2018年3月29日 第13号

2018年3月、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市のメトロタウンに所在する盤石中医院で、日本人医師・杜一原(もりいちげん)先生が診療を開始した。西洋医、漢方医、両方の豊富な経験を持つドクターの登場に、早くも周囲から期待の声が集まっている。

 

漢方で長年の皮膚のかゆみから解放された患者の喜びを語る杜一原医師

 

漢方皮膚科に加えて先進的な美容治療も

 杜医師は漢方に親しむ台湾に育ち、台湾随一の名門、台湾大学医学部を卒業した。日本医科大学付属病院の皮膚科勤務医を経て、東京大学医学部で漢方の研究に没頭。その後、東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長を務め、計20年以上診療に当たってきた。そして2013年、「子供たちの教育をカナダで」と東京からバンクーバーに移住。残念なことに、カナダでは日本で経験を積んだベテラン医師であっても、日本の医師免許が認められない。そのためバンクーバーで改めて中医学を学び中医師(日本の東洋医学専門医あるいは漢方専門医に相当)免許を取得し、この春の開業を迎えることができた。 盤石中医院では、漢方、鍼灸による皮膚疾患治療のほか、しみやしわ、毛髪の悩みなどに対応する美容治療も展開していく。杜医師に漢方の臨床経験を中心に話を聞いた。

—勤務医の時代から、西洋の治療と漢方の処方と両方を行っていたのですか?

 はい、そうです。日常よく診る皮膚疾患の中には、治療困難な症例が意外に多く、専門医が治療しても手こずる場合がありました。こんな時、方向を変えて東洋医学理論に基づいた漢方治療を行うと治る例があることを経験しました。

—どんな経験が印象的でしたか?

 研修医として下積みしていた時代に、尋常性乾癬(せん)の診断で全身にかゆみを訴える患者さんに出会いました。その頃から本業の皮膚科研修の傍らで東洋医学研究にも真剣に取り組み始めていましたので、教授の診察に陪席し、患者さんを拝見した後、再診処置の度にその患者さんと話し、その方の症状や検査報告などを詳しく再チェックしました。そして研修医の一意見として漢方の処方を先生に提案したところ、処方の許可をいただけました。1カ月後、患者さんが来院して、積年の皮膚のかゆみが消えたと喜んでいました。それが私の長い長い東洋医学の旅の始まりでした。その時の患者さんの満足した笑顔は、その後も頼りにしてくださる患者さんたちの各種病状に立ち向かうエネルギーとなっています。

—漢方の研究の経験についても聞かせてください。

 はい。東京大学医学部の生体防御機能学講座で、主に漢方を投与した後の免疫細胞の変化などを研究していました。その後も皮膚科のクリニックを行う傍らで漢方の基礎となる古典理論や哲学などの研究を続けてきました。

 日本の漢方研究者には、西洋医学の科学的手法で漢方薬の効能を研究する方が多数おられます。面白い例の一つは「芍薬甘草湯」で、この処方は本来、筋肉の痛みやけいれんを治し、筋力を強める場合に用いる薬でした。しかし実験の結果、これが皮脂の分泌を抑えることがわかり、皮脂の過剰分泌が原因の一つとなるニキビの治療に結びつきました。私も実際に患者さんの状況に合わせてこの処方を使ったことがあります。古典派寄りの漢方医師にはピンとこない話かもしれませんが、これは日本漢方における「温故知新」の長所といってもよいと思います。

—思いがけない効能があった訳ですね。漢方に馴染みのない人にとって治療がイメージしやすいように臨床事例を紹介してくださいますか?

 例えば、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、免疫の異常により、常に皮膚の湿疹とかゆみに悩まされます。それに対して抗アレルギー剤の服用と、ステロイド剤を塗ることで一時的に症状がよくなっても再発することが多いものです。私の経験では、痰湿体質で長年便秘の患者さんには、先のような薬があまり効きません。痰湿体質とは、簡単にいうと胃腸がうまく働かず水分代謝が滞り、長い間体内に余分な水分が溜まった状態です。この方に合った漢方の処方と生活習慣の改善の指導により、体質が改善されて長い間調子のよい状態の続いた事例があります。

—皮膚のトラブルというと、蕁麻疹(じんましん)で苦しむ人も多いですね。そうした事例はどうですか?

 アレルギー体質で、春は花粉症、冬は蕁麻疹が出ていた方で、普段多忙で食事や睡眠が不規則、そして情緒も不安定な傾向にある患者さんがいました。結婚を機に治したいと言ってこられ、私は慢性蕁麻疹は完治は難しいと正直にお伝えしました。ただし、体質改善の視点から生活習慣の見直し、食事療法も含めて、一緒に二人三脚でがんばってみましょうかと提案し、その方も同意して取り組みました。その結果、この患者さんは結婚式の前後の数カ月間に、長い軽快期が得られました。

—最初に杜先生のクリニックを訪ねた場合、患者さんはどんな診察を受けることになりますか?

 望診(見ること)、聞診(聴覚や嗅覚を使って情報を収集)、問診(尋ねること)、切診(触診)の四診を行って、そうした中で脈からいろんな情報を読み取ったり、舌の状態を診たりといったことを行います。それによって病名診断と「証」を診断します。証は、その患者の現時点で現している全ての症状を気血水、陰陽・虚実・寒熱・表裏、五臓、六病位など東洋医学的なものさしで整理し、総括することによって得られる漢方的診断のことです。同時に治療の指示でもあります。証の診断はどんな薬を処方するか、あるいは鍼灸の場合は、どこのツボに針を施すかという治療につながっていきます。いずれにしても、どんな治療を行うかは患者さんに提案し、患者さんの希望を踏まえて実施していきます。

—同じ皮膚の症状であっても、その患者の体質などによってどんな処方をするかは異なるわけですね。

 はい。大規模な臨床治験により数多くの患者を分類して一つの共通性を見つけ出す西洋医学の手法と異なり、東洋医学は一人一人の患者を唯一無二の存在として見ています。そのため同じ病名でも東洋医学に基づいた証が違いますと、処方も違います。そんなわけで、患者さんには「この漢方はあなただけのもので、家族には使えませんよ」とよく言っています。

 私のところで用いている漢方製剤は、すべて粉状や小顆粒状で、患者さんにはお湯に溶かして飲んでもらっています。現代科学のお陰で、とても飲みやすく、効き目のいい漢方薬です。実は風邪を引く時や咳をする時など、自分でも好んでこういう漢方薬だけを飲んでいました。安心して飲めるものですから……。

—それならば簡単ですね。ところで先生は美容的な治療も行っていますが、特に力を入れていることはありますか?

 私は最近漢方治療とフォトフェイシャル技術を併用してニキビおよび脱毛症(抜け毛、薄毛)の診療を試みています。ニキビだと、普通、西洋の医者から抗生剤を処方されるのが一般的ですが、抗生剤に対して抵抗のある方も多いです。こうした場合、フォトフェイシャル施術と漢方薬で効果が得られる患者さんも少なくありません。抜け毛の原因はいろいろあります。先ほどお話ししましたように患者さんの体質に合わせた適切な治療に取り組んでいます。また、日本でも流行っている美容皮膚科の先進技術を取り入れていますので、しみやしわ、アンチエイジング治療に興味のある方は直接診療の際にお聞きくださればと思います。

—診療は日本語の他に、英語なども対応可能ですか?

 日本語はもちろん、英語、中国語(北京語)、台湾語での診療も行っております。以前勤めた東京のクリニックが高田馬場にあった関係で、早稲田大学の学生さんがたくさん来られて、その中に韓国からの留学生も多かったので、韓国語を勉強しました。ですので、簡単な韓国語でも対応可能です。

 

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 東洋医学の世界ではたまに「秘方」と言って、その処方内容を明らかにせず、「とにかくこの薬を飲みなさい」と押し付ける医師もいるようだが、杜医師の処方やアドバイスには「秘方」も押しつけもないようだ。

 二十数年の臨床経験から杜医師は「治癒には医者の力だけでなく、患者自身が根気よく努力することが決め手」と実感している。だからこそまず丁寧に患者の話を聞き、抱えている問題や不安を受け取る。そして診察、診断を経て、患者にその症状が起こった理由を説明する。その後、快方へ向かうための漢方の処方の内容と生活習慣改善の役割・効果を、患者の納得のいくまで一つ一つ説明していくのである。

 インタビューの際、記者の理解に応じて丁寧に回答する杜医師。とてもソフトな印象ながら、同時に醸し出されるどっしりとした安心感は、患者の問題解決に真摯に取り組む日々が培ったものなのだろう。

(取材 平野香利)

 

 

処方する漢方は粉状や小顆粒状のものであるため簡単に服用できる

 

当面は毎日診療に当たっていくという

 

 

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