バンクーバー海洋博物館展示会 オープニング・レセプション

見えざる糸 

 

バンクーバー海洋博物館では、バンクーバー市と横浜市の姉妹都市提携50周年記念行事の一つとして、「見えざる糸、命の杉原ビザとバンクーバーまでの旅路」と題した展示会を開催中である。そのオープニング・レセプションが4月9日、同博物館で催された。出席者の中には、第二次世界大戦中のヨーロッパから、杉原千畝(すぎはらちうね)さんが発給した日本通過ビザを携え、横浜からバンクーバーまで到着したビザ受給者や子孫らの姿もあった。

 

 

杉原ビザ受給者と家族たち。在バンクーバー日本国総領事岡田誠司夫妻と共に

  

■杉原ビザ受給者と横浜、バンクーバー

 1940年、リトアニアの在カウナス日本帝国領事館で領事代理の杉原千畝さんが、ナチス・ドイツの迫害から逃れようとする多くのユダヤ系避難民に日本通過ビザを発給した。日本政府からの訓令に反した行為だったが、今日「杉原ビザ」あるいは「命のビザ」とも呼ばれるこのビザのおかげで、6千人以上の命が救われたと言われている。

 ソ連極東の港ウラジオストクから日本の敦賀に着いた杉原ビザ受給者らは、日本滞在中、次の行き先の国のビザを必死に探す。そして、幸いカナダの入国ビザを得た人々は、神戸や横浜から日本郵船の船でバンクーバーに着く。到着後は、さらにカナダ東部へ移動する者もあれば、そのまま当地に留まり新たな生活を築く者もあった。

 

 

レセプション開始のスピーチを行う バンクーバー海洋博物館ディレクターのケン・バートンさん

 

岡田総領事と出席者との会話に耳を傾けるノーミ・カプランさん(右)

 

■展示内容

 バンクーバー海洋博物館では、バンクーバーと横浜の繋がりを、杉原千畝さんの勇気ある人道的行為を通して知ってもらおうと今回の展示会を企画した。

 ユダヤ系避難民が逃亡中どのような経緯で杉原ビザを手に入れることになったのかや、杉原千畝や日本郵船の紹介などの話が、主にバンクーバーに住む9組のビザ受給者とその家族、また日本のNPO「杉原千畝命のビザ」、日本郵船歴史博物館などからも提供のあった当時の写真や書類のコピーと共に紹介されている。2012年、バンクーバー新報社が制作に協力した、7組の受給者家族による話の録画も開催期間を通し上映される。

 

 

ノーミ・カプランさん 1939年、逃亡中に滞在した街リトアニアのシャウレイで両親と兄と共に撮った写真の側で(カプランさんの右横、下の2枚)

 

ブラム・ラーマーさん 両親と兄のリトアニア安導券の側で

 

デボラ・ロス―グレイマンさん 1941年、神戸滞在中の母に、リトアニアの家族から届いたはがきを指差しながら。はがきの内容はイディッシュ語で書いてある

 

■歴史からの学びと、身近から知ったこと

 在バンクーバー日本国総領事館の後援で、展示会場で開かれたオープニング・レセプションには、在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏と寧子夫人、バンクーバー・横浜姉妹都市50周年記念プロジェクト・マネージャーのビル・マクマイケルさん、杉原ビザ受給者とその家族をはじめ100人以上が集い賑わった。

 岡田総領事はスピーチの中で、「この展示会は、杉原千畝という個人が信じた正義と、何千ものユダヤ系の人々との繋がりを物語っている。この話から、私自身、外交官として学ぶことがある」と言い、さらに「昨年は当総領事館開館125周年であったが、その歴史を振り返ると、戦後、カナダの日系コミュニティは復興していく過程で、ユダヤ系コミュニティから多大な援助を受けていた。ありがたく思うと同時に、両コミュニティのこのような繋がりを歴史を通し再認識した」と述べた。

 バンクーバー海洋博物館学芸員のダンカン・マックレオードさんは、「杉原千畝の話は当初知らなかった。しかし、準備を進めるうちに、杉原ビザ受給者やその子孫らが身近に住んでいることを知った。実際、私の学友の一人がビザ受給者の孫だと分かり驚いた」と話し会場を沸かせた。

 

 

展示パネルの説明を読む出席者たち

 

展示会についてのパネル

 

逃亡談についてのパネル

 

■「今ここに居るのは杉原千畝のおかげ」

 レセプションに出席したノーミ・カプランさんは、リトアニアで生まれた。1940年8月、父・兄と共に杉原ビザを受給。同年10月に日本に着いた。「敦賀に着いて、父に抱かれて船を降りると、見物していた日本人が私の髪に触れた」と、75年前の出来事を思い出す。そして、「私と私の子どもたち、孫や曾孫たちを合わせ23人がいるのは杉原千畝のおかげ」と話す。

 ブラム・ラーマーさんは展示されている家族の写真を見ると、いろいろな思いがこみ上げると言う。「ポーランドに残った家族を亡くし、その悲しみに生涯耐えていかねばならなかった両親。逃げることができなかった人々への悲しみ。その反面、私の家族をはじめ多くの人々を救った杉原千畝のような救済者がいたことへの喜び」と感慨を語る。

 デボラ・ロス―グレイマンさんは、「杉原千畝を讃えるため、日系とユダヤ系のコミュニティの人々と共にこの会場にいることに感激している。杉原ビザで母の命が救われ、そのおかげで私はこの世に生まれた。大切なことを教えているこの展示会を、一人でも多くの人に見てもらいたい」と熱く語った。  「見えざる糸、命の杉原ビザとバンクーバーまでの旅路」は7月1日まで開催される。

(取材 高橋百合)

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