2016年12月15日 第51号

バンクーバーでの新たな神輿グループを発足した晩香坡櫻會(バンクーバーさくらかい)が、神奈川県茅ケ崎市で唯一の神輿職人として活躍する中里康則さんを招いて講演会を開催した。11月26日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館に約30人が訪れ、茅ケ崎市の有名な祭り「浜降祭(はまおりさい)」の魅力や、相州(そうしゅう)神輿の特徴など、興味深い話に聞き入った。その講演の概要を紹介する。

 

 

中里康則さん

 

新たな神輿グループ発足へ

 講演に先立ち、晩香坡櫻會(以下、櫻會)代表の清野健二さんが、祭りや神輿などの日本文化を通して地域交流に貢献したいとの思いから、会発足となったと説明。そして、代々培われてきた日本の伝統文化を継承し、次世代へつないでいけるような活動をしたいと述べた。

 続いて、櫻會の後援者を代表して北の家Guu会長の北原良訓さんが、清野さんの熱い思いに押されて後援することを決めたとし、やるからにはたくさんの人が参加してくれる神輿を目指してほしいと激励した。また、櫻會の友好団体であるバンクーバー音頭から代表代理として、小嶋しのぶさんが挨拶に立ち、日本の文化をバンクーバーで広く知らしめたいという志を同じくする櫻會と共に活動する機会を楽しみにしていると述べた。講演会は櫻會の生田目謙さんと、バンクーバー音頭の加藤晴香さんが司会を務め、清野さんが聞き手となって進められた。

 

神輿の魅力

 日頃は神社に宿っている神霊を乗せて氏子町内を巡るための輿を神輿という。毎年7月の海の日に開催される茅ケ崎市の浜降祭で担がれる相州神輿は、担ぎ棒が2本の2点棒という作りで、担ぎ手は棒の内側に入り反対側の棒に手をつっぱった形を取る。台輪(神輿の土台部分)に付けられた鐶(和箪笥の引き手に形が似ていることからタンスともいう)を叩きながら拍子を取り、「どっこい、どっこい」「よーい、よいと」といった掛け声と、甚句という民謡の一種に合わせてゆったりとしたリズムで担ぐ。この掛け声からどっこい神輿、どっこい担ぎとも呼ばれている。神輿の魅力について中里さんは、老若男女誰でも心を一つにして担ぐことができることだという。どっこい神輿は、屋根と担ぎ棒がさらし布で結ばれており、そこに鈴がつけられている。担ぎ手が心を一つにしていないと、この鈴がきれいに弾んで音が鳴らないのだという。

 いわゆる江戸前といわれる4点棒の神輿が一般的によく見られるタイプのものだが、どっこい神輿とは担ぎ方が違うため、胴体の太さやスタイルなども違ってくる。中里さんはどちらのタイプの神輿作りも請け負っている。材料の選定から始まり、すべて手作業で行うので、1基作るのに平均して約半年ほどかかるそうだ。金属製の飾りや彫刻などは専門の職人にお願いするが、簡単な彫刻や彫金は自分でも手がけ、神輿に飾る提灯の製作もする。神輿の修復もしており、百年以上も前に作られた神輿の修復をすると、先人がどのように作ってきたかが分かりとても勉強になるという。

 

神様の里帰り

 中里さんの実家の隣にある松尾大神は、京都松尾大社の約1300ある分社の一つ。中里さんが5歳の時、新調された神輿を見て虜になり、ブロックや割り箸などを使って神輿を作ってみたりしていたという。また、この神社の神霊は京都から分かれてやってきた分霊であることを知り、「神様といえども親に会いたいんじゃないだろうか」と考えていたという。いつか神輿を自分で作りたいという夢をかなえて神輿職人となったあともその考えは消えず、神輿が新調されてから30年という節目の年を迎えるときに、神霊の里帰りをぜひ実現させたいと周りの仲間たちに相談した。しかしそんなことは到底無理、と周囲の人たちは大反対。協力者も得られないなか、中里さんは一人で京都の松尾大社や関係者などのところに何度も通い続け説得を続けたという。その熱意が通って2008年、ついに松尾大神の御霊が二百年ぶりに里帰りを果たした。京都の地元の人たちにも温かく迎えられ、神輿を通じて人と人のつながりができた。そして、最初にこの話を周囲の人に持ちかけた時、強く反対していた人が「(実現して)よかったな」と言ってくれたことにとても感動して、反対されながらもやってきて本当に良かったと思ったという。

 

湘南の祭り 浜降祭

 浜降祭は暁の祭典ともいう。参加する34の神社がそれぞれの神輿を茅ケ崎の西浜海岸へ向かって運び出すのが午前4時ごろから始まるためこのように呼ばれている。昔、茅ケ崎の寒川神社の神輿が、他の地域の祭りのため渡御したとき、途中の相模川で水に落ちて行方不明になってしまったという。後日、地元の漁師が海岸でご神体を発見し、寒川神社へ届けた。それからその海岸へ神輿を運び、みそぎを行うことになったのが始まりとされている(諸説あり)。祭典終了後には、それぞれの神輿が地元に戻り、家々の間を練り歩き「家内安全」「無病息災」といった神のご加護を得るという。中里さんの所属する神輿グループでも「参加してお神輿を担ぎたい」という人は誰でも歓迎とのこと。また担がないとしても、子ども神輿も含めると39基もの神輿が海岸に集まってくる様子は、一見の価値ありとのことだ。

 

質疑応答

 講演後寄せられた多数の質問に対して、中里さんが答えていった。「神輿の重さはどれくらいか」という質問には、「神様が乗るものであることから重さを量るということはしないので、どの神輿も大体何キロくらいと推測した重さしか分からないんです」とのこと。また神輿を作る材木には、けやき、ひのき、ひばなどが使われるという。使う材木の種類によって、重さも変わってくるので、どのように組み合わせて使うかも職人の腕の見せ所ともいえる。「神輿を担ぐときにしてはいけないことはなにか」という問いには、「神様が乗るものですから、人が神輿の上に乗るのは良くないですね」と答えた。また、櫻會で神輿を新調したいと考えているが、バンクーバーで使う神輿にはどのような彫刻がいいと思うか、という問いには、「例えば、林業が盛んということなので木を切る人の様子とか、鮭が網にかかっているところとか、この地ならではのモチーフを取り入れると、ここだけにしかないものができると思いますね」。「神社のないバンクーバーで神輿を担ぐとなると、そこには神が乗っていることにならないのでは」という質問には、「確かに神様が乗るものではあるけれど、神輿はそれだけのものではないと思う。健康や幸せなどを願う皆さんの『思い』というものを乗せて運ぶというものでも十分神輿を担ぐ意味があると思います」という。

 祭りや神輿に対する熱い思いを語ってくれた中里さん。好きなことを仕事にできたのも、自分を理解して支えてくれた家族や周りの人たちのおかげ、と話す。海外にいると日本の文化の良さを改めて発見する機会が多いが、この講演でも、参加する人みんなが楽しい気持ちを持って担ぐ神輿の魅力を再確認できたように思えた。

 晩香坡櫻會では、海の街バンクーバーならではのどっこい神輿を地域の人たちと担ぎたいと考えている。神輿製作への協力、質問など、興味のある人は、This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.まで問い合わせを。

(取材 大島 多紀子)

 

中里康則さんプロフィール
神奈川県茅ケ崎市在住。実家が神社の隣にあり、5歳のとき松尾大神の神輿を見て虜になる。 高校卒業後、埼玉県大宮市で大工の修業を始める。24歳の時、培ってきた経験と技能を活かし神輿職人として独立。現在までに100基近い神輿の製作と修復に関わっている。浜降祭では神輿グループの会長としても活躍する根っからの神輿好き。
中里さんの会社、神輿康(みこしやす)のウェブサイト:http://members2.jcom.home.ne.jp/mikoshiyasu/

 

 

左から生田目謙さん、清野健二さん、中里康則さん、小嶋しのぶさん、加藤晴香さん。手にしている提灯も中里さんが製作した

 

 

講演の最後に相州甚句を披露する中里さん

 

 

どっこい神輿を担いでいる様子がスライドで流された

 

 

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