてないからわからないですけど、頑張ったら這い上がれる可能性があったと思うんです。でも多分の話ですし、上がってもずぶ濡れのままでどのぐらい生き延びられるかわからないので、危なかったのは危なかったです。正直気が抜けていたのもあったんですね。それまで氷の状態も良かったので。

 最後の50㎞ぐらいのところであれが起こったので、最初はのんびり歩いて3日ぐらいで最後の日々を楽しもうと思っていたんです。3日かければちょうど70日でなんか切りがいいかなと思ったんですけど、足が沈んで落ちそうになった瞬間それどころじゃなくて。

ー直接足が水に濡れるのはなかった?

 大丈夫でした。インナーも少し濡れていたんですけれど、動き続けていれば大丈夫だなって感じでしたね。

ー次回以降もこういうことは起こりうる?

 氷の上を歩いている以上こういうことはあり得る。ただ今の時代というか、歩いて、ソリを引いて冒険できるのは俺らが最後の世代じゃないかって。それぐらい氷が悪くなっちゃっていて。

 北極だけじゃなくて、俺の感想なのですが、今回のグレートスレーブやアイスロードとか、過去の記録を見ると昔より寒くなっていないような気がするんですよね。以前はマイナス40℃が当たり前だったのが、結局昨年も今年もマイナス40℃まで下がってないので、なんだかマイナス30℃後半にたまになるぐらいで、全体としてもちょっと暖かくなっているのかなって。

 登山でもなんでも自然が人間に合わせてくれるってないじゃないですか?

 変わってくるのは仕方ないので、俺たちがやり方を変えるっていうのが、それも楽しいのかなあっていうのもあります。

ー次回は?

 第3次遠征は今回終わったところから、グレートベア湖を縦断してツンドラ地帯、ケンブリッジベイというかつて植村さんが夏を過ごした場所、そしてジョアへブンというところがあるんです。次回はデレネからジョアヘブンまでと考えている。大体1600㎞ぐらいですかね。4次の最終遠征としてジョアヘブンからレゾリュートと考えています。

 

関口裕樹(せきぐち ゆうき)
生年月日:1987年8月16日
山形県山形市出身・在住
スポンサー:モンベル、パナレーサー、コウワ
e-mail:This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.
ブログ:関口裕樹 冒険のブログ http://ameblo.jp/timl40000k/
フェイスブック:https://www.facebook.com/yuki.sekiguchi.7

関口裕樹さんの冒険の記録

  • 2006年 徒歩日本縦断2715km 109日間
  • 2007年 自転車日本一周 9051km 83日間
  • 2008年 韓国縦断 720km 29日間
  • 2009年〜 2010年 自転車オーストラリア大陸一周(自転車によるコジアスコ登頂・滑降) 21075km 233日間
  • 2010年 自転車日本横断 265km 20時間28分  徒歩台湾横断 569lkm 31日間
  • 2011年 自転車厳冬期北海道走行 1320km 21日間
  • 2012年 1月 自転車厳冬期アラスカ縦断(失敗)778km 21日間  2月 徒歩行厳冬期アラスカ200km 6日間
  • 2013年 自転車厳冬期アラスカ縦断1400km 32日間2014年 厳冬期カナダ北極圏マッケンジー河400km踏破
  • 2014年 真夏の砂漠デスバレー縦断 気温差100度への挑戦 780km 13日間
  • 2015年 徒歩行厳冬期知床半島(敗退)スタート前に敗退を決定 記録なし
  • 2016年 厳冬期カナダ北極海氷面スキー&徒歩踏破400km 34日間
  • 2017年 厳冬期カナダ人力縦断 第1次遠征 600km 42日間
  • 2018年 厳冬期カナダ人力縦断 第2次遠征 3800km 69日間

 

(取材 野口英雄 写真提供 関口裕樹さん)

 

 

ウィンターロード/アイスロードをゆく

 

グレートスレーブ湖で障害を乗り越えてゆく

 

グレートスレーブ湖

 

キャンプ中オーロラが出た

 

講演後記念撮影

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。