日加関係について
 現在、日加関係は非常に良好な状態にある。貿易については、カナダからは、日本人の生活に根付いた農作物をはじめ、ウランや銅など鉱山資源を多く輸入している。石油や天然ガスはほとんど輸入していない。日本は製造業や鉱山業の分野でカナダに投資し、自動車産業だけでもカナダ国内で6万人の雇用を生み出している。貿易に関しては、今後さらなる成長を期待している。中でも、サイエンス・テクノロジー分野での積極的な協力が期待できる。省エネルギー技術、ライフサイエンス、ナノテクノロジー、宇宙航空産業などが有力分野となる。  ただ、今回強調したいのは、この良好な日加関係を両国の努力次第でさらに強力な関係として築けるのではないかということ。カナダは9000億ドルの貿易額のうち、約3分の2はアメリカとの取引で、日本は200億ドルでしかない。GDPでも、人口でも、アメリカの3分の1の規模がある日本とは、貿易額では単純計算の10倍とまではいかなくても、少なくとも数倍には増やせる可能性があるのではないかと思う。
 他にも、草の根レベルの活動として、JETプログラムや高校生交換留学プログラムなどの若者の交流も盛んに行われている。  民主主義国家であり、法治国家であり、人権を尊重するという共通の価値観を持つ国として、もっと発展的な関係が築けると思う。

安倍首相来加の成果
 こうした日加関係をふまえて、今年9月下旬に安倍首相がカナダを訪問した成果はどこにあったか。  
まず、経済関係では、エネルギー協力がある。最大の関心事は、カナダからのLNG(液化天然ガス)の安定的な供給を競争力のある価格で実現することであり、これは首脳会談で閣僚間協議を行うことが決まった。  
日加EPA(経済連携協定)についても話し合いが行われた。両国ともTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)にも参加しているが、日本としてはEPAの合意に向けて現状を前向きな状況と捉えている。  
今回の訪問で最も顕著な成果だったのは航空関係で、この会談でカナダの航空会社が羽田空港へ昼間に就航できるよう協議をする方針で合意。10月初めには、日本カナダ間に新路線が就航することが発表された。
 安全保障関連では、安倍首相は日本の「平和への積極的な貢献」や「集団的自衛権」についての自身の方針を説明し、ハーパー首相も「歓迎し支持する」と表明した。また、外務・防衛次官級の安全保障に関する定期的対話「2プラス2」を早期再開すること、自衛隊とカナダ軍が食料や燃料を相互提供する「ACSA(物品役務相互提供協定)」でも合意した。  さらに「北極評議会」についても話し合い、ハーパー首相は日本の参加を歓迎した。カナダは現在議長国を務めている。
 安倍首相とハーパー首相との会談では、国際的なアジア問題、中東、イラン、シリア問題についても話し合われるなど、会談内容は多くの課題をカバーし、成果の見えるものも多かった。その中で、日本にとっては、LNGの輸入をなるべく早く始めることが何よりも重要なことであり、大使としてはLNGプロジェクトが最優先課題であると考えている。  ブリティッシュ・コロンビア州のLNGの輸入は、日本にとって福島原発事故による短期的なエネルギー供給源としてではなく、長期的な視点に立ち、インフラ整備のための投資、長期契約など、両国間にとって経済関係をより強化するプロジェクトであると位置付けている。

カナダの重要性を伝える  
五カ月前に大使としてオタワに赴任し、カナダについて、カナディアンについていろいろと学んだ。その中で感じたことは、カナダの重要性とその実力が国際舞台では過小評価されているのではないかということ。そういう意味では日本と似ている。  
日本国民は、日本にとってのパートナーとしてのカナダの本来の価値をまだ分かっていないのではないだろうか。私は、大使としての役割の一つに、カナダの日本大使というだけではなく、日本にカナダの価値を伝えるということもあるのではないかと思う。

BC州公式訪問 ‐日系メディア取材から‐  
奥田大使は講演会の後、日系メディアの取材に応じた。バンクーバーでの滞在についての感想を聞かれると、「面白かった。これまでのところ非常に楽しく過ごしています。二日間ですけど」と語った。  バンクーバーを訪れるのは今年6月に続いて2回目。今回は公式訪問で、BC州クリスティ・クラーク州首相をはじめとする州政府首脳との会談や日系関連施設への訪問、ファーストネーションズのLNG会議にも出席。6日から12日までバンクーバーに滞在し、11日には茂木経産相とオリバー天然資源相のLNGに関する会談、記者会見も行われた。
 バンクーバーの印象としては、日系プレース、スティーブストン、アレキサンダー日本語学校、パウエルストリートなど、日系に関係する場所を回り、その歴史に触れ、改めて日系カナダ人を身近に感じたと感想を語った。今年はリドレス運動(1988年)から25周年にあたり、オタワで式典があり、それにも参加して、少しずつ日系人に対する理解が進んできたと思うと語った。  
日加関係については、講演内容と重複するところが多かった。日加関係は、カナダの原材料、日本の工業製品という経済的に補完的関係であることで成り立っているところがあるが、それ自体は、「同じ価値観を共有する両国の関係促進のための一つの道具として非常に重要だと思う」としながらも、そういう関係を長期にわたってやりながら、国際上でもっと協力できる関係にしておかなければいけないと思うと語った。  
さらには、講演でも述べたように、カナダをどう見るかについて、「日本国民、日本政府はもっとよく真剣に考えて、カナダは日本にとってもっともっと重要だ、今まで考えているより重要だと認識していく必要があるのではないか」とカナダの価値について改めて強調した。  「お互いに両国に対するイメージは非常によく、そういう意味ではいい関係を築けている。しかし、それを維持するだけではもったいない、いい関係という「資産」を増やしていくように何かするべきではないのかというのが、私の担っている役割ではないかと思っている」とも。  
その具体的な方法はまだ考えていないとしながらも、カナダから首相や閣僚が何度も訪日しているように、日本からも閣僚級が来て、カナダ国内を回ることが重要だと思うと自身の考えを述べ、「日本のオピニオンリーダー、マスコミに大きな影響を持つ人たち、評論家、ジャーナリスト、学識経験者みたいな人がもっとカナダに来て、カナダについてまじめに考えて、国民を啓発してくれる活動があるといいなと思いますけどね」と語った。     
(取材 三島直美)


奥田紀宏(おくだ・のりひろ)在カナダ日本国大使
プロフィール
1975年東大法学部を卒業し、外務省に入省。アフガニスタン駐箚特命全権大使、中東アフリカ局長、国際連合日本政府代表部次席代表、特命全権大使(国連次席大使)を経て、前職はエジプト駐箚特命全権大使。今年4月18日に在カナダ日本国大使に就任。

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