合意なしで離婚、慰謝料なし
まず『離婚、合意書、親権、面接、養育費、財産分与』というタイトルで最初に説明を行ったのは、支援団体として参加したYWCAのサポートワーカー、加瀬広海さんだ。離婚については、カナダでは相手の合意がなくても、子どもに関する事柄が決まっていれば離婚できるそうだ。ドラマなどで「離婚届に判子を押してくれない」というシーンが登場する日本でも、相手の合意なしで、離婚原因があれば調停・審判・裁判離婚ができる。興味深いことにカナダではお互いの非、すなわち離婚の原因は問われず、慰謝料もない。あるのは養育費とスパウザルサポート(扶養的財産分与)だ。
離婚については、夫婦のいずれか一方が、BC州で12ヶ月以上居住している場合は、1年以上の別居、不貞行為、精神的または肉体的虐待のいずれかがあれば、可能だと説明。「ただし、虐待などは証明が難しいため、1年以上の別居をすることで離婚するケースが多いのが実情です。」と加瀬さん。
日本の協議離婚に該当する離婚をカナダでする場合は、Separation Agreementと呼ばれる合意書を作成する。この合意書は、親権、子どもの養育、面会交渉、養育費・スパウザルサポート、財産分与など別居・離婚に関する取り決めを書面にしたもの。これを裁判所に登録すれば強制執行力がある。養育費とスパウザルサポートに関しては、FMEP(Family Maintenance Enforcement Program)に申し込めば、自動的、強制的に取り立てが行われる。その際、裁判所の命令又は裁判所に登録した合意書が必要だ。未払いが起きる前、裁判所命令が出た後や合意書を裁判所に登録してすぐにFMEPに加入することも可能だ。カナダでは免許証やパスポートが更新されなかったり、給料の天引きなどが行われ強制力が強いと言えそうだ。
離婚・別居の際、金銭的な面で対等に交渉できるよう、日頃から相手方の財政内容を把握しておくことも大切だ。たとえば、FMEPのウェブサイトでEnrolment Packageをあらかじめ見ておき、必要な情報を調べておくことも有効だと語った。「車のライセンス番号やクレジットカード、所有している不動産などの情報も記入するようになっています」。
面白いのは合意書の作成時期だ。離婚しようと決めたときに限らず、同居を始めたときや、結婚前でも可能だ。
親の面会権がしっかりと認められているカナダでは、子どもに会わせないのはNGだ。「日本だと、養育費を払わないなら会わせないという人もいますが、カナダではこれは重大な問題に該当し、最高で5000ドルの罰金が課せられることもあります。」と警告した。面会の取り決めについては、平日は母親、週末は父親というのではなく、公平に、週末は父親、母親交互に、そして春休み、夏休み、冬休みなどは半々などが一般的だ。
養育費は支払う側の収入と子どもの数に基づき決められる。日本では20歳まで支払われるが、カナダでは19歳までだ。ただし、19歳以上でもフルタイムの学生なら養育費は支払われる。歯や病気になったときの治療費など、基本の養育費以外に特別な支出があった場合は、その支出を誰が支払うのか、互いに分配するのかなどが決まるまでは、領収書を取っておく必要がある。
国籍喪失者の旅券使用・申請には重い罰
次に総領事館、領事相談員の荻島光男さんから、子どもの二重国籍についての話があった。二重国籍の場合、一個人に対し、複数の国家の制度が重複して適用される可能性が考えられ、例えば、A国では既婚でB国では独身ということも起こりうる。
「総領事館では、『日本はいつになったら二重国籍を認めますか』といった質問を受けることがありますが、この先のことについては分かりません」という。現在、二重国籍を認めている国は、多くの移民を受け入れているカナダを含め、約90カ国のみだ。
日本国籍と外国籍を有する重国籍者は、22歳になるまでに(重国籍になった時が20歳以降であればその時から2年以内に)どちらかの国籍を選択する義務がある(国籍法第14条)。
なお、日本国籍のみを有する者が、自己の志望によって外国籍を取得した時は、日本国籍を喪失する(国籍法第11条)。「日本国籍を喪失したことを隠して、日本のパスポートを使用したり、新たに申請又は取得した場合、旅券法違反(5年以下の懲役、若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科の対象となる)(旅券法第23条第1項第1号)となります」と注意を呼びかけた。
他国籍を取得した元日本人が、簡易帰化が適用され、日本に3年以上居住することで、日本人国籍を再度取得することも可能だ。
子どもの留守番が虐待になりかねないカナダ
続いて、ハーグ条約の話の後、Vancouver & Lower Mainland Multicultural Family Support Service Societyから、子どもに関する法律と社会サービスの説明があった。
日本の児童相談センター、児童相談所に相当するサービスを行っているのは、Ministry of Children and Family Development (MCFD)だ。相談所は各市に設置されており、カナダでは19歳未満の子どもに関するあらゆる相談に応じ、各種専門機関に引き継ぐ。
子どもの虐待には、殴る、蹴る、物を投げるなどの身体的な虐待、継続的に批判する、あるいは脅すといった精神的、心理的虐待、そして、ポルノを見せたり、売春をさせるといった性的虐待搾取がある。
両親の暴力の現場にいたり、口論を聞くことも子どもの虐待に該当する。ほか、子どもの留守番や一人で登校するなど、日本では頻繁に行われていることでも、カナダでは状況次第で通報の対象になることもある。「年齢は定められていませんが、11歳から12歳ぐらいまでは一人にしないほうが妥当でしょう」。
子どもが虐待されている、又は育児放棄がある場合、もしくはそのような可能性がある場合は、MCFD(310-1234 エリアコードなし)に通報しなければならない。その際、通報者のプライバシーは守られ、調査の結果、子どもに危険がなくても、通報者は罰せられない。また、夫婦間における暴力について警察が通報を受けた場合、暴力の現場に子どもがいたことが分かると、警察はMCFDに通報しなければならない。
通報があった場合、ソーシャルワーカーは、速やかに子どもの安全・状況を確認するための調査を行わなければならない。調査は、あらかじめ電話で連絡がある場合と、突然、家に来る場合の両方があるそうだ。ソーシャルワーカーは、親から話を聞き、家庭内の様子や子どもの様子を見て、必要に応じて対応する。
突然ソーシャルワーカーが来ると慌てがちだが、まず落ち着く必要がある。「通報された場合は、落ち着いて事実をできるだけ正確に伝えるため、通訳者や弁護士、友人などサポーターに同席してもらってください。英語に自信がないときなど、無料で通訳を手配してもらうこともできます。また、通報された場合、分からないことは分かるまでソーシャルワーカーに質問してください。さらに、近所の人や友人、保育関係の人など、子どもに関係する人が集まり話し合うケースカンフェレンスの要求をすることもできます。ここでは、参加者一人一人が、子どもの環境が良くなるために自分には何ができるのかを話し合います。行政にこうしなさいといわれる形でサービスを受けるのではなく、子どもが心身ともにより良い環境で暮らすためには自分に何ができるのかを話し合います」。
その後、質疑応答、個別相談があり、『一人で悩まないで…』という趣旨の子育て支援セミナーは好評のうちに幕を閉じた。離婚に向けて準備中という参加者Aさんは、「基本的なことを網羅した内容だったと思います」と語った。
(取材 西川桂子)