バンクーバービジネス懇話会、日本・カナダ商工会議所、企友会、BC州日加協会、建友会、日系女性起業家協会共催 

〜官民連携で「日本」発信〜

門司大使は今年4月、駐カナダ大使として着任。悦子夫人と共にブリティッシュ・コロンビア州を公式訪問中の9月9日、バンクーバー、ダウンタウン、コースト・コールハーバー・ホテルで開催された昼食講演会でスピーチを行った。 日加間の経済・安全保障協力関係のさらなる進展と、日本文化の普及にも力を入れたいと熱く語る門司大使のスピーチに、会場の150人はじっと聞き入った。

 

 

スピーチを行う門司健次郎大使

  

■日系コミュニティとの交流

  正午から始まった昼食講演会は、バンクーバービジネス懇話会交流担当役員の上遠野和彦氏による司会で進められた。

 まず、バンクーバービジネス懇話会会長の近藤隆雄氏が開会の辞を述べた。

 この昼食講演会は、バンクーバー日系経済団体連絡協議会所属の6団体による共催。加えて、門司大使が日本酒造青年協議会が叙任する称号「酒サムライ」を有することから、BC州日本酒協会も協力団体になったと説明。また、同大使のBC州公式訪問は、日系コミュニティとの懇親も目的であることを強調し歓迎した。

 次に、BC州日加協会会長のスティーブン・アーチャー氏が、門司大使の略歴を紹介。「酒サムライ」として海外への日本酒普及に活躍する同大使のユニークな一面にも触れた。

 この後、門司大使が登壇。まず、これまでの日加関係の推移について包括的に述べ、その後、3分野の重点項目について話を移した。以下はそのスピーチの一部である。

 

■日加関係、再度の進展が目標

 日本とカナダは、民主主義、人権、法の支配などの価値観を共有し、良好な関係を築いてきた。

 1970年代半ばより日加間の経済関係は急速に発展。また、75年より始まった先進国首脳会議からは、世界の政治・経済上の重要な問題について緊密な政策調整を行ってきた。このように、日加関係はますます深まったと考えていた。ところが、現在、日加関係はその絶頂期にあるのではないことを知ってショックを受けた。貿易と観光の分野を例に取り上げたい。

 日加間の総貿易額の最高は2000年。その後、14年までに7パーセント減少した。実際、2002年まで日本はカナダの第2の貿易相手国であったのが、09年以降は米国、中国、メキシコ、英国につぐ5位に後退。BC州では日本との貿易額は、2000年から14年までに45パーセントの減少となった。このような状況に陥った原因として次の3点が考えられる。

①日本での約20年にわたる不況。

②北米自由貿易協定(NAFTA)をはじめとしてカナダが締結した自由貿易協定の影響と、日加間での自由貿易協定の未合意。

③中国の経済面での台頭。

 観光業では、2014年、日本からカナダへの観光客は28万人近くであったが、この数字は過去最高を記録した1990年代半ばの3分の1でしかない。

 両分野における大幅な減少に驚くが、反対に、これは将来へ向けて日加関係を再発展させる可能性への示唆と考えたい。その促進のため、経済関係、安全保障ならびに防衛協力、文化交流の三つの分野に焦点をあて取り組んでいきたい。

 

■経済関係の強化 

 貿易・エネルギー・科学技術の分野を念頭に、日加経済関係の強化・推進を目指す。また、これまでの経済補完関係を超えることも鍵となる。

1.貿易…日加経済関係の基盤。

 日本、カナダを含む12カ国での環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉は、大詰めを迎えている。日本は、カナダ・米国との自由貿易協定が未合意のため、TPP合意は非常に大切であり、早急な妥結を期待している。

 また、日本・カナダ経済連携協定(CJEPA)も交渉中。エネルギーの安定供給、人の移動など、TPPではカバーされない分野での経済連携が可能になるからである。

2.エネルギー… 日加相互で恩恵が期待できる分野。

 日本はエネルギー供給の90パーセント近くを輸入に頼っている。特に電力源としての化石燃料の海外からの輸入は、以前は61パーセントであったのが、2011年の福島第一原子力発電所の事故以来、大幅に増加。翌12年には88パーセントにも上っている。その中でも液化天然ガス(LNG)の輸入割合は、29パーセントから43パーセントに上昇した。

 本年7月に公表された『2030年エネルギーミックス』では、同年の日本におけるLNG使用量は各種エネルギーのなかで27パーセントを占め、原子力をはじめとする他のエネルギーより高い割合とされた。そのため、LNGの安定供給ならびに輸入先の多角化は今後、日本にとって必須の課題である。そこで、政治的に安定し、海上輸送路に隘路の存在しないカナダが注目されている。日本はカナダからのLNGのタイムリーかつ競争力ある価格での輸出が実現することを期待している。

 一方、カナダにとっては、LNGの輸出先を多角化することが重要。かつて主な輸出先であった米国は現在、エネルギーを輸出する国になっているからだ。

 世界では多くの国々がLNG産出と輸出に力を注いでいる。LNG開発は長期プロジェクトであり、輸出のチャンスを逃すとなかなか次が回ってこない。本件についてはタイムリーな決定が重要である。

3.科学技術協力… 1986年の日加科学技術協力協定の締結後、活発に進展。

 現在、重点研究分野は、①幹細胞・再生医学、②ナノテクノロジー、③持続可能なエネルギー、④北極研究。  2016年には同協定に基づく会合がオタワで開催される予定。

 多くの優秀な研究が行われているUBCとは、さまざまな分野での連携が期待できる。

 ライフサイエンス分野では、二人の日本人科学者が栄誉あるカナダガードナー国際賞を受賞する予定。現在進行中の連携プロジェクトに加え、今後もこの分野での両国の協力が続けられることを期待する。

4.補完関係からの移行… これまでの日加経済関係は、日本は天然資源をカナダから輸入、製造業品をカナダに輸出という補完関係であった。しかし、カナダも先進工業国であり、対外輸出の上位30パーセント近くが製造業品となっている。そこで、個人的見解ではあるが、今後は、直接投資などを含めた競争力ある市場での経済関係を推進し、単なる補完関係を超えた次のステージを目指すべきと考える。

5.日系企業支援… カナダには約750の日系企業がある。そのうち250がBC州。製造業、鉱業、エネルギー関連が主要な進出分野。最近、ビデオゲームやアニメ等、エンターテイメント分野の企業が新規参入。

 日加経済関係の着実な発展に、在カナダ日本大使館と四つの総領事館は、日本貿易振興機構(JETRO)などの関係機関と協力しながら、これからも日系企業の活動や新規参入を支援していく。 

 

■安全保障・防衛協力の強化

 日本の外務省と防衛省で30年近く安全保障・防衛にかかわってきたが、近年の世界の安全保障環境の複雑化にかんがみれば、アジア太平洋地域に属する日本とカナダが安保面での協力を強化することは極めて重要と考える。カナダには、アジア太平洋地域について経済的視点のみならず、安全保障の視点も持ってバランスのとれた見方をしてほしい。これまでの両国間の協力には、次のような進展があった。

①日加の外務・防衛次官級による定期的対話(2プラス2)。日加安保シンポジウムの開催。

②日加物品役務相互提供協定(ACSA)…日本の自衛隊とカナダ軍の間での食料・燃料・役務などの相互提供に関する協定。2013年9月、日加で大筋合意。

③防衛協力のための交流…自衛隊艦船のバンクーバー他への寄港、統合幕僚長の15年ぶりの訪加、海上幕僚長の訪加。

 

■文化交流の促進

 次の四つの分野を通して日加両国民の相互理解を促進したい。

1.文化交流… 日本の伝統的・現代的文化を紹介する催しの開催。アニメ、漫画、Jポップなどのポップカルチャーは、特に若い世代に人気があり、日本および日本文化全体への入口としての役割が期待できる。

 例えば、今年8月、モントリオールで開催された日本ポップカルチャーイベント『オタクソン』に参加したが、3日間で3万5千人動員の盛況な催しに、日本の新しい文化の魅力の広がりを感じた。

 和食や日本酒のような日本の伝統文化は、「ソフト・パワー」として外交上でも有効な交流手段。2013年、和食はユネスコの無形文化遺産として登録された。一方、日本酒については自ら「酒サムライ」として普及に力を入れている。

2.教育交流… 2013年、約1万1千人の日本人留学生がカナダに滞在。しかし、カナダから日本へは約350人にすぎなかった。

 大学間の交流は近年増加しており朗報。

3.人的交流… 諸外国の青年を日本に招致し、日本各地に配属して語学指導等を通して国際交流を促進しようとするJETプログラムは、1987年開始以来、着実に実績を積んでいる。カナダからの参加者は今日までに8千400人以上にのぼる。 

4.観光… 経済効果もある有効な交流方法。2011年の東日本大震災後、激減した日本へのカナダ人観光客の数はこのところ増加傾向にある。14年には18万3千人で過去最高となった。

 訪加日本人数は、ピーク時の90年代半ばの3分の1に落ち込んだことは前述したが、日加間を飛ぶ航空便の新規就航などの影響もあり、回復基調にある。官民が連携してさらに双方向の観光を促進していきたい。

 カナダは10月に連邦総選挙をひかえている。どのような結果になろうとも、日本とカナダがこれまで培ってきた協力関係が揺らぐことはない。

 門司大使のスピーチが終了すると、会場との質疑応答の時間が設けられた。移民、国籍、難民問題などに関する質問があり、回答が行われた。その後、日系女性起業家協会前会長の島田友子氏が閉会の辞を述べ、昼食講演会はおひらきとなった。             

(取材 高橋百合)

 

門司健次郎大使略歴

1952年北九州市生まれ。1975年東京大学法学部卒業、同年外務省入省。主に、条約、安全保障、文化交流を担当。在外は、フランス、豪州、ベルギー、英国の大使館、欧州連合日本政府代表部に勤務。その後、外務省条約局審議官、防衛省防衛参事官を経て、2007年駐イラク大使、2008年外務省広報文化交流部長、2010年駐カタール大使、2013年ユネスコ政府代表部大使を歴任。2015年4月より駐カナダ大使兼国際民間航空機関政府代表。日本酒造青年協議会「酒サムライ」として日本酒普及活動も展開中。

(在カナダ日本国大使館ウェブサイトより転載)

 

スピーチを行う門司健次郎大使

 

名刺交換を行う門司健次郎大使(左)、悦子夫人(中央)、出席者

 

 

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