2018年6月21日 第25号

バンクーバー市ガスタウンにある家具・インテリア店Inform Interiorsで、6月13日と14日、日本から伝統工芸の職人さんによるワークショップとトークショーが開催された。京都と滋賀から4人が来加、それぞれ2回ずつワークショップを行った。

Inform Interiorsからの招きで今回バンクーバーを訪れたのは、開化堂の八木隆裕さん、中川木工芸比良工房の中川周士さん、金網つじの辻徹さん、公長齋小菅(こうちょうかいこすが)の小菅達之さん。伝統工芸を受け継ぐ若い後継者が、それぞれの持つ技術や素材を国内外の企業やクリエイターに提供するプロジェクトユニット「GO ON」に属している。海外にも広く日本の高品質の工芸品を知ってもらいたいと考える4人に話を聞いた。

 

左から、辻徹さん、八木隆裕さん、小菅達之さん、中川周士さん。中川さんは、祖父の代に取引があった人の子孫の方が訪ねてきたという。思いもかけなかった出会いにとても喜んでいた

 

海外の人たちと日本人の反応の違いは?

 八木「バックグラウンドや、そのものを知っているかどうかは別にして、モノに対してダイレクトに自分が好きか嫌いか、自分の生活の軸に対してイエスなのかノーなのかという感覚でモノを選んでいると思います」

 中川「日本だと桶というと懐かしいものというふうに考えられるのが、海外の人の目線だと新しくてアーティスティックなものという感覚がありますね」

 小菅「国によっては竹というのは伝統的な素材、古くから使われている素材ですが、ロンドンなんかではモダンな素材、全く目新しい素材だと言われるんです。行く国々で反応が違います」

 辻「生活の道具としてみてもらえるというのが結構あると思います。こちらの人の『いいよね』という反応は『自分の生活に取り入れたい』の意味だというくらい、はっきりしている気がします。そういうダイレクトな消費者の声はすごく大事だと思ってます」

工房の見学もされるということですね。

 八木「これからみんなでやりたいと考えているのは、世界のクラフト(手工芸)の立ち位置を上げていくこと。そのためには世界の現状を知っておきたいと思い、工房を見て回るツアーをお願いしました。職人だけでなくアーティストの方ともお会いする予定で、海外における職人とアーティストの感覚の違いとかを肌で感じたいですね」

 辻「今はインターネットが普及して、どこのこともすぐに写真などを見れるけど、実際にその場所に行って、そこの空気感とか人の優しさとかを感じることにも価値があると思います」

Inform Interiorsとの関わり

 中川「今までクラフトというのは地域性が非常に強かったけれど、もっと流動性が出てきた中で、モノ作りが販売などにも、いかに関わってくるかということも、これからは大事なんじゃないかと。ここはそういうことをすごく意識してやっているお店だなと感じましたね」

 八木「オーナーは自分たちのことを、エディット、つまり編集のプロフェッショナルなんだと言います。それがこのような店の存在価値であると。職人さんたちやそのモノ作りと関わっていくスタンスから、長い時間をかけて一緒にやっていけるという気がします」

今後の展望を

 八木「ワールドスタンダードになりたいですね。良い入れ物として世界中に知れわたりながら、買える場所が限定されているようなもの。あまり大きくなり過ぎないようにしたい」

 小菅「世界で最もクリエイティブな竹籠のブランドになりたいですね。そうすることで日本の竹産業をけん引していくような存在。そのためにも海外でいろいろチャレンジして吸収し、製品の開発に生かすというサイクルでやっていきたいです」

 辻「使う人のことを考えて、デザインも使い勝手を意識して工夫していきたいです。使うことを考えずにデザインされたものは、見た目は格好良くても閉鎖的だったりして道具としての役割を果たせない。作り手も幸せ、使い手も幸せというようなものを作りたいですよね」

 中川「木って身近な素材で加工もしやすいので、他の工芸素材に比べても価値が低く扱われているところはあるんですね。そんな木の価値を大きなものにしたいです」

 

ワークショップ

 ワークショップは、八木さんが銅板を金づちで叩いて成形して作る小ぶりのプレート、中川さんはスプーンやフォークなどのカトラリー、辻さんは豆腐すくいをそれぞれ作成するという内容。そして小菅さんは竹籠を使った生け花を紹介。どの回もあっという間に予約が入り、キャンセル待ちの人も出たという。

 どの作業でも取り組んでいる参加者の姿勢は真剣そのもの。日本の手仕事に高い関心を持っている人たちが参加していることがうかがえるのと同時に、モノを作り上げる楽しさをみんなで共有するという雰囲気に満ちあふれていた。

 

たくさんの人を迎えて

 14日に行われたトークショーでは、会場を埋めた来場者を前に、それぞれが自己紹介や職人としての仕事に対する姿勢などを話した。

 京都で木桶を作る工房として始まった中川木工芸の3代目となる中川さんは、現在滋賀県に自身の工房を構えている。木桶の良さを多くの人に再確認してもらうためにも、伝統の技術と現代の生活に合ったデザイン性を組み合わせることを目指しているという。美しいフォルムと、結露しにくい機能性を持つシャンパンクーラーKonohaは、ドン・ぺリニヨンの公式クーラーに認定された。これが中川さんにとって海外進出への足がかりになったと話す。職人による手仕事の世界は、世界をつないでいくものだと考えており、ここバンクーバーならグローバルな大きな動きが生まれる可能性を感じると力強く語った。

 父が興した金網工芸工房の2代目である辻さんは、以前は全く違う仕事についていたり、ジャマイカに滞在するなど異色の経歴を持つ。まだ若い会社がこの先も順調に成長し、継続していくかどうかは2代目の自分にかかっていると感じているという。そして今の時代に合った、消費者に喜んで使ってもらえる製品を作っていきたいと話した。海外進出にも意欲的で、実際にその場所に足を運んで自分の目で見たり、現地の人たちと話したりすることで得られるものを大切にしたいと考えていると語った。

 創業1898年、120年の歴史を持つ公長齋小菅は竹製品を扱うメーカー問屋。小菅さんは5代目にあたる。日本人の生活に古くから親しまれてきた竹という素材の素晴らしさを引き出しつつ、さらなる可能性を追求したいと語る。50年ほど前、日本で商品として初めて手がけられた黒い竹籠は、今も古さを感じさせずモダンな空間にもしっくりと合う。今後もユニークで新しいものを生み出していくために、異素材を組み合わせるなど革新的な取り組みをしていきたいと話した。

 1875年に創業した茶筒メーカーである開化堂を受け継いだ八木さんは、英語も堪能。Inform Interiorsのオーナーとも長い付き合いだといい、昨年も同店でトークショーを行っている。開化堂の茶筒は真鍮、銅、ブリキなどを使っており、創業時からその形は変わっていないという。こうした鉄素材は色が経年変化し、それがまた味わい深い。上蓋の重みで自然にゆっくりと閉じていく蓋が特徴的だ。高い気密性を持ち、茶葉だけでなく、コーヒー豆や、パスタ、乾物などの保存容器として使える多彩なデザインとサイズを揃えている。来春、限定数販売されるパナソニックとのコラボ商品のブルートゥースのスピーカーを八木さんが紹介すると、会場には驚きと感心の声が上がった。

 今回紹介された工芸品の数々には、先人の技術を敬意をもって受け継ぎつつ、革新的なアイディアと融合させながら次の世代へとつなげていく職人の心が息づいているのを感じた。

(取材 大島多紀子)

 

しっかり編み込まれて使いやすそうな金網つじの製品

 

美しいフォルムが印象的な中川木工芸のシャンパンクーラー

 

生け花のワークショップ。使用した花や葉は小菅さんが前日に市場で仕入れてきたという

 

木工芸のワークショップ。お店のスタッフも参加した

 

美しい色合いと網目をもつ公長齋小菅の竹籠

 

開化堂の茶筒。開け閉めするときの感覚も気持ちがいい

 

「本物」の良さを知るカナダ人がたくさんいることを実感!

 

読者の皆様へ

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