2019年9月12日 第37号
8月22日、バンクーバーにあるMOSAICで日加ヘルスケア協会主催の座談会が開かれた。今回は、バーナビー・ジェネラル・ホスピタルに勤務するナースプラクティショナーのスティーブン橋本さんを講師に迎えて、胃と腸の主な病気の症状や予防法、大腸がんのテストについての説明がおこなわれた。約30人の参加者は熱心に耳を傾け、質問も多く寄せられていた。(メディアスポンサー:バンクーバー新報)
︎講師のスティーブン橋本さん
気になる胃腸の話を分かりやすく説明
座談会の始まりは、アンダーソン佐久間雅子さんがリードするマインドフルネス瞑想。自分の呼吸に意識を集中させる瞑想を15分ほどおこない、心を静めてリフレッシュした気分になったところで、この日の講演がスタートした。
講師のスティーブン橋本さんは、代表的な胃腸の疾患を紹介し、さらに大腸がん検査について説明した。
主な胃腸の疾患
・逆流性食道炎 (Gastroesophageal Refulx Disease、略してGERD)
胃酸が食道に逆流する疾患で、胸やけ、胸痛、胃酸や食べ物の食道への逆流、嚥下困難、吐き気、咳、のどの痛み、声がれといった症状がある。原因は不明であるが妊娠、腹部ヘルニア、喫煙が大きく関係しているといわれている。
避けたほうがよいものは、アルコール、チョコレート、カフェイン、脂っこい食べ物、トマトの入った食べ物、柑橘類など。また、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンといった薬も避けたほうがよいが、他の疾患を治療するために処方、服用している場合、摂り続けるかどうかを医療機関で相談してほしい。生活上気をつけたい点としては、食べた後すぐ横にならない、少ない量の食事を数回に分けて食べる、定期的な運動をして体重を減らすということ。現在の体重の5〜10%くらいを減らすだけでも効果はあるという。
治療には胃薬を服用する。酸の値を下げる抗酸薬、H2受容体の働きを止めるH2ブロッカーといったものが市販されている。また処方薬では、胃の細胞の酸を出す部分の働きを止めるプロトンポンプ阻害薬がある。
・消化性潰瘍(Peptic Ulcer Disease、略してPUD)
胃や十二指腸の粘膜に潰瘍ができる疾患。みぞおちに腹部痛といった症状があるが、罹患している人の70%が自覚症状がないので、症状が出るとすでに進行している可能性もある。非ステロイド系消炎剤(NSAIDsーアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン等)の服用やピロリ菌に感染していることが原因とされている。ストレスも関係しているとよくいわれるが、その因果関係ははっきりしていない。合併症としては、消化管出血、貧血、消化管穿孔がある。治療には原因となっているものを除去することが挙げられる。
・ピロリ菌感染(H.Pylori Infection)
ヘリコバクターピロリ菌の胃への感染で、日本では1950年以前生まれの70〜80%、1950〜60年生まれの45%、1960〜70年生まれの25%が感染していたといわれる。胃痛、腹部膨満感、吐き気、嘔吐、食欲不振、タール便といった症状がある。合併症には、胃・十二指腸潰瘍、消化管からの出血またはそれによる貧血、胃がんといったものがある。除去するには抗生物質など4種類の薬が2週間分処方される。
・胃がんのリスク要因
ピロリ菌感染、塩分の高い食事、加工食品(缶詰、瓶詰、ソーセージなど)、アルコール、たばこといったものがリスクを高めるものとされている。また、家族にがんの既往歴がある人、一般に東アジア人(日本・中国・韓国)は胃がんのリスクが高い。リスクを下げるには野菜、果物、繊維質のものを多く摂りバランスの良い食事を摂ることが大切である。
・下痢
大抵の下痢はウイルスや細菌による一過性のもので、特に治療はいらない。原因となる菌はノロウイルス、大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ、O-157など多数あり、症状は嘔吐、水様下痢、炎症性下痢(便に粘液や血液が混じる)。細菌感染のものは抗生物質を服用するが、その他の場合は対症療法となる。ただし、脱水症状がひどい、下痢が24時間以内に6回以上起こる、腹痛がひどい、粘液や血液が便に混じる、熱が38.5℃以上(高齢者の場合37.5℃以上でも)、70歳以上の高齢者、糖尿病や心臓病を罹患している人、妊婦、症状が1週間以上続く場合、またレストラン、ヘルスケアやデイケアで働く人は、医療機関に相談したほうが良い。
対症療法は水分補給だが、スポーツドリンクやコップ一杯の水に塩と砂糖をひとつまみずつ入れたものを摂りたい。必要に応じて市販の下痢止めの薬を飲んでも良いが、炎症性下痢の場合は飲まない方が良い。
・過敏性腸症候群 (Irritable Bowel Syndrome、略してIBS)
慢性的な下腹部の痛みと、便秘傾向、下痢傾向、便秘と下痢の混合型といった排便状態の変化がある。さまざまな食事療法(FODMAP)で対処する。豆類・麦類・りんごや梨などの果物・糖類を除去する、おならを多くする食品(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ等)、アルコールを除去する、乳製品を除去するといったものがある。また、これらの食品を絶対に摂らないというのではなく「なるべく摂らない」という程度にしたLowFODMAPという療法もある。また適度な運動も有効だ。症状を抑えるために、市販の下剤、下痢止めの薬、鎮痙攣薬(けいれんを抑える薬)を取ることもできるだろう。抗生物質や抗うつ剤が処方される場合もある。
大腸がんテスト (FITテスト)
このテストは50歳から74歳までの人が対象で、通常2年に1回受ける。この検便検査にあたって食事制限や鉄製剤の摂取制限はない。もし、この検査で陽性(Positive)となった場合、内視鏡検査(Colonoscopy)を受ける。
大腸がんになるリスクとしては、遺伝、高身長、赤身の肉や加工肉、運動不足と肥満、繊維不足な食事、アルコール、たばこ、糖尿病、乳がん・卵巣がん・子宮がんの既往、潰瘍性大腸炎・クローン病、大腸ポリープ・アデノーマなどの既往が挙げられる。
大腸がんの予防には、野菜・果物・繊維質の多い食べ物・魚を摂る、運動と体重の減少などがある。また、家族の遺伝要因が大きいので、例えば親が60歳未満で大腸がんになっていたら、その年から10年さかのぼった年齢、または40歳時(どちらか早い方)から5年おきに内視鏡検査を受けるようにしたい。もし親が60歳以上で大腸がんになっていたら、40歳から2年ごとにFITテストを受けることが勧められる。
この講演は、知識として知っておきたい胃腸の疾患について分かりやすいていねいな説明や、市販薬と処方薬の名前なども挙げて役に立つ情報が満載だった。日加ヘルスケア協会では、病気などについてのセミナーや座談会のほか、健康的な暮らしのための役立つ情報を発信している。入会申込みや問い合わせは、This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.まで。
(取材 大島多紀子)
座談会では健康や医療に関する話題を取り上げて毎回好評を博している