どのようなきっかけで着物からドレスを作るようになったのですか?
母方の祖母が着物を大事にしていたことから、母も叔母もたくさん着物を持っており、母が着物の生地を使って布絵(タペストリーのようなもの)を作るようになり、着物の収集も始めました。
それらを見ていて着物に興味を持つようになりました。着付けが大変な事や、クリーニングもメンテナンスも必要なので、たんすにしまったまま日の目を見ない着物が多く、もったいないと思い、着物をほどいて服を作るようになりました。それが好評で、2000年から仙台にある友人のブティックで販売するようになりました。
着物の調達はどうしているのでしょうか?
古美術商の免許を持っているので、反物や着物の買い付け、着物のオークションに行ったりします。大正浪漫のころの鮮やかな色使いが好きです。
洋裁はどこで習ったのですか?
短大の授業で習いましたが、あとは母から教わりました。また、絹は扱いにくいので、自分で失敗しながら学びました。
今まで何枚くらい着物をほどいたのですか?
400枚くらいでしょうか。1日、約1枚の着物をほどきます。その後、水通しをし、アイロンをかけ、色落ちするもの、しみが取れるもの、取れないものなどを仕分けします。
着物の布地を切るときは、はさみでなく洋裁用のカッターを使います。絹は非常に目が細かいので、ふつうのマチ針では通らないので、日本から絹用の針を持ってきています。
どんな発想でドレスをデザインするのでしょうか?
デザインそのものよりも、色や柄を上手に利用することから考えます。洋服のようにカーブが入ると生地に無駄な部分が出来ますが、着物地(長さ12メートル、幅35センチ)を出来るだけ無駄にしないようにデザインに工夫しています。また、ロックミシンをかけず、縫い代の始末にも気を使い、できればリバーシブルで着られるデザインを心がけています。
斬新なデザインの服も作りたいと思っていますが、紬(つむぎ)で作ったフォーマルドレスなども喜ばれています。
シルク(絹)にこだわると聞いていますが。
お土産やさんなどで売られている『ちりめん』にはポリエステルのものが多いのですが、本当の絹のちりめんや江戸ちり、手で時間をかけてつむいだ結城紬などを見ているうちに、正絹(しょうけん)に興味を持つようになりました。
他の国では『シルク』と呼ばれるものでも、化学繊維で出来ているものもあります。また、着物も正絹でないものもありますが、出来るだけ絹にこだわっています。
絹はたんぱく質で出来ているので、麻のように強く、アイロンで伸ばすのも一苦労ですが、体に優しい素材の正絹を使いたいと思っています。
リバーシブルのスカーフも外国の方に受けているようですね。
夏はノースリーブに合わせたり、冬はカシミアのセーターやコートの上にはおったり、巻き方でいろいろなアレンジができるように作っています。外国の方に、日本の伝統美を知っていただけたらと思っています。
作品をお店に出す予定はありますか?
カナダに来て最初の4年間はずっと作り続けていました。作品が充分にたまったところで個人宅でファッションショーと販売をしてきました。これからもこうしてお客さまとのつながりを大切にしていきたいと思っています。
将来、店舗販売が出来ればいいと思っています。
(取材 ルイーズ阿久沢)
Fumie von dehn文江 (ふみえ)ヴォン デーンさん: 仙台出身。カナダ人と結婚後も仙台を拠点にスタイリスト、レストラン経営などに携わり、2000年ごろから着物からドレスを制作。2005年、家族でカナダに移住。