バンクーバー周辺では、エスニック・コミュニティに関連したフェスティバルが数多く催されているが、パウエル祭は最も長い間継続しているものとして、毎年楽しみにしている市民も非常に多くおよそ1万2000人の人々が訪れた。今年も開会式の前から、ぞくぞくと人びとが集まり始め、オッペンハイマー公園やファイアーホール劇場、バンクーバー仏教会やバンクーバー日本語学校など、関連会場を訪れ、和太鼓からアニメのコスプレ・ファッションショーまで、多彩なプログラムに大きな拍手や歓声が広がっていた。

 

オッペンハイマー公園とパウエル祭

パウエル祭の運営に携わる人々のほとんどはボランティア。当日も交通整理からゴミの収集まで、多くの人が積極的にお祭りを支えていた。第一回から運営にかかわり、今回もインフォメーションブースで会場案内などを担当した日系三世のマユミ・タカサキさんは、「パウエル祭が37回目を迎えたということは、人間でいえば大人になったということですよね。雰囲気やプログラムの内容が変化するのは当然です。でも、この祭が『日本の祭の真似』ではなく、『日系カナダ人独自の文化やアイデンティティを表現する場』だという、パウエル祭の基本的な考え方は全く変わっていません。」と語る。

 

パウエル祭をオッペンハイマー公園で催すことにこだわるのにも深い意義がある。この公園周辺は第二次世界大戦が始まるまで、数多くの日系人が暮らすジャパンタウンだったエリアだ。日系人が体験したさまざまな差別、第二次大戦中の強制移動、強制収容は、カナダの歴史の大きな汚点。日系人の苦しみと、リドレス運動などを通じてそれを克服していく過程は、他のエスニック・コミュニティにも強い影響を与えている。今年の開会式においても、挨拶に立ったロバート・ジョセフ博士は先住民の立場から、日系人の体験を忘れず、人種差別などの人権問題の解決に生かすことの重要性を指摘した。同じく、開会式の来賓として挨拶に立った在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏も、最初の在バンクーバー総領事館がパウエル街に設立されてから来年で125周年となることに触れ、日本とカナダとのつながりの深さを強調した。
パウエル祭をきっかけに、多くの人が過去の歴史を振り返り、未来に生かしていくためにも、オッペンハイマー公園での開催は必然と言ってよいだろう。なお、祭のプログラムの中には、パウエル街の歴史散歩、日系人の強制移動の集合地となったPNEグラウンドの歴史散歩なども含まれており、今回も多くの人が参加した。

 


 


 


 


 

祭の日は誰もがチャンピオン!

パウエル祭が始まった背景には重い歴史があるが、もちろん祭はおおらかな笑顔の集う場だ。多くの知人や友達に一度に会えるチャンスでもある。法被を着て神輿を担ぐ人、かわいらしい浴衣や甚平を着た子供たちが走る姿、相撲にチャレンジする人たちの真剣な顔も印象的。茶道のデモンストレーションや盆栽、生け花の展示など、日本の伝統がカナダで生き生きと活かされている姿を見ることができるのも、パウエル祭らしさだ。ストリート・ダンスグループのロブソン800や、アリサ青木、ダグ・コヤマなどのアーティストのパフォーマンスも、日系カナダ人の文化の幅広さと層の厚さを感じさせる。
また、さまざまなブースを見て回るのもパウエル祭の楽しみの一つ。食べ物のブースはどこも常時長い列ができるほどの人気だ。クラフトのお店の他に毎年見逃せないのが、隣組やJCCAなど、コミュニティ活動を行っているグループのブース。パウエル祭で展示を見たことがきっかけとなって、ボランティアなど、コミュニティとの関わりを深めた人も少なくない。今年、特にたくさんの人が集まっていたのが、「ジャパンタウン再生リサーチプロジェクト」のブース。このプロジェクトは、パウエル街周辺のコミュニティ再活性化のために、社会経済的な考察ばかりでなく、コミュニティの歴史的背景の調査から、住民それぞれが自らの伝統に基づいた健全な食生活をおくるための研究まで、幅広いリサーチを行っているプロジェクトだ。パウエル祭協会もJCCAやナショナル日系博物館&ヘリテージセンター、バンクーバー日本語学校などと並んでこのプロジェクトに協力しており、パウエル祭のような催しが、地域活性化に果たす役割の重要性が注目されている。
今年のパウエル祭のテーマは「チャンピオン」だった。日系カナダ人が歩んできた苦難とその克服の過程を讃え、祭の場に集う全ての人びとの心の中に輝く、それぞれの『チャンピオン』の栄光を讃えようというもの。パウエル祭の期間中、オッペンハイマー公園にあふれた笑顔は、まさに人生のチャンピオンにふさわしいものだった。

 

 

 

 

(取材 宮田麻未◇写真 神尾明朗)

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