10月30日、ダウンタウンのコースト・ホテル・コモックスで、第16回となる日系女性起業家協会(JWBA)主催の講演会が開かれた。ファイナンシャルアドバイザーの小林ひろこさんが、「お金の育て方」と題して、賢く資金を増やす方法を説明。会場には約70人が訪れ、専門的な話を分かりやすくした講演内容に熱心に耳を傾けていた。

 

 

ファイナンシャルアドバイザー(FA)の小林ひろこさん。「FAの仕事は、お客様に喜んでいただけることが励みになります」

  

 お金は育てるもの

 「植物、動物、子供、なんでも育てるのは同じで、育て方によっては、花も咲き実もなりますが、

枯れてしまうこともあります。どうやってお金を育てて大輪の花を咲かせることができるか、お話させていただきます」という言葉で講演が始まった。講演のタイトルは、JWBA会員であり、小林さんとも長年のつきあいがある許澄子さんが考えたそうだ。  まず、自分の資金をいつ使うかによって、短期、中長期、老後と3つに分けてプランを立てる。短期資金は、日々必要な生活資金、急な病気など予期せぬ事態に備えるためのもので、給与の6カ月分くらいを目安に、預貯金に入れすぐに取り出せるようにしておく。中長期資金は、住宅資金や子供の教育資金など、5〜10年ほどを目安にし将来のインフレに備えて、預貯金より高い利率の投資信託で運用するのが望ましい。そして老後資金のためには一生涯保証の年金プランなどが勧められる。

 投資には大きく分けて3つの種類がある。まず、銀行の定期預金(GIC)は、現在1年間の利子が0・4%、2年で1%、5年で1・75%ぐらい。日本では定期預金はほぼゼロ金利だが、約80%の人が預貯金に入れている。次に、株、外国為替、先物投資で、個人ですると市場のリサーチやチャートの分析などに相当時間がかかる。大きな儲けを得ることも可能だがリスクも高い。3つ目は株式や債券投資信託で、少ない資金で投資でき、金融のプロが運用してくれる。ファンドもいろいろな種類があるので分散投資して大きく伸ばすことが可能。ただしファンドによっては元本割れするものもある。北米ではほとんどの人が投資信託で資産運用している。株式、債券、不動産など値動きが違うものを組み合わせて分散投資し、リスクを減らすことが重要だ。

 例えば、運用できる資金として1万ドルがあるとする。定期預金(GIC)に入れると金利が0・4%で、1年目には1万40ドルになる。カナダのインフレ率が1年間で約2%なので金利がそれに満たず目減りし、GICだけでは将来に必要な資金を貯めることができない。では株に投資しようと思っても、1万ドルでは1つか2つの銘柄を買うのがせいぜいで、分散投資ができないリスクがある。また、銘柄選びや売り買いのタイミングをみるのも難しい。一方、投資信託だと、少額(1000ドルから)で世界中の市場に分散投資ができ、プロのファンドマネージャーが高度な手法を駆使して運用、管理してくれるので安心だ。元本割れするリスクがないわけではないが、利回りも大きいので、「一定のリスクを取った者だけが資産を増やせる」というわけだ。

 

有用な借金と無用な借金

 それでは、1万ドルの手持ちがないという人はどうするか。「まとまったお金ができたら投資」と考えているといつまで経っても始められないので、まずは1000ドルからでも投資を始めることを小林さんは勧めている。そして毎月100ドルでもいいので、できる限り積立運用することが賢明という。投資商品には価格変動があり、売り買いのタイミングをつかむのは難しい。常に一定の金額で毎月購入していくドルコスト平均法という購入方法もあり、長期的な資産形成を行う上で有効といえる。

 投資に回せるまとまったお金が手元にないのなら、銀行から借りるという手もあるという。

 現在、担保を必要とするLine of Creditの利子が3・2%で、担保なしならば3・7%と非常に低金利で借りることができる。投資利回りが10〜20%となるのでお金を借りて投資に回す方が得ということになる。例えば、1万ドルを借りると毎月の利子は約30ドル、この利子については全額が税金控除できる。投資の利回りが8%ならば、1年目で1万800ドルになり、実質的に資産が増えるということになる。カナダ政府も投資を奨励しているので、借りたお金を投資するとその利子が税金控除でき、節税にもなるというわけだ。

 借金をして投資をするということに抵抗を覚える人もいるだろう。しかし、これはお金が貯まってから家を買うのではいつまでたっても買えないので、モーゲージを組むのと同じレベレッジの原理だという。家というお宝を寝かせていてはもったいないので、今のような史上最低金利の時こそ、持っている資産(家、投資)を担保に最大限Line of Creditを組み、投資信託や不動産で運用して、お金を増やす絶好のチャンス。投資信託には、Segregated Fund(Seg Fund)とMutual Fundがあり、Seg FundはProbate(遺言検証)がなく、お金がすぐに受取人にいくという特典がある。

 一方、クレジットカードの場合は話が別で、20%以上という高い金利を払うだけの無用な借金となるので、毎月全額を返済することが望ましい。  

 

老後の安心のために年金プランを

 カナダの公的年金は先進国の中でかなり低く、老後に必要な額の40%程度にしかならない。また、今の若い世代は将来、年金の受取額が今よりもずっと少なくなるかもしれない。現在の超低金利の時代には、預貯金で貯めていては老後に必要な十分な資金を確保できないので、株式の比率を高め、積極的に運用する必要がある。金融機関各社が各種年金プランを発売しているのでそれを利用すると良い。こうしたプランで年金として受け取ると、税制優遇されてほとんど税金がかからない。

 老後に備える対策のひとつとして、終身保険が挙げられる。終身保険にはUniversal LifeやWhole Lifeなどがあり、積立金は非課税で貯まり、将来の年金としても使える。保険料は高いが人気が高まっているのがWhole Life。この保険の積立金は市場で運用されず、保険会社の利益の配当金で、毎年6〜8%の利回りが確実にある。ちなみに、保険料が安いという理由で掛け捨て保険だけに入る人もいるが、これはお金の無駄と小林さんは指摘する。例えば子供が成長するまでとか、家のモーゲージがある間など期間限定で終身保険の上に追加として加入するのはいいが、終身保険は必須だとのことだ。

 他にも、Registeredの金融商品はいろいろな特典があるので利用しない手はないという。Registeredとは政府に登録する、ということ。RRSPは非課税で、投資した額を税金控除できる。71歳になる年の年末まで積み立てができ、72歳からRRIFに替えて下ろしていく。TFSAは2009年から始まった非課税の金融商品。税金控除はないが、投資した資金は非課税扱いとなる。日本ではこれに似た商品でNISAがある。RESPは子供の教育資金のための積立で、これも投資した資金に対しては税金がかからず、政府から20%のGrant(助成金)が出る。さらに追加で15%のボーナスを上乗せしてくれる金融機関もある。  

 

 常にグローバルな視点で市場を分析し、顧客にとって安心できる最適な資産形成や資産管理を提供している小林さんならではの、内容の濃い興味深い講演だった。ファイナンシャルアドバイザーに投資について相談するということは、日本人にとってはあまりなじみのないことだが、カナダではもっと身近な存在だといえる。信頼できるファイナンシャルアドバイザーを持つことは、非常に有益なことであると感じた。   

(取材 大島多紀子)

 

小林ひろこさんプロフィール

東京外国語大学卒業。英国ロンドンの大和證券で日本株アナリスト、第一勧業銀行(現みずほ銀行)で日本国債トレーダーとして16年勤務。カナダに移住後、RBCで5年間、投資や保険を担当。現在は、IDC Worldsource Insurance Networkにて、投資、保険の専門家として、資産運用、リタイアメントプランを担当。株式、債券、投資、金融部門35年の経歴を持つ。

メール:This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

ウェブ:www.canadaeinvest.com

電話:604-727-2320

 

合間に質疑応答を挟みながらの講演。熱心にメモを取る人の姿もあった

 

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