2019年6月27日 第26号
6月17日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市のDunbar Community Centreで、Vancouver Arts Colloquium Society (以下、VACS)代表の本田惠子さんが主催する、「IKIGAI」 ワークショップ第2回目が行われた。
ワークショップを楽しむ本田さん
「あなたの生きがいは何ですか?」
「IKIGAI」ワークショップは、VACSのインターン生(大学生)が主にプレゼンテーターを務め、プレゼンテーター各人の「生きがい」について発表し、参加者との対話を重ねるといった内容である。本田さんが「IKIGAI」ワークショップを開催する目的は主に2つある。
1つは、変化の激しい予測不可能な現代を生きる若者が、日本特有の「生きがい」のコンセプトを基に、人生に価値や意義を与えるものは何かを熟考し、自分の中にある資質や価値を見い出し表現することによって喜びや充足感を得られる場を作ること。
もう1つは、「あなたの生きがいは何ですか?」と問うことにより、お互いがお互いの生活の質をより良いものにできるという意識の変化をもたらし、地域のソーシャルサポートネットワークを強めていくことだ。
本田さんは、2002年にニューヨーク市ニューヨーク大学で公衆衛生学博士号を取得後、2007年まで、ニューヨーク市コロンビア大学で癌の予防医学研究に従事していた。癌の背景となる生理、心理、社会にわたる多因子的なメカニズムを実証的、体系論的に解明する研究領域で、予防要因の特定と効果的な癌の予防、診断、治療の示唆に貢献してきた。当時から、ソーシャルサポートネットワークがそれらに重要な予防因子であることは理解しており、2007年に本田さん自身が車いすを必要とする生活が始まってから、さらにソーシャルサポートネットワークの大切さを痛感したという。
2009年にバンクーバーに移住し、ニューヨーク在住時代に体験してきた、オープンで自由にアイデアを交換できる社交の場をつくるべく、自宅でカルチャーサロンを定期的に開くようになった。通算150を超える開催から、クリエイティブで楽しい場作りが、ソーシャルサポートネットワークの強化に繋がり、自分だけでなく多くの人の生活の質の向上に役立っていると、本田さんは実感する。
そして2014年、非営利団体Vancouver Arts Colloquium Societyを立ち上げ、現在まで、様々な地域活性のプログラムを創造、提供してきた。「IKIGAI」ワークショップもその一貫で、特に、今の若者に必要なものは、自分にとっての「IKIGAI」を見出す方法を模索し、自己を知り、社会にどう貢献できるかに気づくことであると、本田さんは考える。
ユーモアを実感すること
今回の「IKIGAI」ワークショップには、9名が参加し、うち4名がプレゼンテーションを行った。出身国の文化や歴史に触れながら、自分のIKIGAIについて語る者もいれば、現在大学で専攻している分野の面白さについて、グループワークを取り入れながら自分のIKIGAIを共有する者もいた。
例えば、UBCで国際関係を専攻するメキシコ出身のエレーナさんは、家族や友人たちが集い、故人への思いを馳せて語り合うメキシコの祝日「Day of the Dead(死者の日)」がメキシコ特有のユーモアな文化であることを示しながら、日々、ユーモアをいかに実感することが、生活の質を高める鍵であることを熱く語った。
“フォー”が生きがい
ベトナムの麺料理である「フォー」のシェフを目指していた(現在はUBCで国際政治学を専攻)というベトナム出身のマークさんは、フォーがどれだけ歴史的植民地支配下でベトナム国民の個性の存続、希望、誇りとなったかを振り返り、食を通して、多文化の理解と発展にも貢献したいと語った。
遊ぶアートで創造性を高める
UBCでMediaを専攻するアメリカメリーランド州出身のエリンさんは、20世紀の芸術思潮の一つの超現実主義(Surrealism)に魅了され、不条理で非論理的、矛盾を表現する独自のシュルレアリスムを探求し、身近なモチーフで遊ぶアートを日々描いているという。遊びの表現が、日々の生活や創造力に影響していると感じているそうだ。その遊び心を参加者にも体験してほしいと、グループワークを企画した。
3名を1グループとし、三等分になるように折ったB3紙の一番上の1/3ページに、好きな絵を(真ん中のページに少しだけはみ出すように)描き、次の人がその絵を見られないように、描いたページを折って次の人に回す。次の人は、はみ出した絵に繋がるよう、真ん中の1/3ページに好きな絵を(一番下のページに少しだけはみ出すように)描き、最後の人に回す。同様に、最後の人は一番下の1/3ページに好きな絵を描く。そして紙を広げると誰もが予想できなかった不思議な絵ができており、参加者は「遊び」が創造力を養うことや、エリンさんの生きがいについて理解を深めた。
自己を知る時間をもつということ
「あなたの生きがいは何ですか?」という問いは、すごく深い意味を持つものではないだろうか。記者がそう聞かれたとき、「未だ自分の知らない世界を知ること・体験すること」だと答えるだろう。しかし、その次に「なぜそれがあなたの生きがいなのですか?」と聞かれれば、理由はたくさん出てくる。発見が楽しいから、より熱中できるものに出会える可能性にわくわくするから、自分とはちがう価値観を持つ人に出会うことで自分を客観的にみることができるから、何かに挑戦することでたくさんのことを学べるから…。さらに「なぜ?」を何度も繰り返すと、自分の生きがいの根底が見えてくる。自己を知り、何を軸に楽しく幸せであると感じているのか、自分は周りや社会にどう貢献することができるのか。自己を知る時間をもつことは、普段は意識していなかった・気づいていなかったことが見え、自分が今何をすべきなのかがわかってくる気がした。
「IKIGAI」ワークショップは、今年いっぱい、第三月曜日に同場所で行われる予定。すべての人にオープンであり、参加費は無料となっている。
(取材 わしのえりか)
右から本田恵子さんとインターン生のエレーナ・デルリベロさん、アロン・ジェーコブ・ランピトックさん、エリン・マックグリンさん、マーク・レさん、ダスティン・マッククリンドルさん
プレゼンテーションをするエレーナさん
グループワーク完成しました!
エリンさんのグループワークの完成
エリンさんのグループワークで絵を描く本田さん