ターミナル・シティ・クラブで和やかに開催

バンクーバー市内のターミナル・シティ・クラブで8月26日、日本・カナダ商工会議所の第12回年次総会と講演会が開催された。講演会ではトロントを拠点に活躍するカナダ三井物産社長の丸岡利彰氏が、商社のビジネスとカナダの経済についてわかりやすく説明した。その後は懇親夕食会となり、約60人の参加者がディナーを楽しみながら親交を深めた。

 

 

講演会で日加経済関係について語るカナダ三井物産社長の丸岡利彰氏

  

日加商工会議所第12回年次総会

  日加商工会議所はカナダ連邦政府に登録している唯一の日系経済団体として2003年に発足した。今年度の年次総会では、日本で病気療養中の小松和子会長に代わり、元会長の上遠野和彦氏が挨拶した。多民族で構成されているカナダ社会において重要なのは協調の精神。日加商工会議所の使命は、日系社会だけでなく他民族とも交流を深め、ビジネスと友好関係の発展を図ることだ。地元政府とのつながりも強く、昨年度の代表的な行事は今年1月に開催されたテレサ・ワットBC州国際貿易大臣の講演会だった。年次総会ではこのような行事の報告に加え、今年度の理事の紹介、会計監査報告、会則の改定の承認などが行われた。

小松和子会長からのメッセージ

 昨年に続き今年度も日加商工会議所の会長を務める小松氏は、年次総会に寄せたメッセージの中で組織について語った。組織を作るのは大変なことだが、それよりもさらに難しいのは、それを変革・推進していくことだ。そのためには、勇気とポジティブマインドが必要になる。「自分から始めるとリスクがあるので、他に従おう」という無難な態度では、新しい一歩を踏み出すことはできない。昨年は商工会でも変革があり、日本の大手企業の会員加入と理事への参加によって組織としての力が強化された。カナダに進出する日本企業が商工会を媒体として積極的に地域社会に参画することは、地元の日系社会の繁栄にもつながる。小松氏は商工会の活動に対する会員と理事のサポートに感謝の意を表した。

カナダ三井物産社長 丸岡利彰氏 「商社のビジネスとカナダの経済」

 講演会ではカナダ三井物産社長の丸岡利彰氏が、商社のビジネスとそれが地元へもたらす好影響について語った。丸岡氏はこれまでシカゴやニューヨークで幅広い業務を経験し、今年4月にカナダ三井物産社長に着任。今回の講演会では参加者へのクイズも交えながら、日加経済関係を解説した。講演の内容の一部を以下に紹介する。

日加間貿易

 日加間の貿易統計を見てみると、日本からカナダへの年間輸出総額は約8千億円で、最大輸出品目は輸送用機器だ。輸送用機器とは、主に自動車と自動車の部品。カナダで自動車を製造するトヨタやホンダが日本から調達する部品なども含まれる。一方、カナダから日本への年間輸出総額は約1兆1千億円。主要品目は石炭などの原材料と菜種・大豆などの農作物だ。2012年と2014年の貿易統計を比較すると、2012年には対日輸出品目の第一位が石炭だったのに対して、2014年には菜種・大豆が第一位になっている。この背景にあるのは国際的な石炭価格の下落だ。石炭の輸出量は大きく変化していないが、その価格が大幅に下がったために輸出総額が縮小した。

カナダの自動車産業と三井物産

 カナダにおける三井物産のビジネスは多岐にわたるが、特に自動車産業のサプライチェーンにおいては重要な役割を果たしている。その役割の一つが、鉄鋼製品の供給だ。まず、米国とカナダの鉄鋼メーカーから薄板を仕入れる。これは薄く延ばした鉄をコイル状にしたもので、大きなトイレットペーパーのようなかたちをしている。この薄板をオンタリオ州にある加工センターで注文に応じて切断・加工し、自動車メーカーや部品メーカーに納めるのだ。また、プラスチック素材の輸入も行っており、それをカナダの部品メーカーに納めている。その後その部品メーカーが、トヨタやホンダに部品を提供している。

輸送ビジネス

 カナダ三井物産はこのような貿易関連業務に加えて事業投資にも取り組んでおり、最も力を入れている分野の一つが輸送業だ。北米でトラックリース・レンタル事業とロジスティクス事業を行う会社に出資し、部品メーカーから自動車メーカーへの部品の搬入や、工場間の荷物の輸送などを行っている。昨年は天候不順で、輸送業に深刻な影響が出た。記録的な大雪で鉄道や高速道路などの輸送網が遮断され、場合によっては復旧に数カ月から半年もかかったのだ。そのためカナダ三井物産も大変な苦労をした。しかしこの出来事は、三井物産がカナダの輸送網の中で重要な役割を担っているということを反映することにもなった。

エネルギー分野のビジネス

 エネルギー分野では、三井物産はカナダ産の石炭を日本に向けて輸出し、鉄鋼メーカーや電力会社に納めている。オーストラリアやインドネシアの石炭と比較すると、カナダの石炭は価格競争力の面で劣ると言える。また、他のエネルギー源と比較すると石炭は燃焼時の二酸化炭素排出量が多く、地球温暖化防止の観点からも不利だ。これを受けてカナダでは西海岸の液化天然ガス(LNG)への期待が高まっており、複数の日本企業が天然ガスの採掘やLNG基地の建設に関わっている。しかし昨今のエネルギー状況の変化によりLNGも供給過剰になっており、今後の価格動向が注目される。

食料分野の取り組み

 カナダの対日輸出の最大品目となっているのが菜種・大豆だが、三井物産もこれらを穀物メジャーから仕入れ、日本の食料メーカーに納める仕事をしている。カナダ産の菜種を使用した良質な菜種油は、日本の消費者の間で特に需要が大きい。グローバルな食料需要が拡大する中で、食料事業の重要性は高まっている。動物性タンパク質について考えてみると、近年、肉よりも魚に注目が集まっている。畜産よりも魚の養殖の方が、動物性タンパク質の生産手法として効率が良いからだ。三井物産もチリでサケの養殖事業に出資参画するなど、食料の安定供給のための取り組みに力を入れている。

三井物産と地元経済への好影響

 このように三井物産は幅広い業務に携わっているが、いずれの場合もモノが移動するということがビジネスの基本になっている。カナダにおいては事業会社を経営することで雇用を創出するのはもちろん、トラックを活用した輸送や保管などにも広く関わることで、カナダのあらゆる産業に好影響を与えている。「日本で生まれて世界で育った」がキャッチフレーズの三井物産。カナダにおいてもその基本精神を忘れず、カナダと日本の関係を近づける役目を果たしていきたいと丸岡氏は語り、講演を締めくくった。

橋渡しの役割を果たす日加商工会議所 在バンクーバー日本国総領事・岡田誠司氏

 丸岡氏の講演に続き、在バンクーバー日本国総領事の岡田誠司氏から挨拶があった。その中で岡田氏は、日加商工会議所の果たす橋渡しとしての役割の重要性を強調した。商工会はさまざまな活動を通して、日本とカナダのビジネスのつながりを強くしている。岡田氏の総領事としての仕事はBC州政府と日本のビジネスをつなげることだが、それに加えて、日本とカナダのビジネス同士が協力して政府に働きかけるということも非常に重要だ。今後ますます商工会が発展し、日加経済関係に大きく寄与していくことを願っていると、岡田氏は語った。

 講演会終了後は懇親夕食会が行われ、参加者はそれぞれにリラックスした様子で歓談の時間を楽しんでいた。日本への航空券など、豪華賞品が揃ったサイレントオークションも行われた。

(取材 船山祐衣)

 

 

日本で病気療養中の小松和子会長に代わり挨拶した元会長の上遠野和彦氏

丸岡氏はユーモアを交えながら、カナダ三井物産のビジネスをわかりやすく説明した

ターミナル・シティ・クラブの会場には約60人の参加者が集まった

挨拶する在バンクーバー日本国総領事の岡田誠司氏

 

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