2017年10月5日 第40号

ノータリーパブリック(Notary Public:以下ノータリー)は名前はよく聞くが、実際どんなサービスを提供しているのか意外に知らない人が多いのではないだろうか。住宅ローンの登記、遺言書の作成など法律の専門家の助けが必要なとき、日本語で相談したり書類の作成を依頼できれば心強い。今年8月にブリティッシュ・コロンビア州ノースバンクーバーで、千手ノータリーを開業した眞鍋恭子さんに話を聞いた。

 

 

眞鍋恭子さん

 

ノータリーを目指したきっかけ

 1988年に学生としてカナダに来ました。最初はコマーシャルの撮影助手など技術系の仕事に就いていました。その後、サイモンフレーザー大学(SFU)でマーケティングを専攻して学士号を取り、マーケティング畑で2014年まで働いていました。広告代理店や外資系の会社、ノータリーになる前はカナダ観光局に10年くらい籍を置いていました。

 でも、このまま観光局での仕事を続けていていいのかなと疑問があったんです。離婚をして、ひとりで小さい子供2人を養っていかなくてはならない。この仕事をしていると子供と過ごす時間がありませんでした。公務員の仕事とはいえ、勤務時間も長く、出張も多かったんです。そして離婚を経験した時、弁護士さんを使った手続きや裁判所へ出向いたりしたのですが、カナダの法律が全くわからなかったのですごく大変な思いをしました。離婚は成立しましたけど、その後の子供の面会権、養育費とかも決めなくてはいけない。こんなに大変なことをみなさんどうしてらっしゃるんだろう、と考えたんです。私は仕事をしていたのでまだ良かったかもしれないんですけど、(人によっては)離婚したくてもできない方とか、苦労されている方がたくさんいるんじゃないだろうかと思ったんですね。そういった方たちの何か助けになるような仕事はないだろうかと思いました。

 最初は弁護士になろうと考えたんですが、また4年学校に行くのも大変…。それと弁護士というのは自分にはなんとなく煮え切らない仕事かなと感じました。裁判に勝っても負けても弁護士は報酬をもらえますが、クライアントはどちらかが勝ち、もう一方は負けて、という結果が裁判官によって出てしまいます。自分の体験ですが、裁判は法律制度で必ずしも、当人にとってフェアーではないと思われる結果もよくあります。そんな時、ノータリーの仕事を見つけたんです。

ノータリーになるまでの道のり

 ノータリーになるには、まずノータリーパブリック連合会(以下ソサエティー)に準会員として受け入れられる必要があります。そのためにはリファレンスレター(推薦状)、成績表、履歴書などを用意しなくてはなりません。面接や書類審査の後、準会員として認められたらSFU大学院で修士号を取らなくてはいけないんです。大学院を卒業してから実習期間も含め、ソサエティーから課されたプログラムを消化して、ようやく州が行うStatutory Examという認定試験を受けることができます。それに受かればノータリーとして最高裁判所から認定を受けるというプロセスになります。

開業に至るまで

 ノータリーに任命されるまで学生でしたので、ビジネスを始める資金もない状態でした。ノータリーの事務所に雇われるということも考えていたのですが、なかなか就職難で競争率も高く、いろいろ悩んだ挙句、このままじっとしていてもどうにもならないし、どこかで投資をしなくては自分には戻ってこないなと思うようになりました。ノータリーになりたいと思った理由の一つは、ある程度自分で、目標や計画を立てて、労働時間を設定して、子供と過ごせる時間を大事にしながら仕事ができるということもありましたので、そのためには自分で開業するべきかなと思いました。

どのようなサービスを提供?

 よくノータリーと弁護士の違いはなに? と聞かれますがノータリーと弁護士は扱える法律の範囲が法で定められています。ノータリーは訴訟問題を扱うことはできませんが、弁護士と同じく法的アドバイスができます。また、ノータリーは修士号を習得しなければならず、一方、弁護士は学士号を取得する必要があります。

 ノータリーは日本の司法書士、行政書士、公証人の仕事を混ぜた感じなんです(注:実際の任務や業務はBC州の法律に基づいており日本とは異なる)。北米ではBC州、ケベック州、ノースカロライナ州だけが、ノータリーのできる範囲が広くて責任も重いんです。

 例えば、不動産や土地を売買する際や住宅ローン(モーゲージ)に必要な公正証書を作成し、登記も行います。他には、契約書の作成とアドバイス、例えば、レンタル契約を交わすときに、この契約書が法的に有効か、などをチェックして必要に応じてアドバイスをしたりします。

 また、法律にのっとった公正遺言書を作成します。任意後見契約を行ったり、委任状(Power of Attorney)などの書類を作成します。これは、存命中に事故や病気などで判断能力がなくなってしまった場合、後見人に銀行との取引や保険の受取、弁護士を雇うことなどをお願いする書類です。後見人は当人の希望によっては家を売買することもできるので、かなり大切な書類になります。また最近では尊厳死という言葉がよく聞かれますが、『このような延命措置はしてほしくない』などといった希望がある場合、尊厳宣言公正証書を作成しておくことが必要で、それをノータリーが作ることができます。

 皆さんがよくご存じなのはさまざまな公正証書の作成でしょう。例えば、宣言供述書(Statutory Declaration)ですが、これは署名をされる方の身分証明と『ここに書いてあることは本当のことです』という証明書です。未成年の学生さんの管理人契約書(Custodian)や認証謄本の作成もします。親御さんがお一人でお子さんを連れて海外に渡航されるときに、必要なレターを公正証書にすると安心ですね。公正証書にして携帯しなければいけないという国もありますので、事前にチェックが必要です。

日本語で相談できることの心強さ

 家を買ったり売ったりするというのは人生の中でも大きなお買い物にもかかわらず、慌ただしく書類にサインして終わってしまうというようなご経験をされた方も多いかもしれません。私としてはお客様にはきちんと内容を把握した上で契約していただきたいんです。(専門用語が)難しい英語の部分を日本語で説明させていただくことや、時間を長くいただき、どのような書類なのかを説明した上でサインをいただくことで、お客様にとってプラスになればいいなと思います。自分が苦労したことがたくさんあったので、お客様には苦労を課せず、ここに頼んで良かった、と思っていただけるようなサービスができたらいいですね。

 また、遺言などはお客様のいろいろな思い出や感情が詰まっているものだと思いますので、日本語の方が話しやすいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。財産をお持ちの方やご家族のいらっしゃる方は特に、年齢に関係なく遺言状を作成することをお勧めします。特にお子さんがいらっしゃる方にお伝えしたいのは、ご両親2人が同時に亡くなってしまったとき、もし遺言書がない場合は、後見人が決まるまでの間、または、後見人がいない場合は、パブリックガーディアンがお子さん(19歳未満)を引き取ることになります。後見人も書面での指定が無い場合、ご両親がご希望されていた方にならないかもしれません。自分たちにもし何かあったときのために、なにかしらの意思表示を公正証書として残しておくことは大切なんです。他にも、お葬式はどうするのか、借金は誰がどうやって支払うのか、住居はどうするのか、遺産処分はどうするのか、その時になってみるとやらなければならないことや、分らないこともたくさん出てきます。そんなときのために遺言書(死後必要な書類)や委任状(生前必要な書類)を持っていれば、事務処理や遺産管理もスムーズに運ぶかもしれません。

今後の展望

 自分のサービスについてももちろんですが、ノータリーができる業務について、もっと積極的にノースバンクーバーのコミュニティを始め、日系コミュニティにも広めていきたいです。無料セミナーや無料コンサルティングなどを通して、もっと理解を深めたいですね。また不動産仲介業者、ファイナンシャルプランナー、モーゲージブローカーの方たちと一緒にセミナーをやってみたいと思っています。

 社名の千手ノータリーは、千手観音からつけました。千の手と目がある千手観音のようにさまざまなお客様のニーズに応えながら、法律のプロとしてお客様のお手伝いをさせていただければと思っています。ノータリーの管轄以外の質問をいただいても、優秀なファイナンシャルプランナーや会計士などのネットワークを持っていますので、信頼できる方をご紹介させていただきます。

新報の読者にメッセージを

 私どもの職業はなんとなく上から目線というようなイメージありがちかもしれませんが、電話やメールでのお問い合わせにも英語、日本語で誠心誠意お応えします。ちょっとしたことでも心配ごとや気になっていることを、お気軽に相談していただけるような身近なノータリーになりたいと思っています。

 眞鍋さんと会って、その気さくで話しやすい雰囲気に安心感を覚える人は多いと思う。難しい法律的なことも分かりやすく説明し、納得いくまで相談に乗ってくれる、安心で信頼できるサービスを提供してくれる。シーバス乗り場とローンズデールキーのすぐ近くにあるオフィスもアクセスしやすくて便利だ。

(取材 大島多紀子)

千手ノータリー
住所:500-171 West Esplanade, North Vancouver
電話:604-454-8222
FAX:604-608-3980
ウェブ:www.senjunotary.ca
メール:This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。