2016年8月18日 第34号

広島から世界へ。文化交流を通じて世界平和を発信する広島から、広島カナダ文化交流使節団がバンクーバーを訪れた。広島市と姉妹都市のモントリオール市で8月5日(日本時間8月6日)に行われた平和式典に参加後、バンクーバーを訪問。8月9日、日系文化センター・博物館で広島カナダ文化交流親善ツアー公演を開催した。

公演では、日舞花柳流師範・花柳寿魁俚(じゅかいさと)さん、箏生田流宮城社師範・立川淑恵さん、雅楽大和主宰・木本いず美さん、人心身統一合氣道会聖心館道場・引地盛道さんと橋口高大さん、ソプラノ歌手・北小路旬子(じゅんこ)さんが、歌や演奏、踊り、武道を披露した。

会場では約130人が、広島から訪れた日本の伝統文化団の公演にしばし酔いしれた。

 

 

最後に岡井朝子在バンクーバー日本国総領事と夫君の岡井知明氏、使節団全員とゲストで記念写真

 

広島にとって歴史的な年

 交流使節団・吉中康麿団長は「文化は平和の大使だと思っています」とあいさつで語った。1945年8月6日、広島に原子爆弾が落とされたその瞬間から、広島は街の復興と共に平和を発信する都市としての役割を担ってきた。

 そして昨年、原爆投下から70年という節目の年を迎え、今年は4月にG7(先進7カ国)外相会合が、5月には現職のアメリカ大統領としては初めてバラク・オバマ大統領が広島を訪問するという歴史的な年となった。再び広島が世界から平和都市として改めて注目される年ともなった。

 そうした歴史的な年に広島からの使節団がバンクーバーを訪れた。日系センターのあるバーナビー市デレク・コリガン市長は広島が担ってきた世界平和都市としての役割を称え、同市が1989年に平和首長会議のメンバーとなっていることを紹介。その広島からの訪問団を「市民を代表して歓迎します」とあいさつした。

 岡井朝子在バンクーバー日本国総領事は、オバマ大統領広島訪問、G7外相会合に触れ、「核兵器のない世界を求めてきた私たちにとっては非常に心強い経験でした。このような71年目、ここバンクーバーに8月9日、訪問団がいらっしゃるということは非常に時機を得ているということではないかと思います」と語った。平和の基盤には文化・相互理解があると思う、その役割を担う広島からの団体がカナダでメッセージを発信することに「心より感謝いたします」と語った。

 

「喜んでいただけて良かった」

 会場には開場前から待ちきれない人々が列を作っていた。公演は、バンクーバーの和太鼓グループちび太鼓の演奏で始まり、人心身統一合氣道会聖心館道場・引地盛道さんの場を鎮める儀式で幕を開けた。

 日本舞踊、筝演奏、笙と歌、巫女舞、合気道実演、オペラ歌手による童謡など、日本を懐かしく思い起こさせる内容が満載となっていた。

 公演後、吉中団長は、「(会場に来た人に)手を握っていただいて、ありがとうと言われて、うれしいような恥ずかしいような感じでしたけど」と笑顔を見せた。「私たちは市民として、ほんと小さい力だけれども、少しでも平和の大使になれるように努力していきたい」と広島からの訪問団という役割を改めて感じていた。

 次回の訪問予定についても、確定はできないながらも「可能性はあると思います」と来年以降に期待させた。

 今回の使節団訪問に全面協力した広島カナダ協会理事の田中勝邦さんは、「たくさんの人が来ていただいて。評判も良くて、喜んでいただいたと思います」と、胸をなでおろしていた。来年はモントリオール市が、建設375周年を迎え、姉妹都市締結から20周年という節目の年となる。モントリオールへの訪問はもちろんだが、今回のようなバンクーバー訪問も念頭に入れていると語った。

 

「気持ちよく演じることができました」

 今回の使節団では、バンクーバー訪問が初めてという参加者がほとんど。一行がモントリオールから到着した8日から、バンクーバーの夏としては珍しい肌寒い日が続いたが、それでも「街がとてもきれいで」と滞在を楽しんでいた。公演の前には日系ホームを訪問。コミュニティでのつかの間の交流に心を和ませた。

 公演を終えた一行は、それぞれに「気持ちよく終えることができました」 と語った。トップバッターだった花柳寿魁俚さんは、今回のツアーでは「一番、気持ちよく、晴れやかにやらせていただきました」と笑った。「ほんとに静かに見ていただいて感激です。ありがとうございました」と感謝した。

 木本いず美さんは、筝演奏、巫女舞、歌と披露。「カナダの方に聞いていただけてほんとにうれしいです」と笑顔を見せた。「今年は(原爆投下から)71年ですけど、オバマさんもいらして」と木本さん。「一緒に平和を願って、この地球上が平和になるように広島の人は願っているので、そのメッセンジャーだと思っています」と、今回の初めてのカナダ訪問で感じた意味を語った。

 立川淑恵さんは「息子が高校の時にバンクーバーに語学研修で来ていて、バンクーバーの話をしてたのでずっと行ってみたいなって思ってまして」と笑った。今回は念願のバンクーバー訪問。「今日の会場も日本のホールよりもより日本的で」と感心した様子。「木の感じで、立派で、とても落ち着く。来た時に、これ素敵だって。私は和楽器なので、金屏風もあるし、和の雰囲気でさせてもらって良かったなって思います」。

 合気道を披露した引地さんは「非常に真剣なまなざしで見てくれて。会場から見ると、瞬き一つもしてないように見えたので、非常にうれしかったですね」と語った。刀や木刀での技も披露した。橋口高大さんは「すごく真剣に見ていただきまして、少しでも日本の文化と言いますか、我々は武道ですけども、そういった心に触れていただけて、感じていただけたら、うれしいなと思います」と語った。

 最後を飾ったソプラノ歌手・北小路旬子さんは「お客さんがたくさんいらっしゃってて。(自分が歌ったのは)童謡だから、年配者には懐かしいんだろうなって。ちょっと泣いてた人もいたりして。ウルッとして、懐かしい感じで聞いてくださって」と喜んだ。最後には会場にいた全員で童謡を合唱して、会は楽しいうちに閉幕した。

(取材 三島 直美)

 

 

花柳寿魁俚さん。公演前にはバンクーバーを観光、雄大な景色を見て、「こういう風に踊らなくてはいけないんだわって思いました」と笑った

 

 

立川淑恵さんは、琴の演奏以外に、笙(しょう)も披露。「聞いてくださる方が喜んでくださって奏者としては大変うれしかったです。感謝とお礼の気持ちでいっぱいです」

 

 

ジャズ歌手でもある木本いず美さんは、広島では雅楽と西洋音楽の融合グループ「Yamato」も率いている

 

 

合気道の引地さん(左)と橋口さん。「合気道というものを少しでも分かってくだされば嬉しいです」と語った

 

 

ソプラノ歌手・北小路旬子さん。「最後まですごくシーンと聞いてくださってて」と感謝した

 

 

開場から演奏をして人々を会場に迎えたちび太鼓

 

 

合気道の引地さんによる開会の儀式

 

 

「文化使節団の平和公演ということで楽しみにしてまいりました」と岡井総領事

 

 

吉中団長、バンクーバーでの歓迎ぶりに感謝の言葉を語った

 

 

吉中団長(右)から松井広島市長の言葉を受け取るコリガンバーナビー市長(左)

 

 

司会を務めたローレン及川JCCA会長(右)と通訳を務めたデイビッド岩浅・隣組前事務局長

 

 

日本を第2の故郷というジョセフ・キャロン元駐日カナダ大使。自身の目から見て日加間で最も活動的なのは広島の団体とあいさつで語った

 

 

公演が終わり、会場の外で歓談する参加者のみなさん

 

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