バーナビーにある日系センター、日系ホーム、新さくら荘の3つの施設。さまざまな教室やイベントが開催され、博物館も併設している日系ヘリテージセンターに対して、高齢者向けの施設が日系ホームと新さくら荘で、Nikkei Seniors Health Care & Housing Societyが運営している。


整った施設・サービスで人気
BC Housingと、Fraser Health Authority Careがサポートする日系ホームは、ケア付き住宅で、四階建て、59ユニット。そのうち広さ600平方フィート(55.74平米・約17坪)のワンベッドルームが56ユニットで、9ユニットは車いす専用だ。

建物内にはダイニングルーム・レストラン(Hi Genki)、ティールーム、談話室、アクティビティルーム、ヘアサロン、介助浴室などがある。一人もしくは二人で居住することができるワンベッドルームは、フルキッチン、洗濯機、乾燥機が完備。スタジオルームは電子レンジ、流し台、冷蔵庫付き。家賃は入居者の収入により、約800ドル~2500ドル程度だ。

入居対象は55歳以上で、長期介護サービスを受けている人や、介護サービスを必要としている人。日系人以外でも入居することができる。「現在、入居者全体の約3割は日系人・日本人以外です。日系人が中心なので、日系人、日本人と一緒に施設で快適に暮らしていける人が入居しています」とキャシーさん。「入居者は約70人で、多くは80歳以上です。規定では55歳以上ですが、Fraser Healthがアセスメントで介護を必要としていると認める必要があるため、実際には年齢は上になります」

対して、日系ホームに先立って1998年5月にオープンした新さくら荘は、高齢者向けアフォーダブル・ハウジングだ。中・低所得層対象の手ごろな料金で利用できる住宅施設となっている。

さくら荘もNikkei Seniors Health Care & Housing Societyが運営。Homes BCが賃料に補助金をだしている。

木造三階建て三十四戸あるユニットは、各600平方フィートで、浴室は車椅子使用が可能だ。キッチン、洗濯機、乾燥機完備、バルコニーつきで、一人か夫婦、パートナーで入居する。共同スペースやダイニングルーム、アクティビティルームなども備えている。

高齢者向け住宅の新さくら荘は入居者の平均年齢は約75歳。日系の高齢者は健康で自立した人が多いため、なかなか空きが出ないが、ここ数年で多少動きがあった。両施設とも空き室率は低く「今後のために入居を予約できるかと聞かれることがあります」とキャシーさん。しかし、残念ながらBC Housingなど政府が関係していることもあり、予約はできない。ただし、「タイミングがよければスムーズに入居することもできる」そうだ。

アウトリーチ、認知症患者介護と楽しみな今後の展開
Nikkei Seniors Health Care & Housing Societyでは、現在、2つの大きな計画がある。まずは高齢者のプログラムに関するニーズを検討するための調査だ。グレーターバンクーバーの高齢者を対象とする予定で、シニアのニーズを調べて、2012年を目標にアウトリーチプログラムを開始したいとする。

日系ホームと新さくら荘が生まれた背景は、当時、日系の高齢者がケア付き住宅や老人ホームを必要にしていたことがある。「待望の高齢者のための施設、日系ホームと新さくら荘がオープンして10年ほど経った。今後、15年から20年の間に何が必要となるか調べたい」とキャシーさんはいう。「調査に1年見込んでいます。そして、調査の結果から、どんなプログラムが必要か判断します」

高齢化社会は進んでいる。特に日系人は健康で長生きする傾向にあるし、できるだけ自宅で暮らしていきたいと考える人が多い。州政府が援助する高齢者へのサービスは、着替えや入浴、排泄に関わる手助けなどといった、身体に関する介護のみだ。しかし、実際は、ケア施設に移らなくても、多少のヘルプを得ることで、自宅で暮らしていける人も多い。たとえば週に1回、ヘルパーが高齢者の住まいを訪れて、まとめて食事を作っておくといったサービス。このような、ケア施設に入らなくてもよいものの、高齢者が必要とするニーズを満たすプログラムを準備する。

隣組のランチプログラムのようなものも検討中で、隣組とも話をしている。「あるいは経費を抑えて、サービスを提供するためにも、レストランなどと協力して進めることもできるかもしれません」と、コミュニティとしてシニアに対して何ができるか探っていきたいと語った。

ニーズに関する調査は、プロフェッショナルに高齢者が本当に必要とするものを見極めるために、既にスタッフの準備に取り掛かっている。グレーターバンクーバーに暮らす高齢者の真の声を反映するためにも、各方面の日系コミュニティの協力を呼びかけていくことになりそうだ。

もうひとつの計画は“アシステッド・リビング・プラス”と呼ばれる、軽度から中程度の認知症の高齢者を対象とするサービスだ。日系ホームは認知症の高齢者をケアすることはできないため、「緊急事態を判断できない、自分がどのようなサービスを必要としているか分からない場合は、残念ながら退居していただくしかありません」というのが現状だ。「ケアしたくても、法律で許されていないのです」

“アシステッド・リビング・プラス”はFraser Health Authorityの新しいプログラムで、まだ認可申請も始まっていない。しかし、Nikkei Seniors Health Care & Housing Societyでは、申請を開始したらすぐに申込みたいという。「2013年から2014年ごろには日系ホームのような施設でも、認知症の高齢者をケアすることができるようになり、政府の援助を利用できるようになる予定です。ですから、可能になり次第、申請できるように準備していく必要があります」

軽度から中程度の認知症の高齢者を対象とするケア施設は不足している。このことは、州政府やFraser Health Authority、そしてNikkei Seniors Health Care & Housing Societyも認識していて、“アシステッド・リビング・プラス”プロジェクトについても、現在、調査、話し合い、検討中だ。日系ホームを増築するか、新しい建物を建てるかなど、複数の可能性での形態を探っている。「アシステッド・リビング・プラスを加えることで、既存のサービスや施設を失いたくはありません」として、ビルディング・コミッティが、どのようにして実現することができるか検討している。「たとえば15ユニットというように小さい施設でもいいかもしれません」

移民の国、カナダ。メトロバンクーバーには、日系社会以外にも中国、韓国、イタリア、ドイツなど、さまざまなコミュニティがある。近年、他の国籍と比較して、日系人、日本からの移民がそれほど増えていない。

しかし、1877年に最初の移民がカナダに渡った日系社会は、長い歴史を持つ。第二次世界大戦で日系人は財産を没収され強制収容所に送られるなど、不当な扱いを受けたものの、不幸な歴史を1988年にカナダ連邦政府が認めて、謝罪と補償を行った。補償の一部は日系センター、日系ホーム、新さくら荘のプロジェクトに使われた。いわば負の遺産を正に転換した施設だ。

「ほかのコミュニティの人たちと話をする機会がありますが、日系社会のようなコミュニティ設備を熱望するものの、実現は難しいようです」と、恵まれた状態にある。日系人にとっての心の拠り所でもある施設。今後も力を合わせて支えていきたい。

日系ホーム
住所:6680 Southoaks Crescent, Burnaby, BC V5E 4N3
Tel::604-777-5000 FAX:604-777-5050
新さくら荘New Sakura-so
住所:6677 Southoaks Crescent, Burnaby BC V5E 4K3
Tel: 604-777-5000 Fax: 604-777-5050
www.nikkeiplace.org/nikkei-seniors/
(西川桂子)

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