着物をほどく
手入れが大変、着付けが出来ない、などの理由でたんすの底に眠っていることが多い着物。日本ではこうした着物をほどいて作るリメイク・ドレスが、結婚式のお色直しやパーティードレスとして注目されている。
バンクーバー在住の文江 ヴォン デーンさんが着物からリメイクドレス制作を始めてから20年以上になる。もともと祖母が大切にしていた着物をほどいた着物地を使い洋服を作り、日本でFumieブランドを立ち上げ、ショップで売っていたのが始まりだ。
1日約1枚の着物を丹念にほどいていく。これまでにほどいた着物は、何百枚にも及ぶ。
水通しをしてアイロンをかけ、色落ちするもの、しみが取れるもの、取れないものに仕分けする。「江戸時代中期の着物を洗ったら、溶けたことがありました」
こうして用意した長さ12メートル、幅35センチの着物地。無駄が出ないよう色や柄を上手に利用し、出来るだけリバーシブルで着られるデザインを心がけている。
東北に残る着物や反物
古美術商の免許を持つ文江さんは着物、反物を求めて日本へ買い付けに行く。その多くが20年から100年というビンテージもの。行き先の多くは出身地の仙台を中心とした東北だ。
「戦争中、疎開した人がお芋と引き換えに着物を置いていったことから、東北にはいい着物がたくさん残っています。100年前の着物が民家のお蔵に眠っていることもあります」
その道の先輩から着物の見立て方を教わり、着物のオークションにも出向く。中には漆(うるし)を織り込んだ着物など、世界に1品というような掘り出し物もあるという。
絹へのこだわり
『ちりめん』と呼ばれているものでもポリエステルだったり、海外でシルクと呼ばれていても化学繊維が入っていることがある。文江さんがこだわりたいのは絹(シルク)。特に体にやさしい素材の正絹(しょうけん)に興味がある。
絹はたんぱく質で出来ているので麻のように強く、アイロンで伸ばすのも一苦労。また、非常に目が細かく、ふつうのマチ針では通らないため絹用の針を使う。「絹は扱いにくいので、自分で失敗しながら学びました」
「着物の素晴らしさを引き立たせたファッション」
まい子・ベアさん(日本文化芸術専門 和英翻訳家)
文江さんのファッションの良さは、やはり第一に元の着物の素晴らしさ(生地、形、紋様、織り、染めなど)を見事に引き立たせていることだと思います。
選り抜いた数々の着物の布地をもとに、自分が見出しているそれぞれのものの良さをいかに伝えるか。それによって、かえってユニークでより目を引くデザインを生み出しているのではないかと私は思います。
作品の形は、元の着物の生地を出来るだけ守り、捨てられてしまう残布の出ないように心がけられているほか、着物と同様にシンプルで自由に着られるものに変身させられています。つまり文江さんのファッションはただの着物のリフォームではなく、忘れかけている正絹の着物の性質の良さ、代々伝わってきた職人の巧みな技を再び生き返らせている芸術であると言えるでしょう。是非とも一度文江さんの作品をご覧になり、着物の良さを再発見してみて下さい。
「素材を生き返らせたリメイク」
ケイコ・ボクソールさん(ファッション・プロデューサー)
今回、バンクーバーの個人宅で開いたファッションショー&販売会で、モデルの指導をしたファッション・プロデューサーのケイコ・ボクソールさん。
「文江さんの作品は皆さんが想像する以上に大変な作業の作品です。日本の文化芸術を大切にしながら、色使い、それに素材をよく考えリメイクし、また生き返らせています。もっともっとこちらの人に見ていただきたいと思っています」と話している。
1.絞りと絽を組み合わせたポンチョ 2.小紋を使ったブラウス。うすいブルーが品の良さをかもし出す 3.松葉の色無地を使ったドレスとスカーフ 4.高級感たっぷり!光沢のある手織り紬のロングドレス 5.総絞りのリバーシブルドレス 6.木版染めのオレンジ・リバーシブルドレス 7.手織り紬のチュニックと紬のスカーフ 8.手描き友禅の留振ドレス 9.ファッションショーで解説を務めたまい子・ベアさんは漆塗りを織り込んだ着物地を使ったトップを着用
Fumie von Dehn文江(ふみえ)ヴォン デーンさん
仙台出身。カナダ人と結婚後も仙台を拠点にスタイリスト、レストラン経営などに携わり、2000年ごろから着物からのリメイクドレスを制作。2005年、家族でカナダに移住。www.fumie.weebly.com