お母さまがピアノの先生ということで、影響はありましたか?
家にあったレコードをよくかけました。特にオーケストラの曲『ペール・ギュント』、『ピーターと狼』など物語がある曲が好きでした。
オーケストラの音色でまず目立ったのが弦楽器だったのでバイオリンをやりたいと両親に言ったところ“弦楽器は高い”というイメージがあったため、家にあったピアノを始めることになりました。するとオーケストラのような音色、管楽器、打楽器、弦楽器全部をイミテートすることができるこの楽器のおもしろさを知りました。当時は蛇口をひねって水の音を音楽にするなどの実験や作曲にも凝っていましたが(笑)ピアノで奏でる音楽にどんどん惹かれていきました。
10歳でドイツへ行ったそうですね。
9歳のときにケルンで客演する機会があり、それがきっかけでドイツの同世代のバイオリニストやチェリストとすっかり仲良くなりました。
2回めにドイツに行ったときケマリング教授を紹介され「僕のところで勉強しないか」と言われました。私がまだ小さかったので母が一緒に来てくれたことに感謝です。
ドイツの印象は?
午後は学校がないので、音楽に専念できると感じられました。
最初はドイツの子の積極性と個性に驚きましたが、そのうち自分の意見を言うことや、自分自身でいることが大切なことが徐々にわかってきました。
当時は餃子の皮も売っていなかったので、小麦粉をこねるところから母と作ったのを覚えています。豆腐も作りました。
今住んでいるミュンヘンは人々がとても暖かく、ビールがとても美味しいです。オペラが終わって歩きながら感想を会話して、地下鉄の駅にトコトコと向かう夫婦の素朴な雰囲気、音楽が日常にあるような感じが大好きです。
日本語学習はどうしましたか?
小学校の担任の先生に漢字のノートをもらったものの、ドイツではそれ以外続ける余裕がありませんでした。20歳のときに本を書くチャンスがあり(『情熱のカデンツァ』NHK出版)、そのとき初めて日本語と正面から向き合ったと思います。
ピアニストになりたいと思った年齢は?
自己表現の場が音楽であり、それ以上に自分にしっくりくるものがないことは12~13歳のときにわかったと思います。
フルトヴェングラー、シューリヒト、シュナーベルなど亡くなった音楽家から影響を受けていると思います。ブルックナーにはまっています。残念ながらピアノ曲はほとんどないのですが。オーケストラや室内楽の曲を聴くことによって、ピアニストの演奏は変わってくると思います。
演奏旅行で気をつけていることは?
時差ぼけが激しいときは、日中は起きているようにしています。夜眠れないときは音楽をかけたりします。でも夜中の3時にラーメンが食べたくなったり、いつの間にか座ったまま寝ていたりなどはしょっちゅうです。
公演前はバナナを1本食べます。それから毎回同じ靴を履きます。
ピアノリサイタルとオーケストラとの共演ではどんな違いがありますか?
リサイタルは自分の世界をひとりで作り、自由に演奏できるという魅力があると思います。オーケストラと弾くのは、対話や室内楽的な要素が私にとって魅力的で、オーケストラの響に包まれるような空間はたまりません。
小澤征爾氏など著名な方と仕事をしていますね。
私は体中が音楽の人が好きです。勿論伝統は大事ですが、規則や自身の虚栄にとらわれず、とにかくその作品の素晴らしさを伝える、音楽に熱中して今の年齢の自分を素直に表す、そういうことが大事だと思います。そのような観点の指揮者にめぐまれたとき、幸せです。
小澤先生は、必ずソリストをよく聴いていてくださいます。オーケストラを完璧に一体にする、またその集中力にすごいエネルギーを感じます。そういう方の音楽を通じて私がもらう刺激は計り知れないものがあります。
バンクーバー公演についての豊富を。
今ベートーベンの全ソナタの演奏会とレコーディング、5年がかりのプロジェクトの最中なのですが、今回弾くベートーベンの協奏曲第3番も、私にとってとても大事な曲です。人情の深いベートーベンの世界を皆様と共有できることをとても楽しみにしています。
ケンさんは、パリで初めて彼のコンサートを訪れたときにエネルギッシュな指揮にとても感銘を受けました。VMOと弾くこと、バンクーバーを訪れるのは初めてです。どんな人々が待っているのか楽しみでなりません。
若手トップ・ピアニスト、小菅優さんについて
「小菅優さんは若手のトップ・ピアニストです。繊細さを保ちながらも、楽器を操る強さを持っています。小澤征爾氏の指揮で『メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番』(ソニー)ほかをリリースしましたが、それはすばらしいものです。
5月24日のコンサートでは、VMOがベートーベンの『ピアノ協奏曲第3番』を優さんと共演します。この機会にぜひ、バンクーバーのみなさんに優さんのピアノを聴いてもらいたいと思っています」
ケン・シェ氏(VMO音楽監督・首席指揮者)
「小菅優さんがデビューされたころ、私が読売日本交響楽団のゲスト・コンサートマスターをしていたときに共演しました。「優秀なピアニストが現れた!」という第一印象を今でも覚えています。
今回、日本を代表するピアニストに成長された小菅さんとバンクーバーで再び共演できることを喜んでおります。素晴らしい演奏が期待されますので、ぜひ多くの方に聴いていただきたいです」
長井明氏(VSO終身名誉コンサートマスター)
小菅 優(こすげ・ゆう)
今、最も注目を浴びている若手ピアニスト。05年カーネギー・ホールで、06年ザルツブルク音楽祭でデビュー。デュトワ、小澤等の指揮でベルリン響等と共演。10年ザルツブルク音楽祭出演。12年紀尾井シンフォニエッタの米国ツアー、13年ウィーン室内管と共演、ウィーン・デビュー。10年ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を開始。最新盤は「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集第2巻『愛』」(ソニー)。 第13回新日鉄音楽賞、04年アメリカ・ワシントン賞、第17回出光音楽賞受賞。
VMO バンクーバー・メトロポリタン・オーケストラ
岡部守弘記念コンサート
5月24日(金)7:30PM 開演(7PM会場 コンサートトーク)
ショーネシー・ハイツ・ユナイテッド教会
(1550 33 Ave W Vancouver, BC)
指揮:ケン・シェ
コンサートマスター:長井明
ピアノ:小菅優
ベートーベン・ピアノ協奏曲第3番、交響曲第4番ほか
チケット:$25
電話(604)876-9397
オンライン購入: www.vmocanada.com