2018年4月19日 第16号
2017年9月22日、亡き妻の命日にCDをリリースしたブリティッシュ・コロンビア州サレー市在住のノブさんこと渡邉宣之(わたなべのぶゆき)さん(73)が、本格的に歌手として活a動するため、日本に拠点を移す。
出発前の春の日。「人生あと少し。夢がみたいんです」と語るノブさんに、その熱意を聞いた。
2017年にリリースした初のCD『すみれ草』(撮影:『月刊・歌の手帖』)
カラオケ大会で優勝
1979年に家族とともにバンクーバーに移住。歌は子供のころから好きだったが、本格的に歌うようになったのは、バンクーバーのカラオケ・サークル『三金会』に妻の正子さんと参加するようになってからだった。
正子さんの勧めで各種コンクールに応募するようになったが、その最愛の妻が2004年に死去。以後カラオケとインターネットが生きがいになった。
日本で開催されるカラオケ大会に参加すると、全国大会決勝に進み、毎回なんらかの賞をもらった。そういうと簡単そうに聞こえるが、2004年の『ジャコム・ミュージックフェスティバル2004』(社団法人日本大衆音楽文化協会(JACOM)主催)の応募者数は、約7千組。その中からテープ審査、第2次予選を経て決勝大会に出場し、5位の特別奨励賞を受賞した。カラオケ大会に合わせて訪日するために、旅の予約や連絡に時間を費やす日々が続いた。
そんな中、2016年に三重県で開催された『第1回全国カラオケ歌謡うた自慢・グランドチャンピオン大会』で堀内孝雄の『人生雨のち時々晴れ』を歌い、初のグランプリ優勝。その副賞として手に入れたのが、作詞家協会理事のたきのえいじさんによる楽曲提供だった。
歌っておもしろい
カラオケというと演歌のイメージがあるが、ノブさんがいつも歌っているのは、演歌のほかに歌謡曲、ムード歌謡など。今回の『すみれ草』はそれとは違った曲調だったため始めは少々戸惑ったが、歌い込むうちに自分のものとして仕上がっていった。
「歌って面白いです。この曲あまりなじまないかなと思っていても、何回も聴いて歌っているうちにいい曲だなと思えるようになります。仕事でも嫌な仕事がありますが、やっているうちに面白くなっていくのと同じです」
「若い人たちも、演歌など嫌がらずじっくり聴いてもらいたいですね、きっと良さがわかってくると思いますよ。僕も若い人たちの歌も歌うし、好きですよ」
ミスター・チルドレンの『イノセントワールド』もそのひとつだ。
チャンス到来
バンクーバーに移住後は、和風建築の大工としてブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)アジアセンター内の茶室『和光庵』、コキットラム市東漸寺の茶室『瑞光軒』の水屋などを手がけた。
妻の死から数年後に早期退職し、ここ10年ほどは日本全国のカラオケ仲間と毎日ネットで交流。バンクーバーではカラオケ仲間と歌を披露しあい、ポットラックを楽しむ生活が続いた。
「バンクーバーに来たときは、ここで骨を埋める気持ちでいました。ですが、リタイアして、ただ毎日のんびりと時間を過ごすのは僕には耐えられません。そんな時にCDを出すチャンスがありましたので、人生最後のチャレンジと思って挑戦いたしました」
初めての作詞も
たきのえいじ先生が正子さんのことを詩に書き下ろし作曲した『すみれ草』は、昨年9月22日、正子さんの命日(カナダでは21日)にリリースされた。
カップリング曲は『今、君に逢いたい』。渡邉さんが詩を書き、曲にする段階でラジオ・パーソナリティーの大元雅治さんが詩を補い、友人で歌手の藤森美伃さんが作曲した。
「作詞は初めてですが、若い頃からよく詩を書いていました。今でもいいフレーズが沸くと、書き留めておきます。街を歩いているときや、電車やバスの中で思いついたことを書いておいて、あとで見るのも楽しいです」
レコーディング
レコーディングは初めての経験だったので、ドキドキして思うようには歌えなかったそうだが、ノブさんの歌は、たきのえいじ先生が「渡邉さんの歌には芝居がある」と評価したお墨つき。
プロのカメラマンからポーズを注文され、200枚以上撮影した写真の中からCDのカバーも仕上がった。
販売元は『月刊・歌の手帖』という雑誌を発行するマガジンランド社。レコード会社からの販売ではないので、バンクーバーでは購入することはできないが、5月から業務用カラオケシリーズ「JOYSOUND」にてカラオケ配信される。
夢を持って生きる
今後は日本に拠点を移し、レコード会社に所属して販売網を広げていきたいという。
「人生には3回のチャンスがあるといわれています。歌手になることは、子供のころからの夢でした。カナダに来ることも夢のひとつでした。夢はいくつ持ってもいいと思います。若い方には夢を持って生きていただきたいですね」
「僕と同年代の人で、バンクーバーで活躍している人はたくさんいます。失敗を恐れていては何もできません。僕はそれを日本でやるだけのことです。カナダ国籍のため、日本総領事館に相談し、定住許可証を受け取りました。定住とは、ある一定期間、居住を許されることです。チャンスがあるのに、チャレンジしないで妻のところには行きたくありません。それこそ悔いが残ります。73歳の僕がどこまでやれるかわかりませんが、やって良かったと思えるように、日本に行って活動したいと思っております」
最後に、バンクーバーの友人たちにひとこと
「『歌声喫茶』で皆さんと歌ったこと、『歌ソロサロン』で歌わせていただいたこと、隣組での『ピアノで歌う会』でリードをさせていただいたこと。すべてとてもいい勉強になりました。カナダには時々帰ってきますので、タイミングが合えば、また参加したいと思っています。紙面を借りてお礼を申し上げます」
73歳のチャレンジャー、ノブさんの行動力から刺激を受けた人も多いのではないだろうか。
渡邉宣之…1944年11月、東京都出身、川崎育ち。1979年に家族とともにバンクーバーに移住。和風建築の大工として建築に携わったあと早期退職しカラオケに励む。日本のカラオケ大会での受賞多数。2016年に三重県で開催された『第1回全国カラオケ歌謡うた自慢・グランドチャンピオン大会』で初のグランプリ優勝。翌年9月、初のCD『すみれ草』をマガジンランド社からリリース。2018年春から日本で本格的に歌手としての活動にいどむ。
(取材 ルイーズ阿久沢)
カラオケ・バージョンがついたCD(撮影:『月刊・歌の手帖』)購入・問い合わせは株式会社マガジンランド『月刊 歌の手帖』まで。TEL:03-3292-3351 FAX:03-3292-3352
2016年に三重県で開催された『第1回全国カラオケ歌謡うた自慢・グランドチャンピオン大会』で初のグランプリ優勝(写真提供:渡邉宣之さん)
2016年『第1回全国カラオケ歌謡うた自慢・グランドチャンピオン大会』入賞者と審査員、ゲストのみなさん。(中央が渡邉宣之さん。後列左から審査員・徳間ジャパンの井上誠啓さん、審査委員長で作詞家協会理事のたきのえいじ先生。後列右端が司会の吉川精一さん、後列右から3番目が演歌歌手・作曲家の藤森美伃さん)(写真提供:渡邉宣之さん)
よく歌うのは演歌、歌謡曲、ムード歌謡など(写真提供 渡邉宣之さん)