2020年1月1日 第1号

2019年7月にBC州のスポットライト・アワーズの新人賞を受賞して新報インタビューに応えてくれた吉田真由美さん。脚本・監督・主演した短編映画『あかし』は、その後もバンクーバーをはじめ各映画祭で俳優賞、監督賞、脚本賞など多くの賞を受賞した。11月はロサンゼルスの映画祭に招待され、ハリウッド通りにある世界的な劇場TCLチャイニーズ・シアターでも上映された。11月6日、カリフォルニア州のロサンゼルスのルーズベルトホテルで、アマゾン・テレビドラマ『The Man in the High Castle高い城の男』シーズン4のプレミアを終えた吉田さんに話を聞いた。

 

︎赤いドレスが似合う2019 © Charles Zuckerman

 

主題は『ストーリーテラー』

 女優として活躍した『高い城の男』はシーズン4がシリーズ最後となり今年で全ての撮影が終わった。吉田さんはそのかたわら、声優としてNetflixのアニメシリーズ『Hello Ninja ハロー・ニンジャ』にも出演していた。そこでも2役をこなした彼女の多才さが伺える。

 バンクーバーとロサンゼルスを常に行き来している吉田さん。一言で『ラッキー』と言ってしまえばそれまでだが、外部から見るととても大変そうな仕事。特にハリウッドは敷居が高く、過去の栄光を保つ仲間意識を持った者が少なくもない。男優でもアジア人としてなかなか満足な仕事をもらえる場所ではない。だがストレスどころか、むしろ自分は楽しんでいると話す吉田さん。その理由を聞くと、監督と脚本をしたおかげで視野が広がり、役者として撮影の在り方が理解できた。さらに役者をしてきたことで、今度は監督として俳優たちとのコミュニケーションがしやすくなったという。

 その言葉通り吉田さんは、女優、監督、声優、脚本、プロデューサーと多くの帽子をかぶって仕事をこなしている。自分の能力を養うためにマルチを目指すアーチストはいるが、道が少しずれて自分の夢見ていた場所にたどり着かないことが多い。吉田さんはとりあえず何でもするのではなく、ストーリーテラーという主題を心がけている。それ故に彼女の心中でエンジョイしながら働く姿勢は変わらないのだと教えてくれた。

 「これは相乗効果です。全ての経験がプラスに働いて良い影響を与えてくれるんです」とさわやかに答えてくれた。そして「読者の皆さんも何でも自信を持って挑戦して下さい」と言ってくれた。問題にぶつかってもそれをチャンスと見る、さらにあきらめなければ必ずどこかで開いているドアにたどり着くというポシティブ思考はぜひ見習いたいものだ。

映画について

 監督として4作目となる『Tokyo Lovers』は、Nach Dudsdeemaytha監督・プロデューサーとの共同作品で、恋愛に行き詰まって悩む一人の女性のクリスマスを描くロマンチックな映画。昨年11月末にバンクーバーのファンのためにVimeoで公開されたこの作品は東京、京都、神奈川と3都市で撮影されたもの。公開後すでにバンクーバーのアジア映画祭で演技賞、東京では監督賞をそれぞれ受賞している。 

 また最新作『In Loving Memory』は、20年前に家を出て行った父親の遺体と対面する女性のお話。これはウィスラー映画祭で12月にワールド・プレミアされた作品。『Kim's Convenience』のAndrea Bangさん主演で、彼女の姉Diana Bangさんと吉田さんが共同で監督製作している感動物語。

 さらに昨年10月はバンクーバーで開かれた48時間映画祭に初めて参加した。それはこれまでの予定になかった出来事で、「初めてホラー映画を撮ったんです」と吉田さんは照れ笑いした。タイトルは『Trim』で、自分のルックスに執着した女性を描くホラー映画。この作品はなんと映画、脚本、演技部門で独占受賞している。映画祭側に権利があるため公開はまだ未定。

 そして吉田さんが最近書き終えた脚本は長編作版の『あかし』。短編が大ヒットしただけに今は慎重なミーティングを重ねている最中。今年撮影・製作に取り組む予定だそうだ。

私生活とのバランス

 新年の抱負について尋ねるとふと時間をおいて「やっぱりバランスが大事ですね」と答えた吉田さん。いろいろな仕事をしながら感謝するかたわら、オフの時間も同じように大切にしたいと話した。特に普段仕事に没頭しすぎていると時々周りが見えなくなってしまう。一歩引いて余裕を持つことを昨年の夏から心がけているそうだ。また私生活を充実させると、自然に新しいアイデアも生まれてくる。これからも自分自身がインスパイアされる時間を持ちたいと締めくくった。

 吉田さんの元気なパワーの源は、プライベートな自分も大切にしているからという雰囲気が伺えた。インタビューが終わった後、「あなたのお時間をありがとうございました」と丁寧にお礼を言ってくれた吉田さん。記者の時間を考慮してくれる女優さんはまず少ない。これが彼女の人柄で日本やアメリカに招待される人気の秘密なのだろう。地元バンクーバーの日系有名人を代表する女優・監督の吉田真由美さんをこれからも応援したい。

(取材 ジェナ・パーク)

 

 

︎俳優に演技指導する吉田さん 2019 © Immyyoume

 

︎物姿の吉田さん 2019 © Wendy D Photography

 

︎『Tokyo Lovers』Nach Dudsdeemaytha監督と 2019 © Immyyoume

 

︎映画『あかし』の女優としての吉田さん 2019 © Immyyoume

 

︎笑顔もさわやか 2019 © Jan Colango

 

︎映画『あかし』撮影時の吉田監督 2019 © Immyyoume

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。