2017年11月23日 第47号
11月7日、バンクーバー市で、盛和塾塾生の戸田直員氏による講演会が開催された。戸田氏は静岡県掛川市に本社を置くトダックス株式会社の創業者で、国内外で多数の講演を行っている。昨年10月に続いて2回目となる、戸田氏のポジティブなパワーあふれる講演に、約25人の参加者が熱心に聞き入った。講演の概要を紹介する。
講演をする戸田直員氏
波乱万丈の人生
戸田氏は1948年に静岡県掛川市で出生、その3カ月前に父親が亡くなり養親に育てられた。堤防下の河川敷に建てられた6畳一間のバラック小屋に7人家族で住み、水道や電気がない時期もあった。中学の頃からアルバイトをして学生服や文房具を買うのに充てるという生活。このような環境で育ったため、世の中を憎み斜に構え、ある時期までは「金持ちになりたい」「同級生に負けたくない」という負けん気だけで生きてきた。養子であることは中学2年生になって初めて知り、養親に高校には進学させることはできないと言われたため、中学校卒業後は老舗和菓子店に奉公に入ることになった。そこで商売の基本を学び、配達をするうちにいろいろな知識を得た。18歳で独立開業し、和菓子屋を経営するものの、売り上げはなかなか伸びず、合間に水道・土木工事をするようにもなった。1975年、27歳の時に戸田設備工業株式会社を設立した。高度成長期という時代背景のおかげもあって、建設現場や不動産業などで事業は成長、1989年には株式会社トダックスを設立した。振り返れば、35歳まではどんな仕事内容でも引き受けて、体を張って仕事に取り組んできたと思う。目標は常に高く持ち、目の前のライバルを必死に追いかけて、少しずつハードルを上げライバルを変えてきた。
50歳を前にして盛和塾に入塾、その後大病を患う。その経験を通して、現世での生き方を深く見つめることができ、心が自我から真我へ大きく動き始め、考え方が変わった。ある時、盛和塾全国大会で自分の人生や経営観を発表したことをきっかけに、講演依頼が多数入るようになった。今では、日本および北米の各地で商工・農業経営者対象のものや、高校・大学での講演、講師を務めるなど、多岐にわたる活動を行っている。講演をするようになると、話した内容に恥じない行動を努めるようになり、自分のために引き受けているような気持ちになる。そして、人生の目標達成のために、65歳で創業会社を完全退職し、名誉顧問となった。現在、トダックスは社長、専務、常務を3人の娘婿が継ぎ、長男が監査役を務める。戸田氏は同社顧問職の他に、トダコーポレーション(株)の代表取締役社長も務めている。また、マネージメント・リッチ・クラブという、中小企業の学びの場の事務局と企画運営のサポートにも携わっている。
オンリーワンを目指す経営を
トダックスでは、水道、空調、電気、工場の機械設備、建築土木、不動産とさまざまな事業を手がけている。大切にしていることは、顧客の顔が見える仕事をするということ。中間業者を通さず、下請けをせず、直接顧客と向き合うことで顧客満足度にもつながると考える。トダックスのサービスとして特徴的なのは、24時間年中無休ということだ。夜も当番の社員が常駐し、夜中であっても社員が電話を取り、現場に行くようにしている。中小企業は競争のプラットフォーム上では、大企業と互角に戦うことは難しい。あえてそのようなプラットフォームには上がらないようにすることも必要だ。そして、他社に真似できないような事業やサービス内容を構築し、自社流の市場を掘り起こし、顧客満足に努める。また、創業当時から経営コンサルタントと会計事務所に依頼し、健全な経営を行う一方、戸田氏自身は積極的に講演会や勉強会に出席し、経営方法や管理会計などを学んできた。社員の教育については、盛和塾塾長の稲盛和夫氏のフィロソフィーを参考にして、戸田氏が考える心を高めるための行動指針を記した、「しあわせ手帳」という冊子を作成して社員に配っている。自身もことあるごとにひもとき、自ら積極的に学ぶ機会としている。
また、今後のトダックスとグループ会社の経営方針について考えを示した。まずは、大家族主義の経営の推進。社員1人ひとりの家族が円満であることを重視し、社員の家族も全社員の家族であると考え、物心両面で社員を幸せにするように心がける。また、企業は外から潰されるのではなく、破壊は内側、つまり内輪もめからくると考えている。そのため、トダコーポレーションをホールディングス化(持ち株会社制)し、トダックスとトダホームサービスを子会社化した。ファミリー内のトラブルを避けるため、株主は創業者である自分自身の血縁者及び養子縁組者とする。そして、公明正大な経営目的と目標を追及し、盤石な財務体質と、常に時流を読み、商圏内に適合できる経営を心がける。こうしたことで、長く続く企業となるようにしていきたい。今後の経営環境は、グローバル化が進み市場が統合されていき、ITやAIの発達によって雇用にも変化が出てくるだろうと考える。そうした変化に合わせて、企業形態を変えていくことも必要となってくるかもしれない。
心の持ち方で人生は変わる
負けん気だけで、とにかく金持ちになりたいという不純な動機からスタートし、失敗の連続だった時期には悪い道にも走りかけた。そんな自分が、人生における「徳」を知ることができたのも、顧客や社員、家族や友人知人との出会いと支えがあったからこそだと感謝している。そしていま、自分を育ててくれた「この世」にできる範囲で恩返ししたいと考えている。
知識教養の少ない自分が体験や経験で学んだことは、「学びの量は徳なり」に尽きる。読書や多種多様な仲間との交流、海外研修などを通して多くのことを学んできた。そして、稲盛塾長による人生の方程式、「人生の結果=熱意×能力×考え方」。熱意や能力は0から100といった数値で表すことができるが、ここにマイナスである悪い考え方を掛ければ「人生の結果」はマイナスになってしまう。目標を達成するたびに傲慢にならないよう、常に自分を知る機会を作る。昨日よりも今日は成長するものだから、ひとは傲慢になってしまいがちだが、そこはいつも意識する必要がある。そして、高い目標を持つことも大切だ。低い目標で達成感を味わうと、謙虚さを忘れ傲慢になる。
稲盛塾長に「信仰しなさい」とよく言われたが、その真の意味とは感謝することだと気がついた。がんを患った時、お参りをしては「悪性を良性にしてほしい」「長く生かせてほしい」とお願いするばかりだったが、ある時から「いつもありがとうございます」と感謝するようになった。そのうち、医師から「悪性から良性になった」と言われた。それは医師の能力や抗がん剤が効いたおかげでもあるが、医師、看護師、周りの人たちに対する感謝する気持ち、つまり信仰心があったからだと思う。
過去は変えることはできないが、これから先の未来については、心の持ち方のスイッチを入れ替えることで変えることができる。ものごとがうまくいかないというとき、その現象をどう考えるか、を変えていく。常に前向きでいることで人生は変わっていくものだと信じている。
講演会の後は懇親会がもたれ、参加者が戸田氏にさらに詳しい話を聞いたり、質問をする姿が見られた。どんな質問にも熱心に答え、明るい前向きなパワーを感じさせる戸田氏の姿勢に励まされ、気持ちをかきたてられた参加者も多かったに違いない。
戸田直員氏 プロフィール
1948年、静岡県掛川市出身。中学校卒業後、浜松市内の和菓子店に就職。菓子製造業を18歳で独立起業。1975年、戸田設備工業株式会社を設立。1989年、株式会社トダックスを設立、代表取締役となる。2014年、代表取締役を退任し名誉顧問となる。現在は会社の枠を超え、自身の経験や経営観を後進に伝えている。
盛和塾
京セラ株式会社名誉会長、日本航空名誉顧問の稲盛和夫氏がボランティアで塾長を務める経営塾。1983年の創設以来、国内56塾、海外40塾で1万1000人余りの塾生が、人としての生き方と経営者としての心の持ち方を学ぶ。バンクーバーはシカゴ塾の全面的な協力により、支部として定期的に勉強会を開催している。英語での勉強会も行っている。
Facebook : @seiwajukuvancouver
(取材 大島多紀子)
戸田氏の講演に参加者は引き込まれた
戸田直員氏(前列右から2人目)を囲む盛和塾シカゴ・バンクーバー支部のみなさん。前列右から小茂田勝政氏(コーストホテル社長)、安部省志氏(JALバンクーバー支店長)、当日の司会も務めた中島千佳子氏、浜野ハイディ氏