トロント出身で劇作家だった三輝さんが桂三枝(2012年に6代目桂文枝を襲名)の名で知られる落語家のもとに弟子入りを果たし、下積みを経験して桂三輝の名を手にしたのは6年前。今は日本内外で落語を演じてきた彼の姿をYou tubeでも数々目にすることができる。日本人の振る舞いと落語のスタイルを熟知した演じっぷり、外国人の視点による、彼ならではの創作落語の面白さ――独自の魅力を放つ三輝さんに、落語家になるまでのいきさつや、今回の公演について話を聞いた。

 

―カナダでは劇作家、作曲家として活動していた三輝さんが、日本に関心を向けたきっかけは何ですか?

カナダで作っていたミュージカルは古典ギリシャの喜劇を翻訳した作品でした。その古典ギリシャの作品と日本の能楽や歌舞伎がたまたま似ているということを、ある論文で読みました。それがきっかけだったんです。歌舞伎をちょっと勉強しようと思って、ワーキングホリデービザで日本に来て、日本の文化を学びながら、大学で演劇を教えていました。そして初めは6カ月の滞在のつもりが、今では14年になってしまいました。

 

―落語のどんなところに魅力を感じたのですか?

着物を着て、座布団に座って、扇子と手ぬぐいしか使わず、このシンプルな形でお客様の想像力を借りて面白い世界を作るのが素晴らしいと思いました。そして伝統もあり、演劇の部分もあり、コメディーでもありと、落語に出会うまでに私の興味のあったこと、愛していたことのすべてが落語の中にあったのです。

 

 

―落語家のもとに弟子入りする前にアコーディオン漫談もしていたそうですが、自分でアコーディオンを演奏していたのですか?

アコーディオンはたまたま子供の時からやっていますので、落語会の仕事に呼ばれるために、とりあえず漫談をやっていたんです。そのお陰で落語会の楽屋にも入れたし、落語の世界のしきたりも味わえたし、落語家と仲良くなれたし、いっぱい学ぶことができました。

 

―そのアコーディオン漫談や英語落語はどんなところで披露していたのですか?

神社、お寺、ローカルなホールなどの小さい落語会でやっていました。

 

―桂文枝師匠のもとに弟子入りを果たすまでのストーリーを聞かせてください。

師匠の創作落語にほれまして、天満天神繁昌亭という大阪の寄席の楽屋口で師匠を待っていました。師匠が着きましたときに土下座して、「三枝師匠!弟子にして下さい!」と大きい声で言いました。師匠は何も言いませんでした。とりあえず師匠のお仕事に勉強しに行ってもいいと言われました。それで毎週『新婚さんいらっしゃい』のテレビ収録に行きました。テレビ局の舞台袖に3時間立って収録を見て…。毎週師匠からいただいた一言は「よかったら来週も来て」、それだけ。これが8カ月続きました。そしてやっと師匠は、「本当に修行したいなら、入っていいよ」とおっしゃった。人生の忘れられない日でした。

 

―弟子入りして最初にたたきこまれたのはどんなことですか?

敬語で話すのが難しかったです。ちゃんと敬語を使わないと師匠に非常に失礼なので、それで苦労しました。そして自分の思いを抑える、自分の意見を言わず、自分の存在感を出さず目立たない、なんでもさりげなくする。これは日本の修行ですが、すべて難しかったです。

 

―落語の世界に入ってみて感じたことを聞かせてくれますか。

一門、つまりうちの師匠と師匠の弟子、私の兄弟子、姉弟子、弟弟子、本当に家族だということは素晴らしい。失敗すると必ず厳しく教えられますが、困ることがあれば必ず助けてくれる。そうやって師匠からいただくご恩がすごいんです。落語の世界に入らないと分からないんですが、自分の人生はすべて師匠のお陰、恩返しできないほど師匠からもらっているんです。そのことがすごいと思います。

 

 

―師匠からの教えで一番感動したことはどんなことですか?

師匠は私に「お前、『カナダ人だから』という言い訳はこの世界では通じないよ」とよくおしゃっていました。つまり日本人じゃないから別扱いされると思ったら大間違いだということ。師匠はいつもカナダ人弟子として扱っていたのではなくて、弟子の中のただ一人、みんなと同じく扱ってくださったことにとても感動していました。そのお陰で、落語の世界の先輩方、師匠方、後輩方、皆もそうなりました。それはとても感謝しています。

 

―得意の演目は?

師匠の創作落語の「生まれ変わり」です。

 

―日本人から笑いを引き出すツボと北米の人から笑いを引き出すツボの違いについて、どう感じていますか?

実は、日本人とカナダ人の笑いが違うと思ったことが間違っていたんです。400年前から語り継いできた落語という日本の話芸は本当に素晴らしいです、どこでも通じると思います。ですから英語で演じる時、カナダで演じる時に、できるだけ落語そのままでやったほうが間違いない。カナダ人のために落語を変えるとか、アレンジするとかではなくて、落語を信じるべき。カナダで公演してからの一番大事な発見です。

 

―吉本興業の地域振興のプロジェクトで現在三重県伊勢市に住んでいるそうですね。伊勢での暮らしや伊勢での活動の面白さについて聞かせてください。

伊勢神宮があるので、伊勢の人はいい意味で凄くプライドを持っている。昔から旅人をもてなすことになれています。私は伊勢の古い家を寄席小屋にしたかった時に、伊勢で出会った友達が、ボランティアで舞台や客席、つまり寄席を作ってくださり、とても感動しました。

 

―カナダでの公演ではどんな演目を計画していますか?

演目は舞台に上がって、お客様を見てから決めるんです。

 

―それは日本語で行う演目ですか?

英語で演じるつもりです。

 

―三輝さんの公演紹介のために読者に一言メッセージをお願いします。

皆様、落語は日本の素晴らしい笑いです!同じ話でも、演者によって違うんです、何回聞いても面白い!ぜひサンシャインの輝いている落語を聴きにいらして下さい!

 

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今回北米で精力的なツアー活動を行う三輝さん。「いつかはニューヨークのオフブロードウェイに寄席を作って、英語落語を」、そして「『Rakugo』が英語で通用する言葉に」という三輝さんの夢が叶う日も遠くはないようだ。

 

桂三輝さん落語公演予定
(後援 在バンクーバー日本国総領事館)

 

8月30日(金)

午後7時開演 入場無料
会場:スティーブストン仏教会(4360 Garry Street, Richmond, BC)

 

8月31日(土)

午後7時開演 入場無料
会場:日系センター(6688 Southoaks Crescent, Burnaby, BC)

 

日系祭りの催しとして開催。

 

桂三輝(かつら・サンシャイン)さん プロフィール

カナダ・トロント生まれ。トロント大学で古典文学を専攻後、劇作家・作曲家として活動。1999年に来日。落語の魅力にひかれ、自らもカナダ亭恋文(かなだてい・らぶれたー)、楽喜亭三陀(らっきーてい・さんだー)の芸名のアコーディオン漫談の活動を開始。2007年大阪芸術大学大学院舞台芸術研究科に入学し、創作落語を学ぶ。2008年、桂三枝の元に弟子入り。三枝師匠から桂三輝と命名され、上方落語界で唯一の外国人落語家となる。2012年7月から三重県伊勢市を本拠地にテレビのレギュラー出演や落語の公演で活躍中。

 

(取材 平野香利、写真提供:桂三輝さん)

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