作風
小津監督が好むジャンルは「庶民劇」であり、中流階級の人々をテーマにしているものが多い。西洋では、同じような題材はソープオペラや低俗なコメディーになりがちだ。しかし、小津監督は普通の人々に焦点を当てながら、この上なく感動的な素晴らしい映画を数多く制作した。それは、筋書きよりも人物・会話・観察などを大切にした映画であると言える。テーマは、家族であり、世代間のギャップによる衝突、結婚あるいは死によって引き起こされた平凡な家族の危機についてである。
また、小津監督は固定したカメラを使って低い位置で撮影する手法を好んだ。地面から90センチほどのところに設置されるが、これは畳に座った際に人間の目線に対応した高さである。作品は、たいへん注意深く精密に制作されている。また、穏やかで静観的に描写されている。小津監督作品の映画批評で名高いDonald Richie氏は「小津監督の映画作品は、黒澤監督と全く対極をなす」と言及している。
上映される作品
秋日和 (Late Autumn)
上映スケジュール
10月28日(金) 6:45PM
10月29日(土) 9:00PM
11月1日(火) 8:50PM
1960年/ カラー/ 35ミリ/ 128分/ 英語字幕付き
監督:小津安二郎
出演: 原節子、司葉子、岡田茉莉子、佐田啓二、笠智衆
作品解説:
小津監督による後期作品の典型ともいえる映画。洗練された穏やかさに、ユーモアと優美さが備わっている卓越した作品である。小津監督は、「人間は時々、容易なことでも、難しくしがちである。複雑に思える人生も、実はとても簡潔であるということを、私はこの映画で描きたかった」と述べている。
ある未亡人が周囲の協力を得ながら、同居している年頃の娘のために見合いを斡旋しようとする。母との生活を大切にしたい娘は、自分の結婚を急いではいなかった。しかし娘は、母が再婚をするものと早合点をしてしまい…。
秋刀魚の味 (An Autumn Afternoon)
上映スケジュール
10月28日(金) 9:10PM
10月30日(日) 6:45PM
11月1日(火) 6:45PM
1962年/ カラー/ 35ミリ/ 112分/ 英語字幕付き
監督:小津安二郎
出演: 笠智衆、岩下志麻、三上真一郎、佐田啓二、岡田茉莉子
作品解説:
小津監督が制作した最後の作品。美しく撮影されたカラー作品である。「ありのままの日本を完璧に表現した偉大なフレスコ画の最後のパネル」と、Donald Richie氏はこの映画について語っている。献身的な娘のために、見合いを準備する男やもめについての話である。小津監督の作品で1930年代から頻繁に主要な役を演じてきた笠智衆が、加齢や孤独という現実に直面する男やもめを演じている。
彼岸花 (Equinox Flower)
上映スケジュール
10月29日(土) 6:45PM
10月30日(日) 8:50PM
1958年/ カラー/ 35ミリ/ 118分 英語字幕付き
監督:小津安二郎
出演: 山本富士子、田中絹代、佐分利信、有馬稲子、佐田啓二
作品解説:
小津監督初のカラー作品。小津監督が晩年に撮影したいくつかのカラー作品と同様に、赤い色を好んで表現している。「赤の色合いがおおよそ10個ある。赤が好きな人々は天才か狂人のどちらかだ」と小津監督は語っている。ニューヨークタイムズのVincent Canby氏は、「作品中の父親は、これまで小津監督が制作してきた人物と同じように魅力的で、演技は完璧だ」と述べている。 現代的な若い女性が自分の選択で結婚したいと考えている。母は理解を示すが、頑固な父は自分の許可を得ずに婚約したことを主な理由に反対するのだが…。
お早よう (Good Morning)
上映スケジュール
10月31日(月) 6:45PM
11月2日(水) 9:10PM
1959年/ カラー/ 35ミリ/ 94分 英語字幕付き
監督:小津安二郎
出演: 笠智衆、三宅邦子、久我美子、佐田啓二
作品解説:
小津監督が制作した50番目の作品。1950年代の郊外を舞台に、世間話や人付き合いの機微といった作法についてのコメディー。「小津映画の中で最もかわいらしく、風変わりで、快足な映画の1つである」とThe Rough Guide to FilmのLloyd Hughes氏は述べている。 父がTVを買うことを拒否した後に、2人の少年は無言を通すという誓いを立て、反抗を試みる。少年達がいつもの朝の挨拶「お早よう」に対しても拒否する姿勢は、すぐに近所でも問題となり…。
東京暮色 (Tokyo Twilight)
上映スケジュール
10月29日(土) 4:00PM
10月31日(月) 8:30PM
1957年/ 白黒/ 35ミリ/ 141分 英語字幕付き
監督:小津安二郎
出演: 原節子、有馬稲子、笠智衆、山田五十鈴、田浦正巳
作品解説:
小津監督が制作した最後の白黒映画であり、最も暗い映画の1つと言える。西洋的なメロドラマの筋書きを取り入れようと試みた作品と言える。 男やもめで、年老いた父は2人の娘と暮らしている。長女は、不幸せな結婚で、最近実家に戻ってきた。次女は妊娠したが、恋人に捨てられ、中絶を考えている。次女は、その事実を父や姉に伝えてはいない。実の母に関する衝撃的な真実が、姉妹を打ちのめすのだが…。
早春 (Early Spring)
上映スケジュール
10月30日(日) 4:00PM
11月2日(水) 6:30PM
1956年/ 白黒/ 35ミリ/ 145分 英語字幕付き
監督:小津安二郎
出演: 池部良、淡島千景、岸惠子、笠智衆、加東大介
作品解説:
「東京物語」の後に制作された作品。サラリーマンの日常を描いている。「生活の悲哀と呼ばれるものを、この作品で示したかった」と小津監督は語っている。「非の打ちどころの無い演技。小津監督の素晴らしい『早春』は、全く新鮮で現代的」とニューヨークタイムズのNora Sayre氏は評している。 仕事や妻にうんざりしているホワイトカラー労働者が、同じ会社の女性と浮気をしてしまう。彼の結婚生活に危機が訪れるのだが…。
上映館インフォメーション
Pacific Cinematheque(パシフィック・シネマティーク)
#200-1131 Howe Street Vancouver, BC Canada V6Z 2L7
Tel: 604.688.8202
(資料・写真提供:パシフィック・シネマティーク)