國方篤子(くにかたあつこ)

バンクーバー・キツラノ地区で、女性対象の空手教室を開いている國方篤子さん。指導をしている間は、小柄な体からは想像もつかないような張りのある気合いの入った声が道場に響く。「空手が大好き」と話す國方さんの、ポジティブでひたむきな姿勢は多くの人をひきつけている。

 

 

國方篤子さん(中央)。息子さん(左端)と娘さん(右端)は指導員として入っている

  

熱気あふれる練習風景

  毎週水曜日、午後5時45分からの女性を対象とした空手教室。國方さんが属しているのは、愛知県に総本部がある東真会(糸東流)という団体だ。國方さんは、ここカナダ支部で支部長を務めている。

 教室は、國方さんの「整列」という掛け声で始まる。準備体操で体をほぐした後、大縄跳びをしたり、ゲームを取り入れたりして、瞬発力を養う。その後、突き、受け、蹴りなどの基本稽古へ。みんなと気持ちを一つにして、気合いを入れながら、技に集中している。基本稽古の連動が、空手の命でもある型(人の攻撃などを想定した動き)だ。稽古をすればするほどに磨きがかかる、奥が深いものであり、自分自身と向き合える瞬間でもあるという。そして、空手の醍醐味でもある組手(スパーリング)は、心、体、技の総結集であると、國方さん。「手足に防具をつけ、お互いを思いやりながらの組手は、ストレス発散にももってこいですよ!」と話す。寸止めのルールがあるので、身体的な接触がないのも安心だ。「自分の体力に合わせた動きで、のんびり、そして和気あいあいとした雰囲気の教室なんですが、『礼に始まり礼に終わる』武道の精神は忘れません。空手を通して健康増進、護身、そしてくじけない精神力を育んでほしいと願いつつ指導を続けています」と國方さんは言う。

 教室に通い初めて3カ月という女性は、「バンクーバー新報に『50代以上の方、大歓迎』と書いてあって、やってみようと思ったんです。忙しくてなかなか練習ができないんですが1週間に1回でもここで空手をやって、楽しいですね」と話す。

 

もっと女性にも興味を持ってもらいたい

ーこちらの空手教室では50歳以上の女性も歓迎ということですね。

「空手は女性にはなじみが薄いようですね。初心者の方は、最初はおぼつかない動きであっても、回を重ねるごとに、技がどんどん自分の体に染み込んでいくのを実感されると思います。50歳以上に限定しているわけではなくて、そのくらいの年齢からでもできますよ、という意味合いで(広告にも)出させていただいてます」

ーこの教室は何年くらい続けていますか?

「15年前に開設しました。その前は、バンクーバー日本語学校で4年間、生徒さん達を対象に空手を教えていました」

ー女性を主に対象にした教室を開くきっかけは?

「こちらにきて、女性だけのクラスをオープンし、20〜60歳代まで幅広い年齢層の方に来ていただきました。50〜60歳代の方に教えるのは初めてで心配だったのですが、1年も過ぎるとめきめきと体力が上がって、『人間の体ってすごいなぁ』と感嘆しました。最初は足もあげられなかった人が、1年後には縄跳びでぴょんぴょん跳ねている。びっくりしましたし、私のほうがいろいろと勉強させていただきましたね。指導員をやっていて良かったな、と思いました。そうしたことから、女性の健康増進に役立つ空手の指導ができたらいいなと思ったんです」

ーこちらの教室では空手の段を習得することもできますか?

「はい、そのお手伝いもさせていただいてます。私どもの流派では帯は5段階になってます。もちろん、中にはそういうことに興味はなく、健康のために続けている方もいます。それぞれの受け止め方ですので、生徒さんの気持ちにお任せしています」

 

空手は人生の大切な部分

ー空手との出会いは?

「大学時代に事故に遭い、むちうち症になってしまったんです。かなり長い間、痛みと頭痛と闘いました。そんな時、文化センターの講座の広告で『空手』がぱっと目についたんです。今まで空手のことを何も知らなかったけれども、見学もせずいきなり始めてしまった(笑)。武道をしたら姿勢が良くなって首の痛みなんかにもいいかな、くらいに思って始めたんですが、いつの間にか、のめりこんでしまいました」

ー空手というと痛そうで怖いイメージがありますが…

「暴力的なイメージはあるようですね。でも、叩くとか蹴るといったことは、攻撃ではなくて護身なんですね。それをどこかではき違えてしまっているのかもしれません。私は、柔道や別の空手の流派など、他の武道の経験もあるんですが、どれにも『護身』という相通じるものがあると思います」

ーいわゆる自己防衛の1つとして空手を捉える方もいますか?

「そうですね。そういった考えは人それぞれですが。私の総師範が『空手は戦うものではなくて、いかに危険を察知するかだ』と仰っていました。まず、危険を察知すること、そこが大事かなと思いますね」

ー空手をすることで精神力が鍛えられますか?

「心と体と技ってつながっている、と私は考えます。体を鍛えることで心も鍛えられる。人生いろいろとありますけど、『負けないぞ』という気持ちが養われたと思います。私にとっては、空手をすることは人生の大切な部分です」

ー空手を続けていくうえで大変だったことは?

「うーん、空手は大好きなので特に大変とは思いませんでしたね。子育て中はいろいろと両立するのが大変だったこともありましたけど。自分のなりふりは構わず、でも空手だけは絶対やるという感じで。空手があったから、あれもこれもできたかな、と思いますね」

 カナダへは1990年に、企業移民として一家で移住。しかし、ご主人は日本で仕事をすることがほとんどで、國方さんは小さいお子さんを抱えながら慣れない土地で頑張ってきた。そんな中でも空手だけは続けてきたという。そんな姿を見て育ったお子さんたちも自然に空手を始めるようになり、今では指導員として國方さんを支えている。「指導員としての私を求めてくださる生徒さんがいる限り、(空手教室を)続けていきたいですね」と語る。「あまり物事をひきずらない。単純なんですよ」と笑うが、そうした強い心を育てたのも空手にかける一途な気持ちだったのに違いない。

 

教室についての問い合わせ

東真会 カナダ支部  

1680 W 6th Ave. Vancouver  

604-781-9779  

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インタビュー中はニコニコと気さくで優しい國方さんだが、練習となると一気に切れの良い動作となり、見ている方も身が引き締まる

 

気合いの入った組手の練習

 

道場に掲げてある東真会の旗

 

 (取材 大島多紀子)

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