7月24日、バンクーバー日系ガーデナーズ協会会館で、「サスティナビリティを目指す造園と建築」というテーマで、ガーデナーズ協会と建友会のそれぞれのメンバーが集まり、勉強会が行われた。地球環境の保全という観点から「サスティナビリティ(持続可能性)」は、欠かせない課題で、造園・庭園、建築・建設、それぞれの専門分野から何をなすべきか、現状はどうなっているのかを発表し、熱い議論を行なった。

 

 

(左から)三河さん、ミネさん、伊藤さん、西端さん

  

 まず、ガーデナーズ協会会長・金田守央さんの「異常な降水不足のためBC州南部の散水制限がレベル3に引き上げられた。異常気象の危機は緊急度を増しており、サスティナビリティへの取り組みは喫緊の課題…」との開会のあいさつで始まった。

●プレゼンテーター伊藤公久さん(建友会会長・プロフェッショナルエンジニア)の講演概略

 今世紀、世界で最も重要な課題とされる「サスティナビリティ」を我々はどのように理解し対応していくべきかを考えてみたい。まず、我々の専門の建築分野からのサスティナビリティへの取り組みの現状から検討してみたい。

<森林育成と木造建築>

   地球温暖化抑制にも重要なカギを握る森林の育成に、BC州は先進的な取り組みを行なっている。BC州は世界最大の認証森林を保有し、100パーセント法的規制に準じて管理している。伐採は、年間20万ヘクタール以下(0・3パーセント以下の伐採可能な森林地帯)と決め、2015年までに完全な持続可能な森林作りを目指している。しかも、植林は自生樹、または遺伝子組み換えではない種を使用。植林は年間約2億本行い、伐採や山火事、虫害などで枯れる樹木とのバランスを取っている。

 一方、建築分野では、「WOOD FIRST ACT」を2009年10月、BC州で条例を定めた。病院、学校、リクリエーション施設、高齢者養護施設などの公共建築物の主要部材に木材を使用することや、グリーン産業の推奨策、エンジニアウッドの開発、普及を行なっている。また、2010年にはBC州建築基準を改正。6階建て集合住宅での構造材に木材使用が認められ、さらに、集合住宅の中層、高層に向けた検討がなされている。

 さらに、木質集成材やエンジニアウッドによる構造材、内装材への導入、屋根構造材へも木質集成材が使用されている。エンジニアウッドは、強度、精度が安定し、デザインもフレキシブルに対応でき、経済性にも優れている。同時に、成長の早い木の利用、同容量で少ない樹木の使用量でできるため、天然資源の保全になり、また、製造工程では省エネができCO2排出量が少ないというメリットがある。こうしたことが理解されカナダでは、大多数のビルダーがエンジニアウッドを使用している。

 2020年には、「Greenest City in The World」を宣言できるよう、官民一体となって環境づくりを目指している。

●プレゼンテーターミネ・ビエラーさん(認定樹木士)の講演概略

 環境保護のために課せられているランドスケープに関する現状を報告。

<樹木保護のための法律、 害虫除去コントロールなど>

 バンクーバー市では、1996年から23000本以上の健康な木(DBH《胸の高さ、1・4メートルの直径》が20センチメートル以上)が伐採され続け、ついに2014年4月16日に健全な都市の緑化を維持していくために、The Protection of Trees Bylawが改正された。それ以前は土地・家屋の所有者であれば、年に1本は市の許可なしで伐採可能だったが、改正後はDBHが20センチメートル以上であれば、たとえ枯れていても、許可なしでの無断撤去は違法となった。伐採や移植に際して、認定された樹木士(Certified Arborist)のArborist Reportが市から要求されることも多い。許可申請費用は、最初の1本が65ドル(税込)、2本目からはそれぞれの木に186ドル(税込)。いずれも12カ月有効で、多くの場合、伐採・撤去した木の代わりに直径6センチメートルで3メートルの高さの木を植えることが義務付けられている。

 また、バンクーバー市は以前よりグリーンプログラムを積極的に遂行しているが、殺虫剤などの使用を極力減らしたIPM(Integrated Pest Management)のポリシーを1990年、カナダで初めて導入。IPMでは、まず観察することからはじめ、何が原因で何の病害虫であるかを見極め、清潔を保ち、健康で肥沃な土壌、環境に合った植物を選ぶ。虫網を張る、害虫や病気の発生した葉や枝などを剪定、あるいは手で取り除く。薬剤は最小限にし、危険の少ないものを選び、本当に必要なタイミングを見計らって使用するなど、いろいろな方法を組み合わせる。そしてIPMの最終目標は、病害虫をあくまでもコントロールするのであって絶滅を目的とせず、自然環境をSustain(維持し守る)ことにある。

●プレゼンテーター三河慎修さん(建築会社経営)の講演概要

 サスティナビリティの一部としての住宅リサイクルプラン。

<古い家を解体する時、発生する「アスベスト」の処理について>

 新築の多くは、古い家を解体した後に建てる場合が多いが、解体時の部材の処理法が厳しく定められている。特に、バンクーバー市は、厳しく細かに分別をして、リサイクル率を高めている。古い家の場合の解体で直面するのが「アスベスト」の飛散。これを防ぎ、処理しなければならない。実際には、解体前のリサイクルプラン、解体後のリサイクル処理の申請書等は建築業者が、実際の処理は専門業者が代行する。

 「アスベスト」は極微細なガラス質の物質で、吸い込むと肺などに刺さりガンの発生原因となる。昔は、機密性、防湿、断熱性を向上するための資材として重宝され、多く使われていた。健康被害が言われるようになり、現在は代替品が使われるようになったが、「アスベスト」は意外な場所に、意外な形で使用されていた。その一部を写真で紹介した。

 

パネルディスカッション

 司会をガーデナーズ協会の金田会長が務め、プレゼンテーターの3名に、造園会社マネージャーの西端ティムさんを加え、パネルディスカッションが行なわれた。

司会 サスティナビリティと経済の関係について議論を深めていただきたい。

伊藤 Greenest Cityを目指すバンクーバー市は、目標とそのための具体策を挙げている。目標はゼロカーボン、ゼロ廃棄物、健康的なエコシステム。これに対して具体策は環境ビジネスの振興を挙げている。サスティナビリティを進めようとすると、これまでにないビジネスが生まれる、新しい経済効果も期待できるわけです。

ミネ 伐採された庭木は主にチップ状にされ土として再利用されていますが、質のよい木は家具材に生かしてほしいものです。どなたかそうした新ビジネスを始めてみませんか。

三河 解体した廃材の処分やコンサルタント業務などは、まさしく環境ビジネスで、そのコストも大きく、ビジネス規模は拡大しています。建築価格に反映しますから、我々にとっては痛し痒しの面もありますが…。

西端 例えば、ビルの屋上に造園し、断熱と同時に観賞する楽しみや昆虫、野鳥を呼んだり、また、家庭や学校で菜園を作り、ファミコンなどではできない自然と触れ合う子どもの教育に生かすなど、これもサスティナビリティの一環かと思います。

司会 すみません。時間がなくなってしまいました。もっともっと議論を重ねなければならないテーマですし、我々のビジネスとも密接な関係があります。今後、機会を設け、引き続き勉強していきたいと思います。本日はありがとうございました。

(取材 笹川守)

 

 

開会の挨拶をする金田守央さん

伊藤公久さん

ミネ・ピエラーさん

三河慎修さん

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。