現在池田さんの作品がウエストバンクーバーミュージアムで展示されると聞きました。

今展示させてもらっている作品は「Meltdown」という作品で、もともと日本の展覧会のために描いていたんですが、ウエストバンクーバーミュージアムの渡辺さんとのご縁で日本に出品する前に一ヶ月だけ展示させてもらうことになりました。あと、これに加えて、版画の「領域」も展示しています。

この「Meltdown」はどういう意味合いが含まれているのですか?

原発の「Meltdown」です。ちょうど去年の夏カナディアンロッキーに行ったんですが、見たことのない水の色や岩山の塊など自然の風景に圧倒されました。岩の塊を見たときには町の塊のように目に映り、その後、氷河の氷が解けて水が湖に流れているのを目にして原発の「Meltdown」を連想しました。ロッキーの壮大な自然と原発の環境汚染が頭の中で重なった瞬間です。それから4カ月半で仕上げました。

ではこれは福島原発をイメージしたものですか?

そうではありません。原発による環境汚染は世界中のどこででも起こりうることです。だから日本だけに限定したくはありません。見る人それぞれに、自然と人間との共存について考えてもらえたらなと思っています。

今回の作品は今までの作品とちょっと違う感じがしますが…

今回は初めて挑戦したことがたくさんあります。まずは湖や山を入れて風景画のように仕上げたこと。僕の絵の多くは日本の国土ような、狭い部分にたくさんのモチーフがひしめき合っているのを描いた作品が多いのですが、カナダにいるのだから、カナダの壮大な空間を活かして、カナダっぽいモチーフで描いてみたいという思いがありました。あと今まで画用紙(フランス製美術用紙「アルシュ」)に直接描いて、絵がだんだん出来てくるという感じ、いわば完成予想図がないまま描き続けて、途中で「あっ!これにしよう」と固めていくのですが、今回は最終イメージがすでに出来ていたので、下書きはしていませんが、イメージに沿って描きました。

作品をじっと見ると、見覚えのあるものがポツリポツリと出てくるんですが、もしかして―?

そうです。バンクーバーやロッキーで見た景色を混ぜています。グランビルアイランドの桟橋にくっついている貝殻から連想した家々や、グラスマウンテンのスカイライド、ノースバンクーバーにある硫黄の山など所々に隠れています。僕の作品は数ヶ月から数年かかるものもあって、そのときそのとき自分の身近に起こったことが日記のように絵の中に詰まっています。例えば「予兆」を描いたときは結婚して子供が出来たので、神社での結婚式の様子やお腹の中の胎児も含まれています。あと「存在」ではカンボジアやタイへ取材旅行に行ったときに見たものが反映されています。ただ今回の作品に関しては、経験を通して目にした風景は入れていますが、日記のように自分の周囲で起こったとはあえて入れませんでした。テーマが原発から来ていて、 かなり真面目な内容だったので。

面白いですね。次は何が出て来るんだろうって探してしまいます。もしかしてどの作品にも毎回共通して隠しているものはありますか?

あります。僕のサインです。この「学」をちょっと崩したものが絵のどこかに隠れています。僕の展覧会に来てくれる常連の人たちは、そのことを知っているので、毎回サインを探してますね。

そうですか。私の場合、探すのに数時間、いや数日ほどかかってしまいそうな気がします。それにしても、池田さんの作品は、すべてがあまりにも小さいので、これを仕上げようとなれば本当に気の遠くなるような作業のように感じるのですが・・・。ある批評ではこの作業が「修行」という言葉で表現されていました。

人が思うほど苦痛じゃないですよ!もちろん細かいので時間はかかって当たり前ですが、描いているときは、どんな絵が描けるかなとワクワクして描いてます。それに小さいときから細かいものを描いたり見たりするのが好きなので、この技法は自分にあっていると思います。

今後もバンクーバーを拠点に描き続けられるのでしょうか?

もともとバンクーバーヘは日本の文化庁から1年間の研修制度で来ていました。僕の場合は人間の生活と自然の共存というテーマだったので、都市でありつつも自然に囲まれているバンクーバーに興味があり、ここを選び制作しました。研修後もそのまま滞在を1年ほど延長したほどですが・・・実は今年ウィスコンシン州のマディソンに引っ越すことになりました。そこにある美術館から公開制作の依頼が入り、3年ほど滞在する予定です。
見れば見るほどその絵の虜になってしまう―。そんな力強い魅力を持つ池田さんの作品は、今や日本は言うまでもなく、世界中から脚光を浴びている。「天才」とも称されるだけに、今回ウェストバンクーバーで作品がお披露目されるのは、住民にとってまたとない機会となるだろう。是非、この機会に池田さんの世界を体験して欲しい。

(取材 小林昌子)

West Vancouver Museum

680 17th Street,West Vancouver,
604.925.7295

開館時間

火〜土 11pm〜5pm / 日・月・祝は休館 2月23日(土)まで展示

池田学プロフィール

1973 佐賀県多久市生まれ
1998 東京芸術大学美術学部デザイン科卒業
2000 東京芸術大学大学院修士課程修了
2011 文化庁新進芸術家海外研修制度によりバンクーバー在住

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。